22.12.2017
ご存じですか?「側面が透けて見える腕時計」 ~オメガ|デ・ビル アワービジョン~
Komehyo
ブログ担当者:栗田
オメガ(OMEGA)の時計に、「側面が透けて見える腕時計」が存在することをご存知でしょうか?
↑側面が透けて見える腕時計
時計業界では、裏側が透けて見える“シースルーバック”は、「裏スケ(ルトン)」や「スケルトンバック」などと呼ばれ、今ではメジャーな存在です。しかし、横側が透けて見える“横スケ”モデルは珍しい存在です。
その珍しい“横スケ”モデルが、オメガのデ・ビル アワービジョンです。
↑デ・ビル アワービジョン
通常、ムーブメントを見せる(魅せる)ために、“裏スケ”モデルは作られます。それは、裏蓋側が“ムーブメントの表面”であり、“ムーブメントの顔”だからです。しかし、オメガは“横”をシースルーにしました(さらに、裏側もシースルーです)。
皆さんの中にも、「なぜオメガが時計業界の常識を覆す“横スケ”モデルを作ったのか?」と、気になる方もいらっしゃるかもしれません。今週は、この謎に迫ります。
■デ・ビル アワービジョンとはどんなモデル?
デ・ビル アワービジョン(以下、アワービジョン)は、2007年に発表されました。このモデルが発表された当時、2つの理由から大きな反響を呼びました。
反響の理由のひとつは、先述の通り「時計のケース側面がシースルー仕様だったから」です。一般的に時計の本体ケースは、金属を削り出したり、プレスしたりして作られます。そのため、もちろん本体ケースの側面は、“金属”であることが普通です。しかしアワービジョンは。側面に無色透明のサファイアガラスを組み入れました。
もうひとつの反響の理由は、「オメガにとって久しぶりとなる“自社開発ムーブメント搭載モデル”であったから」です。その自社開発の新型ムーブメントの名は、「Cal.8500」。コーアクシャル脱進機(※1)を搭載したオメガの自信作です。
※Cal.8500はその後バリエーションを増やします。そのため、厳密には派生ムーブメントが様々ありますが、この文章では「Cal.8500系」というニュアンスでひとくくりで表現しております。
↑Cal.8500
Cal.8500は、パワーリザーブが約60時間あり、高い精度を誇ります。“コート・ド・ジュネーブ・アラベスク”という装飾研磨が与えられた外観も個性的であり、面白みのあるムーブメントです。最大のポイントは、コーアクシャル脱進機を“より理想的な形”で搭載したことです。
実は、それまでのオメガのコーアクシャル脱進機は、業界の汎用ムーブメント内に組み込む形で作られていました。そのため、ある程度スペースが必要な機構にも関わらず、“限られた小スペース”に組み込まなければならないという課題がありました。しかし、コーアクシャル脱進機を搭載することを前提に設計されたCal.8500は違います。ムーブメントサイズも十分にあるためスペースの確保が可能で、コーアクシャル脱進機を理想的な形で組み込むことができるのです。
アワービジョンに初めて搭載されたCal.8500は、その後多くのシリーズに搭載されるようになり、オメガを担うムーブメントとして活躍しています。
■なぜオメガは“横スケ”モデルを作ったのか?
では今回の本題、「なぜオメガが時計業界の常識を覆す“横スケ”モデルを作ったのか?」についてです。その回答は、「アワービジョン」というモデル名称から紐解くことができます。なぜならば、「アワービジョン登場=“横スケ”登場」という状況のため、そのモデル名に秘密があると考えられるからです。
実は、アワービジョンには2つの意味が込められています。
ひとつは「HOUR VISION」、つまり「時を見ることができる」という意味です。“時間≒時計”と考えて、「時計の内部が裏からも横からも見ることができる」ということなのかもしれません。
もうひとつは「OUR VISION」、つまり「私たちの未来像(将来/展望)」という意味です。“最先端であり未来的なモデル”ということかもしれません。
この2つの意味から読み取り、アワービジョンに“横スケ”を採用した狙いを推測します。その狙いのひとつは、斬新でインパクトのあることをすることで、新ムーブメントCal.8500への注目度を高めることではないでしょうか。確かに、「斬新な“横スケ”から新ムーブメントを見て!」という意図を感じます。
そして、別の狙いとして、未来的なモデルであることをデザインで表現することではないでしょうか。つまり、「“横スケ”という斬新さ≒未来的表現」という意味です。もっと具体的すると、「このアワービジョンが、これからのオメガの進むべき方向性の意思表明だよ!」ということです。実際に、アワービジョンが登場した2007年以降、自社ムーブメントCal.8500は次々と登場する新モデルに搭載されるようになりました。
要するに、“横スケ”を採用したアワービジョンは、“Cal.8500の大展開を始めることのアピール”なのです。
■最後に
いかがでしたか?アワービジョンの“横スケ”の意味がお分かりいただけたでしょうか。もちろんこれは個人的な見解でありますが、2007年当時、多くの時計愛好家の方は私と同じように感じたのではないでしょうか。
しかし、“未来的”というイメージがしっくりときたアワービジョンも、近年では異なった印象になっています。それは、“横スケ”ではないアワービジョンが登場している点からも感じます。これは、Cal.8500を搭載するアワービジョンも、もはや“未来的”にする必要性が無くなってきたことを意味するのではないでしょうか。
現在ではCal.8500はレギュラー化され、多くのモデルに搭載されています。さらには、より新しいアプローチである“マスタークロノメーター(※2)”が登場し、Cal.8500の先端性が失われてきています。そういった点から考えると、現在のアワービジョンの立ち位置は非常に難しい状況だと思います。
しかし、幸いなことに、オメガが力を入れるコーアクシャル脱進機も、アワービジョンが採用する“横スケ”も、他のメーカーが追随する様子はありません。そのため、オメガの中で先端的な立場ではなくなったとしても、時計業界内から見たら、アワービジョンの個性は失われていません。
アワービジョンは、
「横スケ」+「裏スケ」+「コーアクシャル脱進機」
という面白い個性を併せ持ったモデルなのですから!
※1・・・コーアクシャル脱進機:1974年にジョージ・ダニエルズ博士が考案。2枚のガンギ車を同軸上に配置することでガンギ車歯先にかかる摩擦を最小限に抑える発明。脱進機への注油メンテナンスを減らすソリューション。
※2・・・マスタークロノメーター:1万5000ガウスの磁場に触れた状態での検査を含む精度検定。通常時の精度だけでなく、強い磁気に触れた場合の精度も確認されるので、“超耐磁性ウォッチ”としてのお墨付きを得られる。METAS(スイス連邦計量・認定局)が実施している。
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