26.1.2020
オメガの復刻ムーブメント「Cal.321」は時計業界に新たな流行をもたらすのか?
Komehyo
ブログ担当者:須川
■オメガの復刻ムーブメント「Cal.321」は時計業界に新たな流行をもたらすのか?
2019年、時計業界にビッグニュースが舞い込みました。
それは、
オメガが、「キャリバー321」を復刻生産する
というニュースです。
補足説明をすると、キャリバー321(以降「Cal.321」)とは、オメガの“ヴィンテージ時代の手巻クロノグラフムーブメント”です。ベースムーブメント(Cal.27 CHRO C12)まで辿ると、「1942年に登場」と紹介できる、歴史あるムーブメントです。1957年以降の初期のスピードマスターにも搭載されていたことでも有名です。
↑Cal.321
このCal.321復刻のニュースに、私は驚きました。なぜなら、従来の時計業界のトレンドと異なっているからです。
きっと、このオメガのCal.321の例は、時計業界に大きな影響を与えるでしょう。もし成功すれば、新たなの時計業界のトレンドになるかもしれません。そこで今回は、“新たなトレンド”となりうる、時計業界の「ムーブメント復刻」について紹介いたします。
■従来の時計業界のトレンドと異なる“ムーブメント復刻”
冒頭で書いたように、オメガがCal.321を復刻させるような“ムーブメント復刻”は、従来の時計業界のトレンドとは異なります。ここでは、「どのように従来のトレンドとは違うか」という観点で、“ムーブメント復刻”の特徴を説明します。
まず、そもそも今回、「“復刻させたもの”がムーブメントである」ことが、従来のトレンドと異なります。
これまで、時計業界でしばしば登場した「復刻」は、“外装デザイン”の復刻でした。つまり、見た目はヴィンテージデザインですが、内部は現在のムーブメントを使っています。なぜなら、もうヴィンテージ時代のムーブメントは、現在、ほとんど作られていないからです。そのため、「外装はヴィンテージ、内部は今のもの」という方法が、復刻モデルを作る際のスタンダードなのです。
しかし、オメガは今回、ヴィンテージ時代のムーブメントを復刻させました。これは、最近では“新たな試み”です。私の記憶を辿っても、同じようなケースは、2000年代にラジューペレが「ヴィーナス175」を復刻させたことなど、わずかな例しか思いつきません。
そして、今回の“ムーブメント復刻”の最大の特徴は、「オマージュではなく、“再現”である」ことです。
説明します。2019年に復刻したCal.321は、「できるだけ正確に再構築を心掛けた」そうです。Cal.321の時代に備えていた、巻上げヒゲやコラムホイールも再現されることでしょう。
この点が、従来のトレンドと違う点です。なぜなら、時計業界ではよく、復刻品を作る際に、「昔のものを単純に復刻させるだけでは意味がなく、過去をオマージュしながら、新しいものを生み出すことが良い」と考えられています。
つまり、従来の「復刻」は、過去の作品のテイストを引き継ぎながらも、飽くまで、“今の時計”として復刻するのです。“過去と全く同じもの”を作るわけではないのです。
具体例を出します。下の画像は、2017年に発売された、グランドセイコーの初代モデル(1960年)の復刻版です。これは、全体的なデザインはオリジナルモデルのテイストを持っていますが、ケース径は当時より大きく、ムーブメントは2011年に登場した現行のCal.9S64を搭載しています。つまり、「外観の雰囲気はヴィンテージ、サイズや性能は現代の仕様」という仕様で、飽くまで“今の時計”なのです。
↑グランドセイコー初代復刻
しかし、オメガはCal.321に対して、できるだけ過去の仕様を正確に復刻させようとしています。これは、“オマージュ”ではなく、“再現”です。“再生産”と表現してもよいでしょう。これが、今回オメガが行った“ムーブメント復刻”の最大の特徴です。
■最後に
今回は、オメガがCal.321を復刻させたことを取り上げ、「ムーブメント復刻」について紹介しました。
先に書いたように、ムーブメントが復刻(再生産)されること自体、稀有なことです。
しかし、全く例がないわけでもありません。例えば、ゼニスのエルプリメロは、一度生産を終えた後、“再生産”を始めたムーブメントです。しかしそれは、ゼニスが「“同種のムーブメント”を持っていない」という理由で行った再生産でした。しかし、オメガはCal.1861という“同種のムーブメント”を既に持っています。実際に、近年のスピードマスターには、Cal.1861が搭載されています。
↑近年のスピードマスターはCal.1861
補足をすると、スピードマスターに搭載されるムーブメントは、
「Cal.321→861→1861(→3861)」
という変遷があります(Cal.3861は最近登場)。
この変遷を知れば、最近のスピードマスターに搭載されるCal.1861は、Cal.321と同系列のムーブメントであることが分かります。つまり、スピードマスターを作る上で、オメガはCal.321を再生産しなくても問題がないのです。それでも、オメガは“敢えて”Cal.321を再生産しました。
それは、オメガが
「愛好家に評価されるヴィンテージムーブメントの復刻には需要がある」
と判断したからでしょう。
そして2020年、満を持して、ステンレス製のスピードマスターに、Cal.321を搭載したモデル「311.30.40.30.01.001」が登場します。もし、この“復刻ムーブメント”搭載モデルが成功を収めたらならば、後に続くメーカーが出るかもしれません。
個人的には、ロンジンのCal.13znやIWCのCal.83などのムーブメント復刻があると魅力的です。
今後、“復刻ムーブメント”が時計業界のトレンドになるかどうか、見守ろうと思います!
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