4.8.2019
「ヴィンテージロレックス」が人気である理由はムーブメントにあり! ~名機キャリバー1570(1500系)~
Komehyo
ブログ担当者:須川
高級腕時計のヴィンテージ品の人気モデルの筆頭は、やはり「ロレックス」です。
↑ロレックスはヴィンテージとして人気が高い
では、ヴィンテージロレックスが人気である理由は何でしょう?
もちろん、ヴィンテージロレックスが人気である理由はいくつかありますが、その大きな理由は「ヴィンテージ品でありながら、今でも十分使える実用性がある」点ではないでしょうか。例えばヴィンテージロレックスは、何十年前の製品であるにもかかわらず、「今でも正確な時間を刻み、故障が割と少ない」のです。実用性はあまり期待できないヴィンテージウォッチにおいて、その実用性の高さがあるヴィンテージロレックスは、特別な存在です。その人気も頷けるところです。
そして、その実用性の高さに大きく貢献している要素が、内部の機械、つまり「ムーブメント」なのです。要するに、ロレックスは他社よりもムーブメントが優秀だから、丈夫で実用性が高いのです。
そこで今回は、ヴィンテージロレックスのムーブメントを紹介します。特に、ヴィンテージロレックスのムーブメントの代表的な存在である、「キャリバー1570」を紹介します。このムーブメントは、時計史に残る“名機”として知られており、高級時計を嗜む方の多くが高い評価を与えている存在です。
■ヴィンテージロレックスの代表的な存在「キャリバー1500系」
まずは、ロレックスのムーブメントを、大きな視点から理解することにしましょう。
おおまかではありますが、ロレックスのムーブメントの変遷は、下のような流れです。
<ロレックスムーブメントの変遷>
①キャリバー1000系(自動巻の黎明期)
↓
②キャリバー1500系(ヴィンテージ全盛期)
↓
③キャリバー3000系(前々世代)
↓
④キャリバー3100系(前世代)
↓
⑤キャリバー3200系(現在の最新)
上の5つのキャリバー系統を理解するために、少し説明します。1950年代に登場した「キャリバー1000系」は、初の全回転式ローターの自動巻ムーブメントです。このムーブメントは、“自動巻ムーブメントの黎明期の仕様”と考えて良いでしょう。サブマリーナやエクスプローラーの初期のものに搭載されましたが、その構造は、まだ前時代的です。イメージにすると、「手巻ムーブメントに、自動巻機能を付加したムーブメント」という印象です。
↑キャリバー1000系(Cal.1030)
そして、1950年代後半より登場する「キャリバー1500系」は、キャリバー1000系とは異なり、「自動巻専用機」という印象です。自動巻ムーブメントとしてトータル設計することにより、不要な厚みを減らし、さらに、最近のムーブメントに近いスペックを与えました。歴史的に見ても、まさに、“自動巻ムーブメントの金字塔”です。
↑キャリバー1500系(Cal.1570)
そして、1970年代後半からは「キャリバー3000系」、1980年代後半からは「キャリバー3100系」と進化しますが、それらは基本的に、“キャリバー1500系のスペックアップ版”という存在です。
↑キャリバー3100系(Cal.3135)
つまり、「ロレックスの自動巻ムーブメントは、すでに、キャリバー1500系で確立された」と言っても過言ではありません。
現行のムーブメント「キャリバー3200系」は現代の最近技術を投入し、キャリバー1500系から引き継いできた仕様を、大きく変化させました。そのため、ロレックスのムーブメントは、新たな時代に突入した印象です。しかし、現在の最新仕様ムーブメントも、キャリバー1500系からのノウハウの蓄積があってこそですので、その貢献はロレックスにとって大きなものなはずです。つまり、キャリバー1500系が築いた「自動巻ムーブメントの第一歩」があってこそ、現在のロレックスムーブメントがあるのです。
↑キャリバー3200系(Cal.3285)
■キャリバー1570の素晴らしさとは?
ここからが今回の本題です。“名機”と言われる、キャリバー1500系の代表作「キャリバー1570(以下、Cal.1570)」の素晴らしさを紹介します。
↑Cal.1570
まず、上にCal.1570の画像を用意しましたが、私は、「外観は、現代のムーブメントと遜色ない」と感じます。少し専門的になりますが、例えば、“サイズの大きなテンプ”に、“両方向巻上げのためのリバーサー”を持っている点は、現代の自動巻ムーブメントらしい要素です。
では、Cal.1570の情報を書き出します。
<Cal.1570について>
・製造
→1965年~1980年代後半
・タイプ
→自動巻式(リバーサー式両方向巻上げ)
・機能
→秒針/センターセコンド
※瞬時切替の日付表示つき/Cal.1575
※1970年代より、秒針停止機能(ハック機能)が追加
・パワーリザーブ
→約48時間
・石数
→26石
・その他の特徴
→巻上げヒゲゼンマイ
→マイクロステラスクリュー
→チラネジ
→リバーサーにレッドアルマイト処理
上のCal.1570の情報だけ見ると専門用語も多いので、分かりやすく説明します。
まず、一般的な“昔ながらの腕時計”は、「手巻式、秒針は6時位置」というイメージです。しかし、Cal.1570は、「自動巻式、秒針が中央位置」になりますので、現代的な印象です。そして、前述の通り、大きなテンプに、大きな香箱をもち、精度と実用性は現代的なスペックを備えます。
ここまでの要素は、現代の一般的な自動巻ムーブメントも持ち合わせるスペックです。しかし、ロレックスならではの特徴もあります。以降で紹介します。
まず、自動巻上げの際に使われる「リバーサー」という歯車に、赤い着色のある“レッドアルマイト処理”を施します。これにより、歯車の磨耗を抑えます。そして、高い精度を出すためのヒゲゼンマイ“巻上げヒゲゼンマイ”を採用します。
また、“マイクロステラスクリュー”と呼ばれる錘(おもり)をテンプにつけることにより、慣性モーメントを利用して精度調整をできるようにしています。一般的なタイプは直接ヒゲゼンマイを触って精度調整をしますので、ロレックスは特殊な(特に当時は)調整方法を採用していると言えます。このマイクロステラスクリューを使った調整装置によって、ヒゲゼンマイへの負担を軽減し、衝撃を受けても調整がずれにくい設計にしています。
このように、ロレックスムーブメントは、一般的な自動巻ムーブメントを凌ぐスペックを備えています。このスペックは、後継ムーブメントにも受け継がれていくほど完成されたもので、ロレックスの特徴と言えるのです。
ここまで語ったロレックスムーブメントの凄さは、Cal.1570以外にも通用する内容でした。そこで、私が思う、「Cal.1570ならではの魅力」を挙げます。
それは、「機能は近代的でありながら、外観はノルタルジックに美しいこと」です。
説明します。先で述べたように、ロレックスのムーブメントは、1950年代に登場したキャリバー1500系の時点ですでに、“近代的スペック”をもっています。とは言え、この時代のムーブメントは、まだ昔ながらの(ノスタルジックな)外観を残しているのです。
例えば、Cal.1570には、まだテンプにチラネジが残っています。チラネジは、テンプの周りに打ち付けられたピンのことで、まだ加工精度が安定しない時代に使われた技術です。そのため、チラネジは現代の時計には見られない仕様であり、懐かしい技術なのです。
そして、赤い着色(レッドアルマイト処理)がされた歯車も、後年のものとは色味が違います。具体的には、Cal.1570の方がより明るい色味に見えます。
このCal.1570の“チラネジ”や“明るい色味の赤い歯車”から、私は、今にはない「ヴィンテージ感」を感じます。そのため、私はCal.1570を見た際に、“現代と過去が融合されたような感覚”を抱き、魅力を感じるのです。
■最後に
今回は、ヴィンテージロレックスの人気を陰で支えるムーブメント、キャリバー1570を紹介しました。
「今でも実用に耐えうるスペックを持ちながら、ヴィンテージ的な要素も備える」
それが、キャリバー1570なのです。普段は見ることのできない内部の話ですが、ヴィンテージウォッチは“背景”も一緒に楽しむものです。是非、ムーブメントのことも知っておいてください!
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