18.10.2020
なぜ腕時計の素材に「カーボン」が使われるのか? ~カーボンファイバー、フォージドカーボンとは~
Komehyo
ブログ担当者:藤井
■なぜ腕時計の素材に「カーボン」が使われるのか? ~カーボンファイバー、フォージドカーボンとは~
今回は、「カーボン」の話です。
例えば、下の画像はウブロの時計ですが、これは外装素材にカーボンが使われています。
↑ビッグバン スクーデリア・フェラーリ
90thアニバーサリ- 3Dカーボン
この例のように、近年の腕時計には、しばしばカーボン素材が使われます。そのため、「カーボンってどんなもの?」と、気になる方も多いかもしれません。カーボンは日本語にすると「炭素」のことですが、ここで言うカーボンは、「炭素原子(C)が配合されている素材」を指します。
例えば、カーボンが使われる例としては、自動車やロードバイクが挙げられます。これは、カーボンが軽くて丈夫という特性があるからで、スピードと安全性を両立したい“乗り物”に採用されることは、頷けるところです。
例えば、自動車がカーボンを採用する理由は、「剛性を確保しつつ車体を軽くできる」「軽量のため燃費が向上する」などの理由でしょう。また、フレームやヘルメットに使われることが多いロードバイクの場合は、全体の重量を抑え、「ライダーの体力の消耗を抑える」意図があるのでしょう。
では、なぜ、“乗り物”よりもはるかに小さい“腕時計”にカーボンが使われるのでしょうか?
↑腕時計に使われるカーボン
腕時計の場合、カーボンは主に外装に使われます。例えば、ケースや文字盤、ベゼルなどです。実は、腕時計にカーボンを使うメリットはいくつかあるのですが、私は、衝撃に強いカーボンで内部を覆うことで、「繊細なムーブメントを守る」役割が一番の趣旨なんだと考えています。
では以降で、もっと詳しく説明をしていきます。
■カーボンとはどんなもの?
まずは前提として、「カーボンとは何なのか」という点から説明します。
↑「カーボン」は炭素原子が配合されている素材
冒頭でも触れましたが、ここで登場するカーボンは、「炭素原子(C)が配合されている素材」のことです。そして、腕時計に使われる主なカーボンは、「カーボンファイバー」と「フォージドカーボン」の2種類です。
①カーボンファイバー
まずひとつは「カーボンファイバー」です。カーボンファイバーは、炭素の繊維を束ねて編んだものです。一般的にはこの編み込んだシートと樹脂を組み合わせて固め、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)として使用します。このCFRPもメーカーなどによって個性のようなものがあり、カーボンと樹脂の割合、種類、成形方法など無数の違いがあります。
②フォージドカーボン
そして、もうひとつが「フォージドカーボン」です。フォージドカーボンは、自動車メーカーのランボルギーニ社が開発した、新たな複合素材“フォージドコンポジット”に極めて近いものだと考えます。
フォージドカーボンとカーボンファイバーの最大の違いは、“作り方”です。カーボンファイバーが長い繊維を編み込んでつくられているのに対して、フォージドカーボンは、短い繊維を樹脂に含浸し、高温高圧でプレスし成形します。こちらは高温高圧を掛けることにより、カーボンファイバーよりも耐久性が向上しています。また、より複雑な形状を再現できるのが特徴です。
■カーボンを腕時計に使うメリットとは?
次に、「カーボンを腕時計に使うメリット」を説明します。カーボンのメリットを知るには、カーボンの特性を知ることが近道です。まずは、カーボンの特性を説明します。
カーボンの特性は
①軽い
②引っ張りに強い
③温度変化に強い
④アレルギーが起きにくい
です。
注目ポイントは、「この特性が腕時計にどういったメリットをもたらすのか」です。それをわかりやすく理解できるように、腕時計のメイン素材「ステンレス(SUS316)」と、カーボンのメイン素材「CFRP」の対比で、カーボンの特性を説明します。
①軽い
→CFRPは「ステンレスの1/4の重さ」
CFRPの比重は約1.8g/cm³、ステンレスSUS316の比重は約7.9g/cm³と、同じ体積であったとき、重さがステンレスの1/4以下とかなり軽量です。腕時計の観点からいえば、CFRP製の時計は腕への負担が少なく、長時間の着用が苦になりません。
※比重…物質の密度と水の密度との比。水は「1.0g/cm³」
②引っ張りに強い
→CFRPは「ステンレスより10倍引っ張りに強い」
CFRPの強度重量比は約688.9kN·m/kg(1240N/mm2÷1.8g/cm³)、ステンレスの強度重量比は約65.8kN·m/kg(520N/mm2÷7.9g/cm³)と、密度あたりの引っ張り強さがステンレスの約10倍です。時計の外装や骨格に用いることで、ラフに使用する環境であっても、内部のムーブメントなどを保護します。
※強度重量比…素材のもつ引っ張り強さを密度で割った値。こちらの値が大きいほど、軽量でありつつ強度の高い素材となります。
③温度変化に強い
→CFRPは「ステンレスより気温の変化による膨張、収縮が少ない」
CFRPの線膨張係数が約0.4×10-6/℃、ステンレスの線膨張係数は(0℃~100℃で)約16.0×10-6/℃とCFRPの膨張率は極わずかであることがわかります。線膨張係数が大きい素材の場合、気温上昇が著しい環境で使用すると、素材が膨張し本体に歪みが生じ、最悪破損に繋がる可能性があります。CFRPはそういった心配も少ないです。
※線膨張係数…温度上昇における寸法変化の割合を、温度あたりで示した値。
※ここではPAN系のCFRPと想定しています。
④金属アレルギーが起きない
→CFRPでは「ステンレスで懸念される金属アレルギーが起こらない」
カーボンは金属とは全くもって異なった性質をもつマテリアルです。CFRPは樹脂などで成形することもありプラスチックに分類されます。そのため、金属アレルギーも起きず、皮膚が弱い方にも安心して時計を使用していただけます。
ここで挙げた4つの特徴は、そのまま「カーボンを腕時計に使うメリット」と同義になります。つまり、「軽くて、強くて(引っ張り/温度変化)、金属アレルギーがない」という点がメリットなのです。
ここまで、「CFRP」を例に良いことばかり語ってきたカーボン素材ですが、デメリットはないのでしょうか?その回答としては、もちろん、デメリットはあります。それは、以下です。
<カーボンのデメリット>
①修復が難しい
カーボンの構造上、仮に破損してしまった場合の修復が困難です。前述したとおり、衝撃への耐性は非常に高いのですが、想定外からの衝撃には弱い性質があります。欠けてしまったり、割れてしまった場合の修復は難しく、事実上パーツ交換になります。
またステンレスとも違い、傷が入ってしまった場合もポリッシュなどで傷を消すことはできません。
②コストがかかる
最近ではコストが下がってきたとはいえ、ステンレスと比較すると、まだまだカーボン素材は高価な材料です。材料自体のコスト、加工コストなど「大量生産」という面では課題は多いのが現状です。
ここまでで、メリットとデメリットを上げて、カーボンについて説明してきました。この内容から様々な意見が生まれるとは思いますが、私は総合的に考えて、「カーボンは腕時計に向いている」と考えます。なぜなら、やはり腕時計は“機械もの”なので、外装の大きな役割は「内部の機構を保護すること」と考えているからです。この点を重視し、私は、カーボンを高く評価するのです。
■カーボンを用いたモデル紹介
最後に、実際にカーボンを用いたモデルを2つ紹介します。ひとつはカーボンファイバーの採用例で、もうひとつはフォージドカーボンの採用例です。
・カシオ
G-SHOCK
「GWR-B1000-1A1JF」
こちらのモデルはケースが、積層CFRPを使用したモノコック構造になっている「カーボンコアガード」が特徴です。ベゼルにも52層のCFRPが使われており、ラフな環境でも衝撃から内部を守ります。また、ラバーベルト部にもカーボンファイバーが使用されており、引張強度が高められています。
・オーデマピゲ
ロイヤルオーク オフショア ダイバー
「15706AU.OO.A002CA.01」
こちらのモデルはケースにフォージドカーボン、ベゼルにセラミックを使用しています。クロノボタン、クロノボタンガード、リューズにはチタンが使われており、見た目の印象、サイズに比べて非常に軽量で、長時間着用していてもストレスを感じさせません。
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