28.9.2018
【高級時計の基本】「機械式時計」とはどんなもの? ~クォーツ式時計との違い~
Komehyo
ブログ担当者:須川
今回は、高級腕時計の世界を知る上で、よく登場する基本的な用語を紹介します。
今回、注目する用語は、
「機械式時計(メカニカルウォッチ)」
です。
そして同時に、この「機械式時計」とよく比較される用語である
「クォーツ式時計(水晶時計)」
にも言及します。
もちろん、この2つの用語を既に知っている方も多いかもしれません。しかし、「これから高級時計を勉強します」という人もいると思います。そこで今回は、高級時計の基本用語であるこの2つの用語を紹介しましょう。
さて、上で2つの画像を用意しています。この画像は、内部のムーブメントの一部が見えるように加工をしたものです。その画像を見ると、機械式時計とクォーツ式時計で、時計内部の機構が異なるのが分かると思います。
一般的な説明をすると、
・機械式時計は、「ゼンマイ」で動く
・クォーツ式時計は、「電池」で動く
という風に、“動力の違い”で語られることが多いです。
しかし、多くの方は、「機械式時計とクォーツ式時計は、動力が違います」と言われても、「だから何?」という感想になるかもしれません。例えば、日本食に詳しくない外国の方が、スーパーで豆腐を買おうとする場面があるとします。その際に、店員が「表面がつるっとしているのが“絹(きぬ)”で、そうでないものが“木綿(もめん)”です」と説明をしても、その外国の方は、「で、どちらを買えば良いの?」という疑問が生まれるだけです。
つまり私は、「機械式時計とクォーツ式時計は違うものですよ」という説明だけでは不親切だと考えています。
そこで今回は、機械式時計について、“より親切で丁寧な説明”ができれば良いなと思って書こうと思いました。是非、最後まで読んでみてください。
■腕時計のムーブメントの種類
機械式時計について“より親切で丁寧な説明”をする最初のステップとしては、やはり全体像の把握から始めましょう。下に、腕時計のムーブメントの種類が分かる表を用意しました。
簡単にまとめると、以下のようになります。
・機械式時計
→「ゼンマイ」を動力にして動き、「もう一つのゼンマイ」を利用して運針のペースを作る
→昔ながらの伝統的なタイプ
→“腕の動き”でゼンマイが巻き上がるタイプが「自動巻」
→ゼンマイの巻上げ方法が“リューズ操作のみ”のタイプが「手巻」
・クォーツ式時計
→「電池」を動力として動き、「水晶」を利用して運針のペースを作る
→近代的なハイテクタイプ
→「電池交換する」タイプが一般的
→“光”や“腕の動き”などで「充電する」タイプもある
■なぜ「機械式」と「クォーツ式」の違いを理解する必要があるのか?
ここまでで、「機械式」と「クォーツ式」の違いがイメージしてもらえたと思います。ただし、ここまでの状況は、冒頭の例で言うと、まだ「豆腐の絹か木綿か」の違いの説明と同じ状況です。“より親切で丁寧な説明”になるためには、「違いがあるから、どうなのか」という点を押さえることが重要だと、私は考えています。
そこでここからは、なぜ「機械式」と「クォーツ式」の違いを理解する必要があるのかを説明します。
<「機械式」と「クォーツ式」の違いを理解すべき理由>
1.使い勝手が変わるから
↑リューズを回して、ゼンマイを巻く様子
機械式時計は、ゼンマイを巻き上げて使います。そのため、「ゼンマイが全て解けたら、ゼンマイを巻かないといけない」という手間があります。従来の機械式時計であれば、1日半~2日間ほど放置しておくと止まります。例えば、月曜日から金曜日まで使って、土日に時計を放置しておくと、週明けの月曜日には止まっているのです。
つまり、機械式時計は「手間がかかる」という点は押さえておいてください。
逆に、クォーツ式時計は手間がかかりません。一般的なタイプであれば、電池がなくなるまで動き続けるのですから。
そして、時刻を刻む精度について比較すると
・機械式時計(普及品の場合)
→数日で分単位の誤差が発生
・クォーツ式時計
→数日ぐらいではほとんど誤差が出ない
という現実があります。
2.維持費が異なるため
時計は「機械もの」なので、定期的なメンテナンスが必要です。いわゆる、「電池交換」や「分解掃除(オーバーホール)」などです。
機械式時計は電池を使わないタイプですので、定期的メンテナンスと言えば「分解掃除」を行います。最近はユーチューブなどで分解掃除の様子を見ることもできますが、たくさんの細かな部品を分解し、洗浄し、そして組立てることは、とても大変な作業です。技術者が時間をかけて行う作業のため、料金は何万円もかかります。さらに実際は、磨耗部品の交換があることも多いので、その料金に部品代も乗ることになります。例えばロレックスの一般モデルをメーカーメンテナンスに出すと、イメージでは5~10万円ほど掛かる印象があります。
つまり、機械式時計は「維持費が高額」という点は押さえておいてください。
クォーツ式時計の定期メンテナンスと言えば、「電池交換」が一般的です。高級時計であっても、一般の電池交換ができるお店では、数千円以内で済むことが多いと思います。ただし、針式のクォーツ時計であれば、内部のオイル(潤滑油)切れが起こると、「分解掃除」が必要になります。その際には、数万円の費用が掛かることになります。ただ、クォーツ式の分解掃除の料金は、機械式の料金よりも安い設定になっています。
3.「高級時計≒機械式時計」という状況だから
皆さんも、「機械式時計は手間がかかり、維持費が高額」と説明されると、「じゃあ、何のために買うの?」と考えてしまうでしょう。しかし、多くの方が機械式時計を求めるのには、ちゃんと理由があるのです。
その理由は、「高級時計≒機械式時計」という状況だからというものです。
つまり、「高級時計が欲しい」と思い、高級時計を買おうとすると、その対象のほとんどが機械式時計なのです。もちろん、女性用の高級時計や一部の男性用の高級時計にはクォーツ式があります。しかし、多くの人が欲しいと思う“男性用人気モデル”は、ほとんどが機械式時計となります。
例えば…
・ロレックス全般
・オメガ「スピードマスター」
・IWC「ポルトギーゼ」
・ジャガールクルト「レベルソ」
・カルティエ「カリブル・ドゥ・カルティエ」
・ブライトリング「クロノマット」
・パテックフィリップ「ノーチラス」
など、男性が高級時計の人気モデルを買おうとすると、必然的に機械式時計になるのです。逆に、「クォーツ式時計で高級時計が欲しい」と思い探してみると、“男性用人気モデル”は割と選択肢が少ないのです。
↑男性用人気モデルは“機械式”が多い
4.製品としてのイメージが異なるから
また、知っておいて欲しい点が、「機械式時計とクォーツ時計は、製品としてのイメージが違う」という点です。
それは、
・機械式時計=伝統工芸品の一種
→職人が組み立てているイメージ
・クォーツ式時計=ハイテク品
→工場で大量生産するイメージ
というイメージの違いです。
機械式時計は、寺院や大聖堂の塔時計にまで起源を求めるのであれば、14世紀には存在が確認されています(※1)。また、懐中時計、柱時計なども、何百年も前から存在します。つまり、機械式時計は“昔ながらの機構を持つ時計”なのです。
また機械式時計は、塔時計、振り子時計に続く懐中時計の時代に、一気に所有者が広がります。そのいずれの時代でも、聖職者、貴族、社会的地位のある人など、機械式時計を所有する人は高地位の人たちでした。つまり、機械式時計はステータスシンボルでもあったのです。
そしてなにより、機械式時計には“伝統工芸品”という側面があります。例えば、スイスのジュネーブでは“ジュネーブシール”という基準を設けています。この基準により、「ジュネーブの伝統工芸」としてのノウハウで時計を作る製品には、“ジュネーブシール”という認定が与えられます。つまり機械式時計は、昔ながらの方法で作られることが「良し」とされているのです。
↑ジュネーブ伝統様式で作成した時計
には“ジュネーブシール刻印”が入る
ここまでで挙げた要素は、「機械式時計」のイメージにそのまま紐付いてきます。ちょっとその存在はスケールが大きく、私たちには少し“遠い存在”かもしれません。
逆に20世紀に登場するクォーツ式時計は、G-SHOCKやスウォッチなどをイメージすると分かりやすいと思いますが、私たちにとって“身近な存在”です。これは、クォーツ式時計が大量生産可能なハイテク工業製品であり、より安価に手に入る存在だからです。そのため、現代の私たちにとっては、「時計=クォーツ式時計」なのです。
さらに、クォーツ式時計はハイテク製品なので、機械式時計よりも優れた性能を備えます。時刻を刻む正確さもクォーツ式時計の方がずっと高く、“一般的な時計”としての地位は、間違いなくクォーツ式時計の方が相応しいと感じます。
ここでの解釈は、
・クォーツ式時計=“一般的な時計”
・機械式時計=“趣味性の高い時計”
でも問題ありません。
性能の高さよりも、「昔ながらの良さ」を重んじた選択が、機械式時計なのです。今でもヴィンテージウォッチは人気ですが、機械式時計の価値が陳腐化しない理由は、この点が大きな要因かもしれません。つまり、「最先端技術」はすぐに陳腐化しますが、「昔ながらの良さ」は陳腐化しないのです。
■最後に
今回は、「機械式時計」という用語を“より親切で丁寧に説明”するために書いてきました。皆さんに、しっかりと、機械式時計とクォーツ式時計の違いが伝わったでしょうか。
細かなことを言うと、もちろん、現在は“大量生産可能な機械式時計”や“高級クォーツ式時計”も存在します。
しかし、大筋では
「高級時計=機械式時計」
という捉え方で良いと思います。
↑「高級時計」の主役は機械式時計
この状況だからこそ、「機械式時計」という用語が高級時計の基本になるのです。
そして、高額にもかかわらず、機械式時計に高い人気が集まることには、理由があります。それは、ハイテクな製品が溢れる時代だからこそ、機械式時計のような「“人の手”で作る作品」に価値が置かれるからです。しかも、その作品は、家や金庫に保管するだけの存在ではなく、毎日身に付けることができる存在なのですから!それが、「機械式“腕”時計」の魅力です。
※1・・・初期の機械式時計について。ヨーロッパの記録としては、1309年のミラノの教会の時計の記録、1330年のイギリスのセント・アルバンズ修道院の記録が残っています。「現存している」という点では、1370年にフランスのシャルル5世が作らせた宮廷の塔時計があります。ただし、全世界にまで範囲を広げてみると、人類最古の機械式時計は、1086〜1089年ごろに登場した中国の「水運儀象台」と言われています。
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