20.1.2017
「ゼニス」の時計には2つの魅力がある!! ~其の一、名機“エルプリメロ”~
Komehyo
ブログ担当者:前川
高級時計の選びにおいて、ロレックスやオメガは頻繁に登場する選択肢です。所有する高級時計の1本目、または2本目にその2ブランドを選択した方も多いのではないでしょうか。
しかし、“高級時計の世界”を知り始めると、他の時計ブランドにも興味が湧いてくると思います。その際に、気になるブランドの1つとして登場するのが“ゼニス”です。
↑スイスの老舗時計メーカー「ゼニス」
では、“ゼニスの魅力”とは何でしょうか?
もちろんゼニスの時計には様々な魅力がありますが、その中でも大きな魅力は以下の2つではないでしょうか。
1.名機“エルプリメロ”
2.男心をくすぐるデザイン
このゼニスの2つの魅力を紹介しようと思いますが、少し長くなりますので、前半と後半に分けさせていただきます。前半の今回は、“名機エルプリメロ”についてです。
■ゼニスはどんなメーカー?
ゼニスは1865年に創業したスイスの老舗時計メーカーです。スイスでは伝統的に分業体制をとっており、時計メーカーとムーブメント(内部の機械)メーカーは別であることが一般的でした。しかし、ゼニスはムーブメントまで自社で製造することのできる実力派メーカーで、現代の表現を使うと“マニュファクチュール”メーカーです(※1)。
↑ムーブメント製造に長けたゼニス
※画像はCal.5011K
最近は工作機も進化しているためムーブメント製造の難易度が下がっており、マニュファクチュールに舵をきる“新興マニュファクチュール”メーカーが増えています。しかし、ゼニスは20世紀の初頭時点で既に“3大マニュファクチュール”に数えられるほどの老舗マニュファクチュールです。例えば、20世紀中期に登場したゼニスのCal.135は、かつての精度を競い合う“天文台コンクール”時代の傑作ムーブメントです。「腕時計のムーブメント史上で最も好き!」という愛好家もいるほどの名作です。さらに、そもそも「ゼニス」というメーカー名の由来が、ムーブメント名から来ています。同社が19世紀の終わりごろに開発した高精度の懐中時計用ムーブメントに与えられた名前が、「ゼニス」なのです。
つまり、ゼニスはムーブメント製造に長けた時計メーカーなのです。
■ゼニスの魅力:名機“エルプリメロ”
ゼニス最大の魅力といっても過言ではないのが、同社が誇る自動巻クロノグラフムーブメント“エルプリメロ”です。「エルプリメロを一本所有したい」という動機でゼニスを購入する方も多くいらっしゃいます。それほど魅力のあるムーブメントなのです。では、なぜエルプリメロは人気があるのでしょうか?
それは、“生ける伝説のムーブメント”としてブランド化されているからです。
少し“伝説ポイント”をまとめてみます。
<エルプリメロの伝説ポイント>
①世界初の“自動巻”クロノグラフの一つに数えられる
1969年に登場したエルプリメロは、世界初の“自動巻”クロノグラフに挙げられています。ただ、同年に他社も自動巻クロノグラフを発表しています。しかし、エルプリメロは他のライバル機と異なり、“一体型構造のクロノグラフ”・“振動数36000/時”・“伝統的なキャリングアーム/コラムホイール式”などの特徴があります。そこが評価されるポイントなのです。つまり、付け焼刃感がなく、伝統的な手巻クロノグラフを“正統進化”させた印象があるのです。
そして、その伝統的な機構をもつムーブメントが現役で活躍しているところも特筆すべき点です。
↑キャリングアーム・コラムホイールを採用
②ロレックスのデイトナに搭載された
エルプリメロは、1988~2000年ごろに製造されたロレックスのデイトナ(型式16520など)に搭載されました(※2)。ロレックスと言えば、「石橋を叩いて渡る」ような姿勢をもつメーカーであり、実用面において絶対的な信頼がないと採用に踏み切らないメーカーです。そして、ロレックスもマニュファクチュールメーカーであり、当時はクロノグラフ以外のムーブメントは全て自社製でした。つまり、当時ロレックス唯一の“社外製ムーブメント”がエルプリメロでしたので、注目度も高くなります。“採用基準の高いであろうロレックスに採用された”、“ロレックス唯一の社外ムーブメント”という事実が、エルプリメロに箔をつけたのです。
↑ロレックスのデイトナ16520
③復活のストーリーがドラマチック
エルプリメロには有名な復活ストーリーがあります。少し紹介させていただきます。
ゼニスは1970年代のクォーツ時計の台頭によって経営が悪化し、アメリカ企業に買収されました。その時に機械式時計の製造中止が決まり、エルプリメロもそのノウハウを全て破棄(放出)するように命じられます。そしてゼニスのオーナーが交代し、機械式時計の需要の回復が見込めるようになった1980年代、エルプリメロを復活させる話が浮上します。ですが、もう図面・部品・工具・機材などのノウハウはもうありません。しかし、なんとシャルル=ベルモ氏という一人の技術者がエルプリメロのノウハウを密かに保管していました。彼はエルプリメロの開発に携わった人物で、既に隠居生活でしたが、同社の近くに居住していました。ベルモ氏に聞くと、どうやら経営判断に背いて独断でノウハウを隠したそうです。それも、他の同僚に迷惑をかけないように、自分の身内だけで行ったそうです。
そして1984年、晴れてエルプリメロは復活します。
まさに、シャルル=ベルモ氏なくしては名機エルプリメロは存在しなかったのです。現在、シャルル=ベルモ氏は“ゼニスの英雄”として語られています。エルプリメロは、本当にドラマのようなストーリーを持っているのです。
↑クロノマスター
“シャルル=ベルモ”トリビュートモデル
やはりエルプリメロはとても興味深いムーブメントです。さらに補足をすると、ムーブメントに名称があること自体が稀有です。通常、ムーブメントはキャリバー番号のみで表現されます。エルプリメロならCal.3019PCHやCal.400(Z)などがキャリバー番号です。しかし、別で“エルプリメロ”というムーブメント名称ももっており、その存在が世間に認知されやすいのも頷けます。
■最後に
今回は、名機エルプリメロについて紹介をいたしました。多くの知識を有する時計愛好家に支持されるムーブメントである点が、お分かりいただけましたでしょうか。高級時計は嗜好性が高いが故に、付随する“背景”が重要です。その点で、エルプリメロは語るべき点が多く、魅力的です。
しかし、エルプリメロは設計が古いため、現在の最新ムーブメントに劣っている点があることも事実です。例えば、ハック機能(秒針停止機能)がない点、駆動最大時間が約50時間である点(ロレックスやブライトリングのクロノグラフは70時間以上)などです。しかし、「現役の古典機である」というロマンは、最新ムーブメントには決して真似できません。私も詳しいわけではありませんが、鉄道の世界の“現役で走るSL列車”にはロマンを感じます。それと同じようなロマンを、私はエルプリメロに感じるのです!今後もずっと存続してほしいムーブメントです。
次回は、ゼニスの別の魅力である“男心をくすぐるデザイン”について紹介いたします。
※1・・・「マニュファクチュール」については、以前の投稿「時計選びのときに知っておきたい!マニュファクチュールとエタブリスールという時計用語」をご覧下さい。
※2・・・デイトナ16520については、以前の投稿「ロレックス デイトナ16520 ~先代デイトナの魅力~」をご覧下さい。
※次回の投稿はこちら
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「ゼニスの時計には2つの魅力がある!! ~其の二、男心をくすぐるデザイン“1969ダイヤル”“オープン”~」
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