29.9.2019
IWC|パイロットウォッチ「マーク18」をどう評価するべきか? ~シリーズの系譜から見るマークXVIII~
Komehyo
ブログ担当者:須川
■IWC|パイロットウォッチ「マーク18」をどう評価するべきか? ~シリーズの系譜から見るマークXVIII~
IWCの人気シリーズ「パイロットウォッチ マークシリーズ」。
その最新作は、2016年に登場した「マーク18(マークXVIII)」です。
↑パイロットウォッチ マーク18
今回は、このマーク18に対する私の評価を紹介します。
しかし、このモデルに対する評価は、私にとって簡単ではありません。なぜなら、現時点で、私はこのマーク18をどう評価すべきか迷っているからです。
実は、私が迷っている理由は、私の中で以下の2つの評価が混在しているからです。
①シリーズの実質的なオリジナルである「マーク11」からデザインが乖離してしまった
→マイナス評価
②最新作のため、当然、「最新のデザイン・スペック」を持っている
→プラス評価
この点は、以降で詳しく説明します。是非、最後までご覧ください。
■マーク18は「マーク11」からデザインが離れた!
まずは、マーク18が、
シリーズの実質的なオリジナルである「マーク11」からデザインが乖離してしまった
という点の説明から始めます。
↑マーク11のデザインから離れたマーク18
この話を理解していただくには、まず、“マークシリーズの系譜”を理解する必要があります。
マークシリーズの実質的なスタートは、1948年の「マーク11」からです。このモデルは、イギリス空軍の指定する仕様に従って作られた時計でした。軍の仕様に従い、IWCは、視認性の高いデザインと高い精度をクリアしたセンターセコンドの時計を作ったのです。このモデルが、マークシリーズの直接的なオリジナルと言われています。
しかし、時代を経て、近年は機械式時計に対する軍の需要は少なくなりました。そのため、現在のマークシリーズは民間に向けて作られています。
民間向けの第一弾として、1994年に、「マーク12」が発売されました。マーク11は約36mmケースの手巻式でしたが、マーク12は、約36.5mmの自動巻式として作られました。文字盤や針のデザインはマーク11のテイストを踏襲していますが、日付が追加されました。
↑マーク12
1999年には、「マーク15」が登場します。ケース径は約38mmにまで大型化し、ムーブメントも刷新されました。文字盤や針のデザインはマーク12のテイストを引き継いでいます。
↑マーク15
ここまでが、シリーズの初期という括りです。つまり、マーク12とマーク15は、「元祖である“マーク11デザイン”を、自動巻時計として現代に甦らせた」印象があるモデルとして共通点が見出せます。
2006年には、「マーク16」が登場します。ケース径はさらに拡大し、約39mmとなります。このモデルから、文字盤と針のデザインが大きく変わりました。まず、針はアルファ型の形状となりました。そして文字盤のインデックスは「6」と「9」が省かれ、アラビア数字がカジュアルなデザインとなります。さらに、12時にある三角形のマーカーは、外縁ぎりぎりの端に移動されました。
↑マーク16
2012年には、「マーク17」が登場します。ケース径はシリーズ最大の約41mmにまで拡大しました。日付枠が“3日分が見える枠”に変更されていますが、文字盤や針のデザインはマーク16を踏襲しています。
↑マーク17
上の2モデルは、シリーズの中期として括ることができます。つまり、“マーク16/マーク17”は、マーク11のデザインを踏襲した初期のマークシリーズとは大きく異なっているのです。
具体的に言うと、“マーク16/マーク17”の印象としては、サイズを拡大し、カジュアルでスポーティなデザインに寄せたと感じます。特に2000年代以降、時計業界では「大ぶりなモデル」と「スポーティなモデル」が人気を集めましたので、マークシリーズもこのトレンドに影響を受けたのでしょう。
つまり、“マーク16/マーク17”は「トレンドを取り入れた今風なマークシリーズ」と評価できます。
ここまでのマークシリーズの初期から中期までの系譜を見ると、私は、「マークシリーズが、時代を経るごとに、どんどんとマーク11デザインから離れていく」ように感じます。実際に、ケース径をどんどん拡大し、文字盤と針のデザインを変えていった事実からも、そう感じます。
そして2016年に登場した作品が「マーク18」です。ケース径は40mmとサイズダウンしましたが、文字盤デザインがまた変わりました。もはや、文字盤は“マーク11デザイン”ではなく、“初期のビッグパイロットウォッチデザイン”に近づいたように見えます。
↑マーク18
百聞は一見にしかず。下に、ビッグパイロットウォッチ(IW500912)の画像を用意しました。このモデルは、いくつかあるビッグパイロットウォッチの中でも、1940年の初期デザインに近いデザインをもつモデルです。比較できるように、隣にマーク18の画像も並べておきます。
↑ビッグパイロットウォッチと近い
上の画像を見ていただくと一目瞭然ですが、マーク18とビッグパイロットウォッチは、文字盤デザインがほぼ同じです。実は最近まで、ビッグパイロットウォッチは“マーク16/マーク17”寄りの今風デザインでしたが、2016年にこの初期デザインに立ち戻りました。そして、同年に登場したマーク18も、なぜかビッグパイロットウォッチの初期デザインに合わせられてしまったのです。
マーク18のデザインで、それまでのマークシリーズと決定的に変わったところは、“バーインデックス”です。
具体的に言うと、マーク18とビッグパイロットウォッチは、数字インデックスの外側にあるバーインデックスが「全てが均等な大きさ」です。しかし、マーク17までのマークシリーズの伝統デザインは、バーインデックスが「12時・3時・6時・9時位置が強調されたデザイン」なのです。
↑バーインデックスが違う
つまり、マークシリーズは、マーク18で、最もデザインがマーク11から乖離しました。これを単純なデザインの改善ととるなら良いのですが、「初期のビッグパイロットのオマージュデザインになった」と判断すると、伝統を壊したことになります。もちろん人それぞれの感性があると思いますが、私の個人的な意見としては、“マーク11デザイン”が好きだっただけにデザイン変更を残念に思いました。
ただし、「歴史的なつながりが切れた」という残念さはあっても、「デザインが悪い」という意味での残念さは全くありません。むしろ、この初期のビッグパイロットウォッチデザインが好みの方であれば、「こちらの方が好き」という評価になるでしょう。
■マーク18の良さとは?
次は、マーク18のプラス面についてです。当然、マーク18は最新作ですので、「最新のデザイン・最新のスペック」を備えています。
文字盤デザインは、先に述べた通りで、“初期のビッグパイロットウォッチ”のテイストを持っています。そのため、マークシリーズの中では「最新作だけがもつデザイン」です。
↑最新作だけの文字盤デザイン
また、マーク18のメタルバンドタイプであれば、ブレスレットが最新デザインになっています。マーク16やマーク17では、比較的フラットな面をもつブレスレットを採用していましたが、マーク18ではカーブをもつコマを組み合わせたブレスレットになっています。これは、マーク15の中期ごろに近いデザインで、時計好きには嬉しい変更点かもしれません。
また、最新モデルですので、マーク17から採用されたブレスレット長さの微調整機能も継続して採用されています。
ケース直径は、マーク17の41mmから1mm小さくなり、「40mmサイズ」を採用しています。先に少し触れましたが、時計業界では2000年代以降「大ぶりなモデル」が流行りました。そのため、42~44mmというサイズが当たり前になった状況があります。しかし、ここ数年で、少しサイズダウンをするメーカーが増えています。この「少しサイズダウン」が最新のトレンドです。その意味で、マーク18はトレンドを上手く取り入れています。
このように、マーク18のディテールを見ると、「最新のデザイン・最新のスペック」であることがわかります。これが、マーク18の“最大の良さ”です。最も今を反映したモデルをお探しの方は、マーク18がうってつけです。
■最後に
ここまで紹介したように、私はマーク18の評価を迷っています。それは、以下の2つの要素が混在しているからでした。
①シリーズの実質的なオリジナルである「マーク11」からデザインが乖離してしまった
→マイナス評価
②最新作のため、当然、「最新のデザイン・スペック」を持っている
→プラス評価
「マーク11から引き継がれた“伝統デザイン”を守ることが重要」であれば、マイナス面が大きく感じます。しかし、「伝統デザインよりも、“現代の時計”として作ることが重要」ということであれば、マーク18はプラス面の多い優秀な時計です。
↑マーク11からの伝統デザイン
きっと、新しいものをクリエイトするときには、賛否両論あるものだと思います。IWCは、マーク18のデザインをマークシリーズの初期や中期のデザインから大きく変える際に、それも覚悟した上なのだと思います。私の意見は参考までに、最終的には、皆さんそれぞれの考えを大事にしてください!
※おすすめ動画
※おすすめ投稿記事
TAGLIST
- A.LANGE&SOHNE
- , AUDEMARS PIGUET
- , Bell&Ross
- , BLANCPAIN
- , Breguet
- , BREITLING
- , BVLGARI
- , CARTIER
- , CASIO
- , CHANEL
- , CHOPARD
- , CITIZEN
- , F.P.JOURNE
- , FRANCK MULLER
- , G-SHOCK
- , Girard-Perregaux
- , Glashütte Original
- , HAMILTON
- , HERMES
- , HUBLOT
- , IWC
- , Jaeger-LeCoultre
- , Longines
- , MAURICE LACROIX
- , MORITZ GROSSMANN
- , NEXT VINTAGE
- , NOMOS
- , OMEGA
- , ORIS
- , PANERAI
- , PATEK PHILIPPE
- , PIAGET
- , RICHARD MILLE
- , ROLEX
- , SEIKO
- , SINN
- , SWATCH
- , TAG HEUER
- , TISSOT
- , TUDOR
- , Ulysse Nardin
- , VACHERON CONSTANTIN
- , VINTAGE
- , ZENITH
- , その他
- , パテックフィリップ
- , ファッション
- , 人物
- , 時計一般知識
- , 独立時計師
- , 筆記具
- , 革靴
more
-
NEXT ARTICLE
次の記事へ
6.10.2019
ロレックスの隠れた良作「エアキング “ファインリーエンジンターンド”」 ~型式14010/14010Mの魅力~
-
PREVIOUS ARTICLE
前の記事へ
20.9.2019
「時計とは何か」をスマートに説明できますか? ~クォーツ、テンプ、ヒゲゼンマイの意味を知る~