18.1.2020
【高級時計の世界を解説】ロレックスを買うときにぶつかる「自動巻」という存在とは何なのか?
Komehyo
ブログ投稿者:須川
■【高級時計の世界を解説】ロレックスを買うときにぶつかる「自動巻」という存在とは何なのか?
「自動巻」、または「オートマチック」。
この言葉は、ロレックスなど、高級時計を初めて購入する際に、最初にぶつかる“意味不明な言葉”だと思います。
ただし、もちろんその後、時計店などでしっかりと「自動巻」という言葉について説明を受けるでしょう。そして、「自動巻」腕時計の特徴を理解するはずです。その特徴は、次のようなものです。
<説明を受ける「自動巻」腕時計の特徴>
①ゼンマイで動いており、普段の腕の動きで、ゼンマイが巻き上がる仕組み(電池で動いていない)
②数日使わないと、ゼンマイが解けて止まる
③電池の時計より精度が劣り、1日に数秒~30秒ぐらいの遅れや進みがでる
④数年ごとに、数万円かけてオーバーホールを行う必要がある
上で挙げた「自動巻」の特徴を聞くと、多くの方は驚くかもしれません。なぜなら、一般的に、多くの方がもつ腕時計に対しての認識は、以下のようだからです。
<腕時計に対する一般認識>
・電池で動いており、電池がなくなるまでは止まらない
・止まったら、気軽にお店で電池交換
・何ヶ月かで、少し時間がずれる程度
きっと世間では、この認識が“常識”であり、「自動巻」の説明で、ある気付きがあるはずです。それは、
「ロレックスなどの“高級時計”の方が、一般の時計より性能が劣っているのか!」
という気付きです。
例えば、「電池の時計よりも時間のずれが大きい」点、さらに、「数日放っておくと止まる」点は、「性能が劣っている」と言っても問題ないでしょう。
それに加え、「数年ごとに数万円の維持費(メンテナンス費用)がかかる」と説明されると、「自動巻」に対してどのようなプラス評価をして良いか分からなくなるでしょう。
そこで今回は、高級時計の世界に踏み込んだ方が最初にぶつかる“壁”である、「自動巻とは何なのか」という点について説明いたします。
■「自動巻」は、前時代から続く腕時計のタイプ
まずは、必要な前提知識として、「自動巻は“前時代の存在”である」ということを説明させていただきます。その理解のためには、“時計の種類”を把握しなければなりませんので、併せて紹介します。
私は以前の投稿
「プロはこうする!高級時計の正しい使い方 ~腕時計の種類を見分ける3つの方法~」
で、腕時計の種類は
「クォーツ」「自動巻」「手巻」
があることを紹介しています。
「クォーツ」という表現は馴染みがないかもしれませんが、私たちの周りによくある“電池式時計”のことです。こちらは、今さら説明は要らないでしょう。
↑電池で動くクォーツ時計
「自動巻」と「手巻」は、“ゼンマイ式時計”のことで、まとめて「機械式時計」と呼ばれることもあります。“腕の動きでゼンマイを巻き上げる機能”が付くものが「自動巻」で、その機能がないものが「手巻」です。つまり「手巻」の場合は、リューズを回して、手動でゼンマイを巻き上げる必要があります。
↑ゼンマイで動く機械式時計
ここで押えておきたい点は、この3つのタイプが登場した順番です。
まず、腕時計が登場し始める時期は、20世紀初頭です。この時はまだ「自動巻」も「クォーツ」も存在しておらず、「手巻」の時代でした。その後、ロレックスが先導する形で、「自動巻」が普及していきます。そして、1970年代には「クォーツ」の普及が進みます。
つまり、腕時計の種類は
①手巻
↓
②自動巻
↓
③クォーツ
の順番で普及していくのです。
これを知ると、「自動巻」は、「クォーツ 」登場前に普及した、“前時代の存在”であることが分かります。
分かりやすく、携帯電話に例えてみましょう。例えば、後から登場した「クォーツ 」を、“スマートフォン”と同じポジションとします。すると、前の時代の主流である「自動巻」は“ガラケー”ということになるでしょう。
この例を聞くと、「なぜ“前時代の存在”が、今も人気アイテムとして存在しているのか」気になるでしょう。次で説明します。
■現在の「自動巻」の存在とは?
では、「“前時代の存在”である『自動巻』が、なぜ今も人気アイテムとして存在しているのか」を説明します。
↑なぜ今も自動巻が出回っている?
先に結論を言うと、現在の「自動巻」は、「クォーツ」とは“勝負する土俵”を変えることで、人気を集めています。
では説明します。まず、“現実”から見ましょう。現在、時計業界では、「クォーツ」と「自動巻」はおおよそ棲み分けています。
ざっくりと言うと、
・一般時計
→「クォーツ」
・高級時計
→「自動巻」
という傾向で共存しています。
つまり、「自動巻」も「クォーツ」もどちらも主役の、“2強状態”なのです。先程の携帯電話の例に当てはめると、不思議な現象かもしれません。なぜなら、今は技術革新により、前時代の技術であるガラケーが淘汰され、「スマートフォンとガラケーの2強状態」という状況ではないのですから。
ただ実は、「自動巻」もガラケーと同じく、淘汰された時代がありました。1969年にクォーツ腕時計が登場し、1970年代から1980年代は「自動巻」が淘汰され、“クォーツ腕時計の時代”でした。これを、「クォーツショック」と呼んでいます。この時代は、デジタルファッションウォッチが席巻し、スウォッチやG-SHOCKも一世風靡しました。
しかし、この後、「自動巻」を筆頭とする機械式時計は人気を復活させます。
では、その方法についてです。前述したように、「自動巻」は、「クォーツ」と“勝負する土俵”を変えることにより、その存在感を取り戻しました。具体的に言うと、「自動巻」は、本来いた「正確な時間を知る道具」という土俵では分が悪いので、別の土俵に行ったのです。
「自動巻」が新たに踏み出した土俵は「高級腕時計」。つまり「特別感を演出する道具」、「芸術作品」、「伝統工芸品」という存在を目指したのです。
つまり、「自動巻」を筆頭とする現在の機械式時計は、「クォーツ」と勝負する必要はありません。むしろ、「クォーツ」との違いを打ち出す方が良いのです。
例えば、「自動巻」と「クォーツ」は、
・ハイテク技術で、正確な時刻表示が可能
(クォーツ)
vs.
・“伝統的なつくり”という特別な価値を提供
(自動巻、手巻)
・“大量生産”で、安価な価格を実現
(クォーツ)
vs.
・“手作業”での工程があり、高級品価格
(自動巻、手巻)
という違いを打ち出すことができます。
このように違う土俵に立つことにより、「自動巻」と「クォーツ」で競うことなく、お互いに良さを出せるのです。そのため、時計業界では、“2強状態”が実現するのです。
■最後に
今回は、高級時計の世界に踏み込んだ方が最初にぶつかる“壁”である、「自動巻とは何なのか」という点について説明しました。最後に、理解を深めるために、想像力を使った例を用意しました。
それは、“自動車”と”馬車”の例です。
説明します。今は皆さんが自動車を当たり前に使っていますが、それより前は、馬車の時代でした。「馬車→自動車」という技術革新が、「自動巻→クォーツ」という技術革新に被ります。ここで、想像してみてください。
もし今、馬車の価値が見直され、富裕層を中心に“馬車ブーム”が起こったらどうでしょうか。例えば、一般道での馬車の使用が認められ、「自動車と馬車が、公道を一緒に走る光景が当たり前になる状況」です。この状況がもし起こったならば、現在の「クォーツと自動巻が共存している状況」と近いでしょう。
この状況において、「馬車は自動車より性能が劣っているのに、なぜ人気があるのか分からない」という声は高まらないでしょう。おそらく多くの方は、「敢えて、馬車という“昔ながらの乗り物”を選んでいる人がいる」と考えることでしょう。
実際に、今の日本でも、宮内庁の行事や観光のイベントで馬車を使うことがあります。その特別感は、言うまでもありません。
時計業界の「自動巻」も同じです。
「敢えて、自動巻という、“昔ながらの時計”を選んでいる人がいる」のです。
↑敢えて“自動巻”を選んでいる
この状況を理解していただけると、冒頭で書いた
「電池の時計よりも時間のずれが大きい」
「数日放っておくと止まる」
「数年ごとに数万円の維持費がかかる」
という「自動巻」のマイナスに見える点も、別に問題ないのです。
「自動巻」には、現代の便利な「クォーツ」とは異なった魅力があるのですから!
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