10.7.2015
注目を浴びる「サファイアクリスタル」について知ろう ~サファイアガラスと呼ばれる素材とは?~
Komehyo
ブログ担当者:須川
スイスの時計業界も新ジャンルの「スマートウォッチ」に注目しており、タグ・ホイヤーはインテル、グーグルと協力してスマートウォッチを作ると発表しています(※1)。そして、今年はApple社からスマートウォッチが発売されましたが、そのアップルウォッチのディスプレイへの採用もあり、注目を浴びるのが素材があります。
それは
「サファイアクリスタル」
です。
実際に、サファイアクリスタル採用の「Apple Watch」か、Ion‑Xガラス採用の「Apple Watch Sport」で迷った方も多いのではないでしょうか? 「サファイアクリスタル」は、別名「サファイアガラス」とも呼ばれており、高級腕時計のほとんどのモデルの風防に採用されています。
今週はこの「サファイアクリスタル」について書きたいと思います。
↑サファイアクリスタルとは?
■時計の風防の種類は?
時計の文字盤の前面を覆っている部品のことを、時計業界では「風防(ふうぼう)」と呼びます。いわゆる「ガラス」の部分のことなのですが、厳密にいうと「ガラス」は非結晶の物質であり 、「サファイアクリスタル」は結晶構造をもつ物質ですので、その部分を正確に表現すると「ガラス」とは呼べない場合があります。「風防」という言葉の方が、「時計の部品名」の一般名称としては理想的です。しかし、前述したように「サファイアクリスタル」も通称で「サファイアガラス」と呼んでおり、「風防」のことを「ガラス」と表現しても問題はないと思います。
時計の風防には大きく分けて3つの種類があります。サファイアクリスタルを理解するためには、その他の風防と比較することが近道だと思いますので、下で紹介させていただきます。
①ミネラルガラス
別名「無機ガラス」と言われるガラスです。いわゆる一般的な「ガラス」です。ミネラルガラスを特殊強化処理をしたものに「クリスタルガラス」「ハードレックス」などがあります。加工しやすい反面、傷がついたり欠けたりしやすいデメリットがあります。モース硬度「3~6」。
↑一般的に普及しているガラス
②アクリルガラス
透明なプラスチックで作られる、 「有機ガラス」と言われるガラスです。時計業界では「プラスチック風防(プラ風防)」と呼ぶこともあります。更に商標名で「プレキシガラス」と呼ばれることもあります。風防としての強度を上げるためにドーム型で作られることが一般的です。軽量で加工がしやすく、割れにくい反面、傷がつきやすいというデメリットがあります。ただし、軽い傷であれば研磨で傷消しができます。モース硬度「2」。
↑ドーム型に作られることが一般的
③サファイアクリスタル
人工サファイアの粉末を溶かし結晶化した素材で、前述したように便宜上「サファイアガラス」と呼ぶことも多い。宝石となりうる天然サファイアとは異なり、サファイアクリスタルは人工のものですが、モース硬度は同じ「9」。最大のメリットは「傷に強い」という点です。しかし、「衝撃で割れる(欠ける)」ことがあります。デメリットはミネラルガラスやアクリルガラスに比べて、加工が難しい点とコストが高価な点です。加工が難しいため、ドーム型に加工(カーブドサファイアと呼ばれる)すると更にコストが高くなってしまいます。
↑傷に強いサファイアガラス
■3つの種類の風防は時計業界でどのように使い分けられているのか?
上で挙げた3つの種類の風防は、コスト面とデザイン面で使い分けされています。
もちろん実用性の高い時計を作りたければ、最も傷に強いサファイアクリスタルを採用するのが理想です。しかし、サファイアクリスタルは「高価な風防」であり、安価な製品には採用できません。高級時計であれば、「高価な風防」を採用することができるので、高級時計の多くはサファイアクリスタルを風防に採用します。逆に、安価な時計にはミネラルガラスが採用されます。
更に、デザイン面で使い分けされることがあります。アクリルガラスを積極的に採用する場合は、「ヴィンテージ感」を狙っての採用と言えます。歴史上、サファイアクリスタルの登場が1970年代以降なので、昔の腕時計といえばアクリルガラスでした。時計を知っているひとであれば、「アクリルガラス=ドーム型風防=昔ながらの風防」と発想しますので、アクリルガラスの採用は「ヴィンテージ感」を敢えて表現したいときに採用します。
ここで、アクリルガラスとサファイアクリスタルの採用の興味深いトピックを2つ紹介したいと思います。その2つとは、パネライの「ルミノール1950(PAM00372)」と、オメガの「スピードマスタープロフェッショナルのシースルーバック仕様(3572.50→3573.50)」です。
↑ルミノール1950 PAM00372
上の写真のパネライの「ルミノール1950(PAM00372)」は、登場時には「アクリルガラス」で生産され、その後「サファイアクリスタル」の風防に変更になる予定です。
サイズの大きな正真正銘の「ドーム型サファイアクリスタル」ですので、かなり高価な風防だと思われます。このモデルはかつてのデザイン復刻に主眼を置いたモデルですので、ドーム型風防採用が絶対条件のモデルです。元々はドーム型のサファイアクリスタルを採用したかったが、コスト面から断念したという噂があります。ようやくサファイアクリスタル採用に踏み切ったということなのでしょう(※2)。
オメガのスピードマスタープロフェッショナルについては以前のブログ(オメガ「スピードマスタープロフェッショナル」が手巻式である理由とは?)で紹介しましたので、 こちらで詳しくは述べませんが、そのラインナップに「シースルーバック仕様のスピードマスタープロフェッショナル」があります。
シースルーバック仕様のモデルは、型式を「3572.50」から「3573.50」に変更にした際に、アクリルガラスからサファイアクリスタルへ風防を変更しました。スピードマスタープロフェッショナルの伝統であるドーム型アクリルガラスを止めてでも、傷に強いという実用性のあるサファイアクリスタルを選択した事実は、オメガも「できればサファイアクリスタル風防を採用したい」と考えている証であると言えます。
変更の際に、「なるべくドーム型の形状を保ちたい」という意図からサファイアクリスタルの縁側を盛り上げていますが、コスト面からか風防の中央は平面な加工にしています。下の画像はわかりづらいですが、風防の比較画像です。
↑サファイアガラスの3573.50
↑プラスチック風防の3572.50
■最後に
サファイアクリスタル採用は高級腕時計の専売特許のような状況でしたが、Apple社のスマートウォッチの風防には明らかにカーブをした「カーブドサファイア」が採用されているようです。特にそのスマートウォッチの上位機種は、風防以外の仕様からも伺えますが、かなり高級な作りをした製品だと言えます。
サファイアクリスタルの採用というトピックひとつでも、パネライ・オメガ・スマートウォッチを並列して話題にする時代が来たのだなと不思議な感覚になりました。
これからの「時計業界の範疇」はスマートウォッチにまで及ぶ時代になるのかもしれません!
※1・・・執筆後の2015年11月に「タグホイヤーコネクティッド」が発表され、製品としても流通が始まりました。
※2・・・その後状況が変わってしまいまい、「プレキシガラス継続」のアナウンスがされてしまいました。
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