15.7.2016
フランクミュラーの「クレイジーアワーズ」は衝撃作!
Komehyo
ブログ担当者:福冨
今回は、時計における時刻表示のお話です。様々に考案されてきた時計の時刻表示の中で、私はフランクミュラーの「クレイジーアワーズ」がもたらしたものが衝撃的でした。そして、私のおすすめの時計でもあります。今週は、クレイジーアワーズの登場がどのように衝撃的だったかを述べさせていただきます。
↑トノウカーベックス“クレイジーアワーズ”
◆時計の時刻表示方法
まずは、時計の時刻表示方法についてです。皆さんが思う“時計の時刻表示方法”とはどのようなものでしょうか?おそらく、すぐにイメージできるものは以下の2つではないでしょうか。
↑アナログ針の表示
※画像はユンハンス「マックスビル」
↑デジタル表示
※画像はカシオG-SHOCK
時計の時刻表示は大きく分けると“アナログ針の表示”と“デジタル表示”の2つに分かれます。そして、高級時計の多くはアナログ針の表示を採用します。ロレックス、オメガ、パテックフィリップなど有名な高級時計メーカーのモデルを思い浮かべていただくと分かりやすいかと思います。
高級時計はアナログ針式ですので、これまで「いかにアナログ針で効果的な表示をするか」が研究されてきました。例えば、“見やすさ”を重視すれば大きな針や夜光塗料をもつ針などを採用し、“上品さ”を重視すれば細い針を採用します。さらに、クロノグラフやGMTなど機能を付加したい場合は、針を増やして表示できる要素を増やします。
他の例として、秒針があります。時計デザインではよく“センターセコンド”か“スモールセコンド”かという選択をします。つまり、秒針を文字盤の真ん中の軸に付けるか、真ん中からずらして小さな秒針を別の場所に付けるかというものです。もちろん“秒針なし”の2針時計にするという選択さえあります。センターセコンドは読み取りやすく実用的です。スモールセコンドは手巻時代のクラシックな雰囲気を与えます。そして、秒針がない2針の時計は社交界などパーティのドレスコードとして知られています。
↑左:センターセコンド、右:スモールセコンド
このように、時計業界ではアナログ針の効果的な表示方法を考案してきました。いつの時代も、時計デザイナーは実用面、機能面、TPO面など様々な配慮をしながらアナログ針式の時計をデザインしています。そして2003年、このアナログ針式の時計デザインに衝撃を与えた作品が登場します。
そう、フランクミュラーの「クレイジーアワーズ」です。
◆クレイジーアワーズは衝撃作!
“クレイジーアワーズ(Crazy Hours)”は日本語に直訳すると「狂った時間」という意味です。時計の意匠だけでなく、“時間という概念”ごとリデザインした衝撃作です。
前述したように、高級時計は主にアナログ針で表示されており、実用面、機能面、TPO面などを考慮しながらデザインされます。時計デザインのスタートとして、“12時間かけて徐々に1時~12時を巡る時針”と“60分で一周する分針”があることが前提になっています。つまり、その時針と分針の存在が前提条件で、それ以外の要素をいかにアレンジするかが時計デザインの大きな作業です。
しかし、クレイジーアワーズはその前提条件にメスを入れたのです。つまり、時計にとって“12時間かけて徐々に1時~12時を巡る時針”と“60分で一周する分針”があることが絶対ではないということを示したのです。なんとクレイジーアワーズは、「時針が連続的に回らない」という表現を行ったのです!
最大の特徴は、1~12までのインデックスがバラバラに設置されていることです。つまり、通常はインデックス“1”の横は、左が“12”で右が“2”です。しかし、クレイジーアワーズのインデックスは、“1”の横が“8”と“6”で、“2”は6時位置にあります(※1)。もしクレイジーアワーズの時刻が1時だった場合、次の2時の時刻を示すためには、時針を「4つ飛ばし」で動かなければなりません。つまり、クレイジーアワーズは時針を4つ飛ばしでジャンプさせる時計なのです。そのため、インデックスの数字も4つ飛ばしで配置されており、インデックスが自然数の順番で並んでいません。そのために、私たちは直感的な“針の位置での時刻把握”ができません。まさにクレイジーアワーズ(狂った時間)です。私たちが正しく時間を把握するためには、しっかりと時針が指すインデックス数字を確認しなければならないのです。
実は「時間が連続的に表示されない」時計は過去に存在しました。それは、ジャンピングアワーという機構です。時針、または、アワーディスクを分針に連動して徐々に動かさず、毎正時に瞬時に切り替える機構です。ブレゲがマリーアントワネットのために設計した懐中時計No.160にも採用されている機構ですので、随分以前からある機能です。現在ではジェラルド・ジェンタによってディスク式ジャンピングアワーが有名になり、幾つかのメーカーもジャンピングアワーの時計をラインナップしています。
↑ディスク式ジャンピングアワー
※画像はオメガ「デ・ビル トノー」
クレイジーアワーズのメカニズムは、このジャンピングアワーを応用しています。毎正時に時針を4つ飛ばしでジャンプさせるようにしたのです。当然複雑な構造ですので、ある程度繊細である点は理解が必要です。
いかがでしたか?フランクミュラーが作り出したクレイジーアワーズは、“時間という概念”ごとリデザインした衝撃作です。時計というよりは芸術作品に近いのではないでしょうか。誰しもが時計の時刻表示は「1時~12時まで連続的に1周する」と考えていたはずです。それが常識です。非凡なフランクミュラー氏はこの常識、つまり時計が時計であるための前提条件を根底から覆しました。「時とは人間が創り出したもの。ならば表現も自由」ということなのでしょう。
私は、羽なし扇風機が登場したときに、「扇風機って回る羽がなくても良いんだ!」と目から鱗でした。フランクミュラーのクレイジーアワーズでも同じような感覚になりました。「時計の針って別に回る必要はないんだ!」と。そして同時に、そのような驚きを与えるフランクミュラー氏の“遊び心”を感じました。
クレイジーアワーズ、間違いなく時計史に残る名作となるでしょう。
※1・・・多くのクレイジーアワーズはインデックス“8”が12時位置で、“2”が6時位置というレイアウトです。しかし、一部例外モデルが存在します。例えば、2013年に登場したクレイジーアワーズの10周年モデルは、敢えてインデックス“10”を12時位置に持っていくことで10周年ということを強調しています。この場合は“4”が6時位置にきます。
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