14.4.2017
高級時計ブランド「ブランパン」は、なぜ時計愛好家に支持されているのか?
Komehyo
ブログ担当者:須川
高級時計ブランド「ブランパン(BLANCPAIN)」をご存知でしょうか?
時計に明るい方であれば、
「1735年に創業した、時計業界の現存する最古ブランド(※1)」
「オメガが属するスウォッチグループ内の、ブレゲと並ぶ高級時計メーカー」
というイメージがあるかもしれません。
そして私には、
「“一部の”時計愛好家に愛されているブランド」
というイメージもあります。
ここで、敢えて“一部の”という表現を使いましたが、これは、私が「ブランパンは万人受けするブランドではない」という認識をもっているからです。なぜなら、ブランパンを支持する方の多くは、“ブランパンの売り”を正確に把握している方であり、その“ブランパンの売り”という知識は誰もがもつ知識ではないからです。
そこで今週は、“ブランパンの売り”を紹介させていただきます。この“ブランパンの売り”を理解していただくと、“一部の”時計愛好家がブランパンを支持している理由が理解できるはずです。
私が思う“ブランパンの売り”は、以下の2点です。
①機械式時計しか作らない(=クォーツ時計を作らない)
②機械式時計の魅力を世間に広めたブランドである
↑機械式時計(手巻式)
※「機械式時計」とは、電池で動くクォーツ時計が発明される前から続く、“ゼンマイ”で動く伝統的な機構の時計を指します。現在でも“自動巻式”や“手巻式”などと表現され、ロレックス・オメガ・パテックフィリップなど多くの高級時計に採用される機構です。
上で挙げた2つの“ブランパンの売り”を理解すると、きっとブランパンを好きになることでしょう。そして実は、この2つの“ブランパンの売り”は、「機械式時計の人気を復活させたい」というひとつの想いから生まれたものです。下で、掘り下げて述べさせていただきます。
■ブランパンの復活=機械式時計の人気復活
前述のように、ブランパンは1735年に創業した時計業界の超老舗メーカーです。しかし、1969年、最先端であるクォーツ時計が登場すると、ブランパンにとっても厳しい状況が訪れます。安価で正確なクォーツ時計は、多くの人々に支持され、従来の機械式時計は下火になってしまったのです。この状況は、時計業界で「クォーツショック(※2)」と呼ばれます。そして、クォーツショックによりブランパンは経営が悪化し、1970年代にブランドが休眠状態になってしまいます。
この“機械式時計の冬の時代”を打破すべく立ち上がったのが、ブランパンを復活させた立役者、ジャン・クロード・ビバー氏(※3)です。1983年、ビバー氏はブランパンの権利を買い取り、ブランパンを復活させます。復活にあたって、ビバー氏は、ブランパンが再び評価されるために必要なことを考えました。
それは、「機械式時計の人気を復活させること」です。
つまり、「機械式時計の人気復活=ブランパンの復活」と考えたのです。
■機械式時計人気の復活のためのビバー氏の構想とは?
「機械式時計の人気復活=ブランパンの復活」を実現するためには、クォーツにはない機械式時計ならではの魅力を示す必要があります。そこでビバー氏は、以下を構想します。
<ビバー氏のブランパン復活時の構想>
・機械式時計しか作らない(クォーツ時計は作らない)
・“シックス・マスターピース(6つの傑作)”を作る
→機械式時計の6種類の傑作機構を作り出す
“シックス・マスターピース”は、以下の6つの機構です。
①ウルトラスリム
※通常より薄く作られる時計
②ムーンフェイズ(+トリプルカレンダー)
※月の満ち欠け(月齢)表示
③永久カレンダー
※うるう年まで把握するカレンダー
④スプリットセコンドクロノグラフ
※同時に2つの時間が計測できる
⑤トゥールビヨン
※時計にかかる重量を平均化する
↑画像はレマン・トゥールビヨン
⑥ミニッツリピーター
※暗所でも音で時刻が分かる
“シックス・マスターピース”と呼ばれるこれらの機構を、小ぶりな腕時計に採用することは非常に難しいことです。しかしビバー氏は、人脈により高級ムーブメントメーカーの“フレデリックピゲ社”に近づける環境にありました。そのため、ビバー氏はブランパン復活当初からこれらの難易度の高い機構にチャレンジすることができました。復活した当初は、5名ほどしか職人がいなかったようですので、大変だったと想像ができます。しかしその困難を乗り越え、フレデリックピゲ社から供給されるムーブメントに機構を組み込み、数年かけてシックス・マスターピースは出揃います。
■ブランパンは、機械式時計の復活への貢献したブランド
このシックス・マスターピースは、嗜好品に興味のある男性の心を揺さぶります。シックス・マスターピースを見た男性は、ハイテク製品であるクォーツ時計にはない、なんとも懐かしい感動を感じるのです。そう、子供のころに触れた“ゼンマイのおもちゃ”や“からくりのおもちゃ”をはるかに越える、「“機械仕掛けのギミック”の最高峰を見た感じ」でしょうか。
そして、ブランパンの作り出す魅力ある機械式時計の影響もあり、時計業界で機械式時計が再評価さるようになります。
今では、「男性の高級時計≒機械式時計」という状況になっており、完全に機械式時計は復活しています。この現在の状況は、ブランパンの功績も大きいのです。これが、時計愛好家がブランパンを評価する要素のひとつです。
再度、述べます。“ブランパンの売り”は以下の2点です。
①機械式時計しか作らない(=クォーツ時計を作らない)
②機械式時計の魅力を世間に広めたブランドである
そして、この“ブランパンの売り”が成立した背景を理解している時計愛好家は、ブランパンに感謝と親しみを抱いているのです。
そう、
「“機械式時計の冬の時代”に、機械式時計に特化する戦略で、機械式時計の人気復活に貢献してくれてありがとう!」
と!
※1・・・ブランパンは現存する最古の時計ブランドではありますが、一度、経営が休眠状態となった時期もあります
※2・・・クオーツショックは、クォーツ時計の台頭をきっかけに、1970年代から1980年代にかけて、伝統的なスイスの機械式時計(関連)メーカーの多くが廃業に追い込まれた状況を指します
※3・・・ジャン・クロード・ビバー氏は、ブランパンの復活を成功させた後も活躍を続けます。その後も、オメガの躍進に貢献し、ウブロではビッグバンもヒットさせました。2014年からは、LVMHグループの時計部門のプレジデントとして、ウブロ・ゼニス・タグ・ホイヤーを統括しています。
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