15.4.2016
ウブロ「ビッグバン」はなぜ大ヒットしたのか? ~ジャン・クロード・ビバー氏のコンセプト~
Komehyo
ブログ担当者:永井
ウブロの人気モデル「ビッグバン」は2005年に登場しました。今では多くの著名人や芸能人に愛用され、さらに多くのプロスポーツ選手とパートナーシップを結んでいます。メディアを上手く利用しながら、ウブロは人気時計ブランドとして世にインパクトを与えて続けています。
この状況を作り出すことにもっとも貢献したのが、現ウブロ会長であるジャン・クロード・ビバー氏です。彼は1979年に創業した「ウブロ」というブランドの知名度を向上させ、世間にブランドイメージを定着させました。彼がこの成功を成し遂げた最大の武器が「ビッグバン」です。「ビッグバンの大ヒット=ウブロの成功」という方程式が描かれています。
では、なぜビッグバンは大ヒットしたのでしょうか?それは、ビッグバンが「フュージョン」というコンセプトを用いてそれまでの常識を覆したことがきっかけになっています。今週は、ビッグバンが大ヒットした秘密に迫ります。
↑ビッグバンが大ヒットした秘密に迫る
■元々「ウブロ」はニッチなメーカーだった!
高級腕時計のデザインを思い浮かべてみてください。おそらく「金属製の本体に革ベルト」か「金属製の本体に金属製ブレスレット」の時計が思い浮かぶのではないでしょうか。「金属」はおそらくステンレスや金をイメージされたでしょう。それが、高級腕時計の従来の姿です。しかし以前より、この常識に従わないことで個性を打ち出すメーカーがいくつかありました。例えば、超硬金属やセラミックを時計素材に採用した「ラドー」、世界で初めてチタンを時計素材に採用した「シチズン」、実用性のあるサファイア製ケースを開発した「センチュリー」などです。最近では、J12という革新的モデルでセラミック素材をメジャーにした「シャネル」も該当するでしょう。
J12をヒットさせたシャネルは例外ですが、通常は常識の逆を行くアイデアで個性を打ち出す戦略はニッチな戦略であり、多くのユーザーに受けいれらることは期待できません。正に「隙間産業」です。実はウブロもこのニッチな戦略をとり、細々と経営をしていたメーカーでした。
ウブロは創業の翌年である1980年から本格的に動きだしますが、ウブロが打ち出した個性は「金属製の本体にラバーバンド」というものでした。特に「イエローゴールドの本体にラバーバンド」という組み合わせは常識を覆すものでした。さらに、ケース本体のデザインも、時計界のピカソと言われるジェラルド・ジェンタ氏の作品を意識したかのような大変個性的なものでした。その個性はイタリアでは受け入れられたと言われていますが、世界的には異端といえるデザインでした。つまり、ウブロは創業当初からニッチを突き進むメーカーだったのです。
↑ウブロの初期の作品「クラシック」
■ビバー氏の打ち出した「フュージョン」というコンセプト
しかし、あることがきっかけでウブロに転機が訪れます。それは、2004年、ジャン・クロード・ビバー氏がウブロのCEOに就任したことです。
ビバー氏はブランパンを再興させ、オメガのアンバサダー戦略を主導した敏腕経営者です。すでに時計業界では名の知れたタレントですので、メディアの注目が集まります。そこで彼が考え出したコンセプトは以下の2つです。
①ウブロの個性的な遺伝子の継続
「両サイドに飛び出した2つの突起(オレイユリング)」、「ビス留めのベゼル」、「ビス留め式ストラップ」というウブロが持っていた3つの遺伝子の継続
②フュージョン(融合)
伝統的な素材と未来的な素材を組み合わせる
これらコンセプトのもと2005年に誕生したのが「ビッグバン」です。このモデルはリリース後すぐに人気を得ました。ビッグバン効果でウブロ社の売上高もわずか4年間で約10倍になったそうです。ただ、「フュージョン」というコンセプトがピンとこない方もいらっしゃるかと思いますので、少し解説します。
↑初期のビッグバン(301.SB.131.RX)
ウブロはステンレスやゴールドという素材を「伝統的な素材」とみなしました。そして、セラミックやタンタルなどそれまで時計業界では一般的でなかった素材を「未来的な素材」とみなしていると思われます。そしてビッグバンは、それらの素材を「両方」併せ持った外装構造になっています。これが「フュージョン」です。「未来的」という言葉が印象的ですが、どんどん時計業界における新素材を導入していこうという意図が読み取れます。
ちなみに現在のウブロ公式HPには、ウブロの時計で使用されている13種類の素材の紹介を見る事ができます。中でも「マジックゴールド」はウブロが新しく特許を取得した新素材で、なんと純金とセラミックを融合させました!一般的な18金ゴールドに比べ、傷の付きにくい超硬質ゴールドです。実際に2012年にフェラーリとコラボレーションした「ビッグバン フェラーリ」で初めてマジックゴールドを取り入れたモデルを発表して話題作となりました。そして製造環境を整え、2015年からはマジックゴールドのラインナップを拡大しています。スイスの貴金属管理局によって18金と証明されている事からも本気で新素材を作ってしまうウブロの素材へのこだわりが読み取れます。「フュージョン」を進化させるために、「未来的素材に対する投資を惜しまない」という姿勢が明らかに見て取れます。
※追記(2017/11/3)
ジャン・クロード・ビバー氏は、2014年より、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループのウブロ以外のブランドにも関わるようになります。具体的にはタグホイヤー、ゼニスなどです。現在はLVMHの時計部門を統括する立場にありながら、ウブロの会長職も兼任しています。
■「革新」と「トレンド」の両立が大ヒットの鍵だった!
では、なぜ前述した「ウブロの個性的な遺伝子の継続」と「フュージョン」という2つのコンセプトを実践することが成功につながったのでしょうか?それは、それらのコンセプトが以下の2つの点を見事に成し遂げたからです。
①ウブロの知名度を上げる
それまでの常識を覆す外装構造(フュージョン)には大きなインパクトがあり、メディアを中心に大きく取り上げられました。その際に、過去の遺伝子を引き継ぐことで、「ウブロは創業当時から革新的だった」というマーケティングが可能です。「フュージョン」という革新性をひとつのモデルのコンセプトではなく、見事にブランドイメージまで昇華させました。
②トレンドに乗る、トレンドを作る
2000年代はパネライが「デカ厚」時計として人気を博していた時期です。そのトレンドに乗るように、ビッグバンも「デカ厚」サイズとして展開しました。さらに、ケースに複数の層(レイヤー)を作り、時計に「立体感」をあたえる手法は、その後の時計業界のトレンドになります。ビッグバンは「トレンドに乗り人気を獲得し、さらに次のトレンドを作る」という離れ業をやってのけました。
↑ビッグバンは「立体感」というトレンドを作りだした
前述したように、ウブロは元々「イエローゴールドの本体にラバーバンド」というアイデアで個性をもっていました。時計業界にインパクトを与えたと思います。しかし、インパクトを与えたにもかかわらず、かつてのウブロがニッチであり続けたことには理由があります。それは、かつてのウブロが行っていたことが「トレンドではなかった」からです。しかし、ビバー氏はしっかりと「デカ厚」というトレンドに乗ることも押さえており、「革新+トレンド」というもうひとつのフュージョンを行ったのです。
多くの消費者が欲しいサイズ感の時計が、革新的なデザインで存在する。それが2005年当時のビッグバンの存在でした。さらに、タレント性のあるジャン・クロード・ビバーという経営者がメディアで大々的にアピールを繰り返す。この状況があれば、大ヒットをするのも必然なのかもしれません!
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