26.5.2017
なぜ、現在のタグホイヤーは「手巻式」を採用しないのか?
Komehyo
ブログ担当者:須川
今回はタグホイヤーに対する疑問をひとつ。
それは、
「なぜ、現在のタグホイヤーは“手巻式”を採用しないのか?」
という疑問です。
↑自動巻式やクォーツ式を
採用することが多いタグホイヤー
“手巻式”とは、時計の内部ムーブメントの種類の一つです。
↑手巻式ムーブメント
※画像はパネライのルミノールマリーナの裏側
例えば、近年の有名な手巻式の時計といえば、
「オメガ/スピードマスタープロフェッショナル」、
「ジャガールクルト/レベルソ」、
「パネライ/ルミノールマリーナ(ベース)」、
「パテックフィリップ/カラトラバ5196」
などが挙げられます。
この例以外にも、多くの高級時計メーカーは、多少なりとも“手巻式”のモデルをラインナップさせています。
しかし、タグホイヤーは違います。他のメジャーな時計メーカーと比較しても、現在のタグホイヤーは“手巻式”と距離を置いています。まれに、必要に迫られて“手巻式”を例外的に採用するのみです。下で、もう少し掘り下げて述べさせていただきます。
■タグホイヤーと“手巻式”は水と油!
私は、タグホイヤーと“手巻式”は水と油のような関係に感じます。両者のイメージを下でまとめます。
<タグホイヤーのイメージ>
・アヴァンギャルド(先駆的な表現者)
・スポーティ
↑タグホイヤーのイメージ
※画像はオータヴィア
<“手巻式”のイメージ>
・コンサバティブ(保守的)
・フォーマル(格式ばっている)
↑“手巻式”のイメージ
※パテックフィリップ/カラトラバ5196
上で挙げた“タグホイヤー”と“手巻式”のイメージは、正に「真逆」です。まさに、相容れない水と油のような関係です。
“手巻式”について補足します。時計のムーブメントの進化の流れは、「手巻式→自動巻式→クォーツ式(電池式)・・・」という順番です。そのため、手巻式より、クォーツ式や自動巻式の方がより新しい発明品です。つまり、手巻式は「ムーブメントの“古典”」のような存在です。
また、手巻式は「自動巻式より物理的に薄い」という特徴があります。自動巻式は、“ローター”と呼ばれる部品を裏蓋側に持ちますので、手巻式よりも厚くなりがちです。
つまり、時計メーカーが製品に手巻式ムーブメントを採用する場合は、「伝統的なスタイルを求める場合」や「薄い時計を作りたい場合」なのです。
タグホイヤーは上記のように、アヴァンギャルドさやスポーティさを重視しています。そのため、「“伝統的”ではなく“先進的”」、「“薄さ”ではなく“剛性”(※1)」を求めるタグホイヤーは、“手巻式”とは縁遠い存在なのです。
■タグホイヤーが“手巻式”を採用した稀有な例
しかし、最近のタグホイヤーが“手巻式”を採用した数少ない例があります。下で紹介しましょう。
<最近のタグホイヤーが“手巻式”を採用した例>
①カレラ・クロノグラフ(初期の復刻デザイン)
1996年に復刻デザインのカレラが作られます。このモデルは、手巻式クロノグラフムーブメントのレマニア1873を搭載していました。手巻ムーブメントが採用された理由としては、「復刻」ということが重要だったからだと思います。文字盤のブランドロゴもかつてのデザインを採用し、ムーブメントもオリジナルモデルのように手巻式を採用したのでしょう。
↑レマニア1873
※画像は他の時計のもの
②エドワード・コレクション
創業125周年を迎えたタグホイヤーは、創業者“エドワード・ホイヤー”の名を冠したコレクションを誕生させます。こちらも、レマニアの手巻式キャリバー1874を搭載します。上のカレラ同様に、「過去へのオマージュ」という点を重視し手巻式を採用したのでしょう。
③モナコ69(Sixty Nine)
2003年に話題となった、驚くべき両面ウォッチ。それが、モナコ69です。表面と裏面を両フェイスにして、一方が手巻式、もう一方がデジタルクォーツにした珍しいモデルです。異なる機構で“両面仕様”にするためには、2つのムーブメントを表裏で使い分ける必要があります。現実的な厚みの時計にするために、一方のムーブメントに薄い手巻式のETA7001(プゾー7001)を採用しています。
↑ETA7001
※画像は他の時計のもの
④カレラ・キャリバー1
2008年に世界6000本限定としてリリースされたのが、カレラ・キャリバー1。搭載されるキャリバー1は、ETA6498(ユニタス6498)ベースの手巻式ムーブメントです。ムーブメントにモダンな仕上げを施している点が面白いです。
ユニタス6498は、元々“懐中時計用”のムーブメントですので、“腕時計用”より大きく、厚みもあります。そのため、「薄さ」を意図したものではありません。そして、モダンな仕上げが施されたことからも、「伝統的なスタイル」も意図していないでしょう。このモデルは全く別の意図で作られており、おそらく「デザイン優先」の帰結として手巻式のユニタス6498が使われたのでしょう。手巻式はムーブメントの裏蓋側に“ローター”という巻上げ部品がなく、ムーブメントの“顔”とも言えるブリッジ(受け)が隠れず全て見えます。そのため、ムーブメントの「仕上げを見せやすい」という利点があります。少し例外的な、手巻式の採用例かもしれません。
↑キャリバー1(ETA6498ベース)
■最後に
いかがでしたか?上では、“手巻式”が例外的に採用される例を4つ紹介しました。少し言い回しを変えると、「ある程度の年月を遡って見ても、“手巻式”が採用された主な例が、わずか4つしかなかった」とも表現できます。そして、どれも基幹モデルではなく、特殊なモデルとして作られていました。このことからも、“現在のタグホイヤー”と“手巻式”がいかに縁遠い存在かご理解いただけたでしょうか。ではなぜ、タグホイヤーが手巻式と距離を置いているのでしょうか?
それは、
「タグホイヤーは明確なブランドビジョン(アヴァンギャルド、スポーティ)を持っており、それに対して筋を通しているから」
です。
多くのメーカーが、「あれもこれも」と広範囲なラインナップを求めますが、タグホイヤーは別です。タグホイヤーは、「アヴァンギャルドであること」、「スポーティであること」に真摯に向き合っているのです。そこが、タグホイヤーの魅力かもしれません!
※1・・・普及している腕時計用の手巻式ムーブメントは、設計が古いものが多い状況です。そのため、「昔ながら」の特徴を持ちます。「昔ながら」の特徴のひとつは、「小ぶり」であることです。つまり、小さくて薄いのです。これは、当時のサイズのトレンドがそうだったからです。もうひとつは、「振動数が低い傾向にあること」です。振動数が低いと、磨耗が少なく耐久性が上がりますが、携帯時の精度の安定性が落ちます。その点で、設計がより新しい自動巻式は振動数が高い傾向にあり、活動的に腕時計を使用する場合は、自動巻式の方が優位です。このことを、今回は「剛性」と表現させていただきました。
※おすすめ投稿記事
「タグホイヤーの面白い選択肢! 「レトロホイヤー」のすすめ ~F1、1000~6000シリーズ、S/el、キリウムなど~」
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