高級腕時計の時計通信

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10.3.2017

グランドセイコーは“9Sキャリバー”で時計王国スイスに挑む!

Komehyo

ブログ担当者:志津

 

国産時計メーカーの雄、セイコー。時計業界内でも屈指の開発力を持つマニュファクチュールであり、日本のみならず世界中で多くのユーザーに親しまれています。

 

 

しかし、“高級時計”のジャンルにおいては、スイスの時計メーカーが世界の中心です。スイスの高級時計メーカーを挙げると、ロレックス、パテックフィリップ、オメガ、ブライトリング、IWC、パネライなど、世界中の多くの方が憧れるメーカーがずらりと並びます。やはり、スイスは“時計王国”とも言える状況です。そして、2番手はランゲ&ゾーネ、グラスヒュッテ・オリジナルなどを擁するドイツというイメージがあります。

 

日本と言えば、セイコー、シチズン、カシオなど世界的に名の通った時計メーカーがあります。しかし、それらの国産メーカーは、“高級時計”よりも“一般時計(普及用時計)”で知られた存在です。

 

しかし、最近セイコーの高級ライン“グランドセイコー”が世界で評価されるようになっています。

 

↑グランドセイコー
※モデルはSBGR057

 

グランドセイコーの魅力として、特殊機構である“スプリングドライブ”を搭載するモデルがあることや、世界最高峰クラスのクォーツムーブメント“9Fキャリバー”を搭載するモデルがあることも大きいと思います。これらの点は、スイスメーカーよりも秀でた部分だと思いますので、これからも大きくアピールをしていくべきだと思います。

 

さらに、“高級時計の本丸”である機械式時計(自動巻・手巻式)の分野でもグランドセイコーは王国スイスに独自のアプローチで対抗しています。機械式時計の分野で挑む武器は、なんといってもセイコーの自社製ムーブメント“9Sキャリバー”です。この9Sキャリバーでスイスに、そして世界に挑むのです。

 

↑9Sキャリバー(自動巻式)

 

今回は、グランドセイコーの機械式時計において、大きな魅力である“9Sキャリバー”について紹介いたします。

 

 

 

 

 

 

◆9Sキャリバーは“新GS規格”で挑む!

↑製品に付属する“新GS規格”の合格証明書
(個別の番号は黒塗りにさせていただきました)

 

“9Sキャリバー”は、グランドセイコー専用の自動巻ムーブメントとして1998年に誕生しました(その後、2001年に手巻式も加わります)。国産最高峰の機械式時計として、高精度を目指したムーブメントです。

 

9Sキャリバーを生み出したセイコーの開発力は流石だと思います。しかし、凄さはそれだけではありません。9Sキャリバーの良さをアプローチする手法も秀逸なのです。

 

それは、9Sキャリバーの登場とともに発表された“新GS規格”です。それは、かつて行っていた社内の精度検査“GS規格”を復活させただけのものではありません。よりグレードの高いものに再設定した新規格なのです。

 

凄いところは、精度の良さを示す指針として有名な“スイス公式クロノメーター(C.O.S.C)”を越える基準を設たことです。比較すべき点を以下で紹介します。

 

 

<2つの規格の基準>
■スイス公式クロノメーター
・日差:-4~+6秒以内
・姿勢:5つの姿勢
・温度環境:3つの温度
・期間:15日間
 
■新GS規格
・日差:-3~+5秒以内
・検査姿勢:6つの姿勢
・温度環境:3つの温度
・期間:17日間

 

 

この比較を見て、どう感じたでしょうか。スイス公式クロノメーターは、ロレックス、オメガ、ブライトリングなどスイスの多くのメーカーが“ムーブメントの精度のお墨付き”として取得しています。そのスイスのスタンダードを越えることが重要なのです。つまり、「グランドセイコーの時計はスイスの時計より精度が良い」と世界の人々にイメージしてもらうことが、機械式グランドセイコーの成功につながる重要なポイントなのです。是非、この新GS規格を上手に世界の人々に伝えて欲しいものです。

 

また、私は一時計ファンとして、この新GS規格に強いこだわりとプライドを感じました。つまり、セイコーは単純に商業的な目的だけで新GS規格を始めたわけではなく、時計王国スイスに対して日本のセイコーの存在感を示したい気持ちがあるのではないかと、勝手ながら推測しています。

 

 

 

 

 

 

◆9Sキャリバーは“独自の開発技術”で挑む!

 

さらに、現在の9Sキャリバーには様々なセイコー独自の開発技術が詰め込まれています。

 

その技術開発の一貫した目的は“実用性の追究”です。つまり、“常に精度が高いこと”を追求しているのです。特に、機械式時計を高精度に保つためのポイントである「耐衝撃」「耐磁気」「動力の安定」に向け独自研究をしています。

 

その成果として2009年以降、以下の3つの改良につながりました。

 

①動力ゼンマイ(主ゼンマイ)の改良
→新素材の主ゼンマイを開発し、バネ力が向上
 
②制御ゼンマイ(ヒゲゼンマイ)の改良
→新素材のヒゲゼンマイを開発し、耐衝撃性と耐磁性の改良
 
③脱進機(ガンギ車、アンクル)の改良
→ニッケル製の肉抜き加工された脱進機をつくり、部品の耐久性・駆動効率・保油性を改善

 

 

セイコーの凄いところは、精度向上のためのアプローチの発想です。その発想が「設計でなんとかする」ではなく、「素材から見直す」というものなのです!

 

しかし、「素材から見直す」ことは、既に時計メーカーができる開発の範疇を超えています。そこで、“協力者”の有無が大切になります。①と②のゼンマイは、東北大学金属材料研究所と電気磁気材料研究所の協力で開発しています。そして、興味深いのが③の脱進機です。

 

この脱進機の改良は、関連会社のセイコーエプソンが協力しています。セイコーエプソンはセイコーの時計製造の一端を担っている会社ですが、“EPSON”ブランドでも有名な通り、カラーイメージング分野、ロボット工学、精密機械、 電子デバイスなど技術革新の最先端を担う 企業でもあります。

 

そのセイコーエプソンから提供された技術が「MEMS(メムス)」です。

 

↑MEMSを活用しで作られたガンギ車
(赤丸の中の肉抜きされた銀色の歯車)

 

MEMSは精密機器部品の作成方法です。金属を削って作るのではなく、転写した方に堆積させる非常に珍しい方法です。本来は半導体などで使われる技術です。上の画像の“肉抜きされたカンギ車”がMEMSで作られた例です。このMEMSによって作られた脱進機は、軽量化によって駆動効率が上がっただけでなく、ニッケルで製造され耐久性も向上しました。

 

この実用性、つまり高精度にこだわったブラッシュアップがされている点も9Sキャリバーの魅力です。

 

 

 

 

 

 

ここまでで、グランドセイコー専用ムーブメントである“9Sキャリバー”の魅力がお分かりいただけたでしょうか?“新GS規格”という分かりやすい精度証明があり、スイス公式クロノメーターを越える検査を通過した証明がされています。そして、現在維持ではなく、最新の技術で高精度のために改良を行なっている姿勢も、ユーザーとしては嬉しい限りです。

 

しかし、スイスの時計メーカーも精度への追求を止めたわけではありません。例えばロレックスは2015年、“高精度クロノメーター認定”を始めました。これは、日差-2〜+2秒をクリアさせる検査で、新GS規格を越えるものです。再びセイコーにとっての“越えるべき壁”ができたように感じます。このロレックスの動きに対抗して、是非、9Sキャリバーのグランドセイコーも新たな一手をうってもらいたいです。私はセイコーのこれからの動きに期待しています!

 

 

 

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