27.5.2016
カルティエの男性取り込み策「コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ(CPCP)」が成功した理由は?
Komehyo
ブログ担当者:亀田
時計業界でも人気ブランドであるカルティエ。「タンク」、「サントス」、「パシャ」など名作を次々と生み出す創造性をもつカルティエは、時計業界の中でも孤高の存在です。以前のブログ「独自路線を行くカルティエウォッチの魅力とは?」でも、カルティエが芸術作品を作るように時計作りをしていることは述べています。
しかし、カルティエの時計はその芸術的なデザインがゆえに、「デザイン性に共感できる方のみが購入する」という状況が生まれやすいのです。嗜好品を購入する際に、特に女性は「感性」というアンテナを頼りにした商品選びをする方が多いため、カルティエウォッチは男性よりも女性に支持されてきました。そこで、男性層も取り込みたいカルティエはある策を講じます。1998年より、カルティエは「コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ(CPCP)」というラインを本格展開させるという策をとりました。これは、正に男性の琴線に触れるラインでした。そう、CPCPに男性層の時計愛好家が反応したのです!見事にCPCPは成功しました。そして、私はこの成功の秘訣が「作品の良さ」というより「分かりやすさ」にあったと考えています。
今週は、カルティエが男性に向けた渾身のラインCPCPが成功の秘密に迫ります。
↑男性時計愛好家に受け入れられたCPCP
※画像は「タンク・ア ビス・ア ギシェ タイム&デイト」
◆男性の琴線に触れる要素を持つCPCP
前述したように、カルティエは男性層を取り込むためにCPCPを誕生させました。そこで重要なのが、男性の琴線に触れるツボを押さえることです。私が考える男性の琴線に触れるツボは、ずばり「ロマン」です。つまり、男性は「商品がもつ背景」を理解して購入をしたいと考えるのではないでしょうか。例えば、モデルの誕生秘話やモデルの詳細スペックなどです。その中でもスペックは特に男性に響くポイントです。
ではここで、CPCPをより理解していただくために特徴をまとめさせていただきます。
<CPCPの特徴>
1.「機械式時計」にこだわる
大きな特徴として、CPCPは上質な手巻式ムーブメントを採用します。もちろん高級ムーブメントということになります。ピアジェ製、フレデリックピゲ製、ジラールペルゴ製、THA製などです。そして多くの製品で裏面をシースルーにすることで、その上質なムーブメントを鑑賞できるようにしています。
2.「デザイン」にこだわる
二つ目はデザインです。カルティエの持つ長い歴史とオーナーを結びつけるべく、CPCPは敢えて過去の名作のデザインを採用します。1904年から製造されてきた数々のデザインの中でもより優れた作品を選択し、現代の上質なムーブメントとコラボレートするのです。「タンク」、「サントス」、「トノー」、「パシャ」など名作揃いです。
↑CPCPモデルの例
※左上:サントスデュモン、右上:タンクシノワーズ、
左下:トーチュ、右下:タンクバスキュラント
3.「素材」にこだわる
三つ目は素材です。CPCPの時計は高級な素材であるイエローゴールド、ピンクゴールド、ホワイトゴールド、プラチナで作られます。一般的な素材であるステンレスのモデルは存在しません。また多くの製品でその時計の素材に合わせたDバックルが付いています。
4.「文字盤ロゴ」にこだわる
四つ目は文字盤のロゴです。この文字盤ロゴがCPCPを特別なラインにしているとも言えます。前述したように、CPCPは「コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ」のことです。「プリヴェ」はフランス語でプライベートを意味し、全体では「カルティエ・パリのプライベートコレクション」という意味になります。カルティエはパリにも工房を持っていましたが、基本的にはスイスで時計を作っています。通常ラインナップであれば文字盤下に小さく「SWISS MADE」や「SWISS」と印字されるのみです。しかし、CPCPはそのライン名の通り「CARTIER PARIS」というロゴを文字盤に印字するのです。それも、文字盤上で目立つ位置にです!この特別感の演出は秀逸です。
※CPCPが登場する以前にも「PARIS」と印字されたモデルは存在しましたが、メーカーロゴから離されて印字されており、「CARTIER PARIS」ではありませんでした。
※一部CPCPでも「CARTIER PARIS」ロゴにしない例外モデルも存在します。
このように、CPCPは「過去の名作デザイン+高級ムーブメント+高級素材」という要素で作られます。正にカルティエのプレステージラインです。そして、文字盤に「CARTIER PARIS」ロゴを印字することで、その特別感を表現します。このように、CPCPには男性受けする要素が詰まっているのです。
◆CPCPのねらいは「分かりやすさ」だった!
しかし、実は以前からカルティエはCPCPと同じような要素をもったモデルを作っていたのです。例えば「トノー」と呼ばれるモデルがそうでした。しかし、男性にあまり響かなかったのです。その理由を私は次のように解釈しています。
かつてのカルティエは既にCPCPが持つような男性の琴線に触れる要素をもっていたが、圧倒的なデザインインパクトに掻き消されてしまっていた
そこで、男性に上手に訴えるための手段が「分かりやすく表現する」ことであり、CPCPだったのではないでしょうか。個々のモデルで勝負するのではなく、一つのラインとして展開することで、カルティエが持っていた「男性受け要素」が際立つようになったのです。例えば前述した「トノー」というモデルはCPCP以前からありますが、男性消費者はあまりそのモデルに注目をすることはありませんでした。しかし、華々しくCPCPラインを登場させ、男性消費者にCPCPを認識させた状況で登場した「CPCPのトノー」はそれまでのモデルイメージとは異なりました。以前よりも華のあるモデルに感じます。つまり1998年以降、「CPCP」という箔を得て、多くの作品が輝いたのです!
↑CPCP以前から存在するトノー
ここまでの文章から、男性消費者へ「分かりやすく」魅力を伝えることが、カルティエにとって大事なことだった点をご理解いただけたでしょうか?CPCP以前は「パシャ」を何とか男性に普及させようと苦心していたカルティエですが、CPCPの成功以降、男性用モデルの打ち出しが上手になったと感じます。
これだけCPCPについていろいろ述べましたが、残念ながらCPCPは2008年で終了してしまいました。しかし、この終了は「役目を終えた」と解釈する方がしっくりきます。すでに、カルティエウォッチは男性に認められたのです。今ではCPCPの代わりに新たな男性へのアプローチとして、「オート オルロジュリー コレクション」が展開されています。きっと次のステージに入ったのでしょう。
終了した今だから分かるCPCPの金字塔的存在感。皆さんも、もし中古市場でCPCPに出会うことがあれば、一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
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