9.2.2020
【時計の歴史を知る】G-SHOCKより前の「デジタル腕時計」はどのようなものだったのか? ~LCDより前の“LED腕時計”~
Komehyo
ブログ担当者:藤井
■【時計の歴史を知る】G-SHOCKより前の「デジタル腕時計」はどのようなものだったのか? ~LCDより前の“LED腕時計”~
今回は、時計の歴史を振り返る企画です。取り上げる内容は、「デジタル腕時計」です。
↑電子式デジタル腕時計
厳密に言うと、デジタル腕時計も“機械式”と“電子式”がありますが、今回は取り上げるものは、より一般的な“電子式”の方です。例えば、G-SHOCKの液晶タイプは、典型的な“電子式デジタル腕時計”です。
では皆さん、“G-SHOCKより前の時代のデジタル腕時計”は、どのようなものだったかご存知でしょうか?
現在のデジタル腕時計の主流は、「LCD」と呼ばれる液晶画面を採用していますが、その前のデジタル腕時計は「LED腕時計」でした。つまり、G-SHOCKなどの液晶タイプが主流になる前は、“LED腕時計の時代”だったのです。
今回は、皆さんに“デジタル腕時計の始まり”を知っていただこうと思います。以降で、デジタル腕時計の歴史、そして、実際にLED腕時計の実機を紹介しながら、LED腕時計を説明させていただきます。
■デジタル腕時計の歴史
ではまず、「LED腕時計」を理解するために、デジタル腕時計の歴史を紹介します。
ざっくりとデジタル腕時計の歴史をまとめると、
・LED腕時計
↓
・LCD腕時計
という流れがあります。
では説明します。初のデジタル腕時計が発売されたのは1972年、パルサーの「タイムコンピュータ」というモデルです。この時計は、従来の針で時刻を表す“アナログ表示式”とは異なり、針を使わない“デジタル表示式”でした。しかも、その時刻表示には、「LED(light emitting diode)」、つまり、発光ダイオードを利用しました。LED腕時計は、この新たな表示方法により、時計業界に革命を起こしたのです。
↑LED(発光ダイオード)で表示
もちろんLED腕時計は“電気”を動力をしていますので、その誕生は、電池を使う“クォーツ式時計”の登場の恩恵によるものです。振り返ると、1957年に初めて電池を動力源としたハミルトンの腕時計「ベンチュラ」が誕生し、1969年には、セイコーから初のクォーツ式腕時計「アストロン」が発売されます。こういった“電池式腕時計”の進化があり、その技術の上にLED腕時計が現れるわけです。
当時のLED腕時計に挑戦するメーカーは、伝統的に時計を主産業とするスイスの企業よりも、アメリカの企業の方が多かったように感じます。具体的には、パルサー、ブローバ、ヒューレットパッカード、ジラールペルゴなどが参入しました。やはり、新たな腕時計の可能性に、賭けるメーカーも多かったのでしょう。
しかしLED腕時計は、その真新しいスタイルによる話題性の反面、弱点がありました。弱点のひとつは、実際は消費電力が多く、「電池の持ちが良くないこと」です。さらに、繊細なLEDユニットは、「故障した際の修理が困難」という弱点もありました。
そして残念ながら、LED腕時計はその弱点を解決できない状況が続き、姿を消していきます。そして、デジタル腕時計は、“LCD(liquid crystal display)腕時計”に代わっていくのです。いわゆる、“液晶ディスプレイ”を採用する腕時計の時代が到来します。
↑LCD(液晶ディスプレイ)
この新たなLCD腕時計は、LEDと異なり“発光しないディスプレイ”を採用します。そのため、LED腕時計の弱点であった「消費電力が高い点」も解決しています。消費電力が低いLCDは、LED腕時計が苦手だった“常時点灯”も容易で、高い視認性があります。生産コストの優位性もあり、LCD腕時計の普及は必然だったように感じます。
■実機から見る「LED腕時計」
それでは実際に、「LED腕時計がどのようなものか」、見てみましょう。
今回は、具体的に理解できるように、パルサー「タイムコンピュータ カリキュレータ」の紹介を通じて、LED腕時計に触れてみましょう。
タイムコンピュータカリキュレータは、先に紹介した初のLED腕時計「タイムコンピュータ」の上位モデルで、腕時計で初めて電卓機能を搭載したモデルです。上の画像を見ていただいても、非常に、個性的なデザインをもっていることが分かります。
フェイスの半分以上をボタンが占めており、上部に横長の台形ディスプレイが配置されているスタイルは、特異なものです。「昔のSF映画で描かれる近未来デザイン」のように感じるこのルックスは、正に”レトロフューチャー”と言える存在です。私個人としても、魅力を感じるデザインです。
画面の数字は、セグメント(棒)の組み合わせでアラビア数字を表現する“赤いLED”が使われており、G-SHOCKなどのLCD腕時計とは違った趣があります。ただしこの数字は、常にLEDが点灯している訳ではなく、「Pulsar」と刻印されているボタンを一回押すことで約1秒間時刻を表示する仕組みになっています。
また、「Pulsar」ボタンは、画面の切替にも使えます。ボタンを一回押したままにすると、その間、“秒”を表示します。さらに、瞬時に二回押すと“日”、二回目を押し続けると“曜日”を表示します。
↑“曜日”を表示している様子
また、年代によっては回路に水銀スイッチが内蔵されており、本体を傾けることで自動でLEDが点灯する様になっています。水銀スイッチは密閉された容器の中にわずかな水銀が入っており、容器内を水銀が移動することにより容器の両端子を橋渡しし、通電する仕組みになっています。
そして最大の特徴は、“電卓機能”です。本体の「+」を押すことで電卓モードへと切り替わり、6桁までの四則計算が可能です。また、「R」ボタンを押すことで答えをメモリーさせることもできます。ボタンは非常に小さく指で押すことは困難なため、付属品としてボタンを押す用のボールペンが付属します。
誕生から40年以上経過している現在、現存しているLED腕時計は、「寿命によりLEDのセグメント切れを起こしていることが多い」現実があります。そのため、正しく時刻を表示する個体は少なくなっています。
通常の機械式であれば歯車や、ゼンマイを交換し修理すれば一生涯使い続けることができます。しかし、前述の通り、LEDのセグメント切れは、修理が非常に困難です。そのため、故障してしまった場合、修理を諦めざるを得ないケースが多いです。この点は、LED腕時計を所有する際のリスクと言えます。
しかし、コレクターにとっては、そのようなリスクを背負っても、手元に置きたい存在なのです。なぜなら、その独特のデザイン、そして、歴史的な価値から、魅力を感じるからです。それが、LED腕時計の魅力なのです。
■最後に
今回は、LED腕時計を紹介するために、「タイムコンピュータカリキュレータ」という、私のお気に入りの一本を紹介させていただきました。具体的にこのモデルを知ることによって、LED腕時計について、皆さんの知識が深まったのであれば幸いです。
このモデルは、金額的にも高価ではありませんし、人気モデルという訳でもありませんが、珍しいモデルだと思います。私はこのデザインから漂う「古ぼけた独特な雰囲気」がとても気に入っています。
最後に、今回、この記事を書こうと思った動機を書かせていただきます。その動機は、純粋に、「私がLED腕時計が好きだから」です。
私は、今ではあまり見ることの出来ないLED腕時計の存在に、ノスタルジーの様なものを感じます。また、当時のLED腕時計はどれもユニークな形状をしており、そこも魅力だと思います。
時計の長い歴史の中ではこういった、“登場から時間を経て、消えかけている技術”があります。そのような過去の遺産に目を向けてみるのも、趣味性の高い“腕時計”というアイテムの楽しみ方のひとつです。皆さんも、気になったら探してみてください。
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