17.7.2017
【ディープなトケイ通信】モリッツグロスマンはランゲ&ゾーネの牙城を崩せるか?(前編) ~モリッツグロスマンの良さ~
Komehyo
ブログ担当者:須川
この時計ブログ―“トケイ通信”―では、毎回、様々な時計のトピックをお届けしています。いつもは多くの方に楽しんでいただけるような内容にしておりますが、今回は少し趣向を変え、「ディープなトケイ通信」をお届けします。
つまり、いつもより“ディープな時計の世界”を紹介いたします。
今回は、2008年に誕生した新たなドイツ時計ブランド「モリッツグロスマン(MORITZ GROSSMANN)」についてです。
私がモリッツグロスマンについて気になるのが、「ドイツブランドの頂点に立つ、ランゲ&ゾーネを越えられるのか?」という点です。正直、そんなことは誰にも分からないのでしょうが、モリッツグロスマンの良さを踏まえながら、その可能性を探ってみます。今回は、その初回として、「モリッツグロスマンの良さ」を中心に紹介します。
■モリッツグロスマンはどんなブランド?
まず、“モリッツグロスマン”についてですが、実は、19世紀に実在した時計師の名前です。彼は、ランゲ&ゾーネの創業者であるアドルフ・ランゲの弟弟子にあたります。アドルフ・ランゲがグラスヒュッテに工房を開いたのが1845年ですが、モリッツ・グロスマンはその9年後の1854年に、同じ地に工房を開きます。どうやら、アドルフ・ランゲの説得により、モリッツ・グロスマンはグラスヒュッテという地に工房を開くことになったようです。
そして、2008年、クリスティーネ・フッター氏(※1)がモリッツグロスマンの名を掲げ、ブランドを立ち上げます。元ランゲ&ゾーネのスタッフも在籍しており、高品質かつ革新性の高い作品を生み出しています。
↑ベヌー
■モリッツグロスマンの“良さ”はどこ?
では、モリッツグロスマンの良さはどこにあるのでしょうか?下で、私が感じるモリッツグロスマンの良さを紹介します。もちろんドイツメーカーなので、“ドイツらしい作り”という魅力はあります。しかし、他のドイツメーカーと比較する場合、他のメーカーも“ドイツらしい作り”をしますので、ここでは良さとして挙げていません。
1.他メーカーと違うことをする
モリッツグロスマンは、他メーカーと違うことをしています。それは、“こだわり”であり“差別化”でもあります。下で、2つのポイントを紹介します。
①“色”が違う
針、インデックス数字、ムーブメントネジなどに、“ブラウンバイオレット”カラーを使います。つまり、紫と茶色の中間のような色を採用します。特に、針は焼き戻しで色を出していますので、絶妙なタイミングで火から外す必要があり、難易度の高い針と言えます。
また、ムーブメントに使う軸石も、赤いルビーではなく、透明なサファイアを使っています。他のメーカーにはない要素です。
②“機構”が違う
「グロスマン製プッシャー付き巻き上げ機構」、「緩急針とフリースプラングの併用」、「特殊な2番車オフセット輪列(2番カナ式)」など、他社ではあまり採用しない機構を採用しています。特に、グロスマン製プッシャー付き巻き上げ機構は、リューズでの時間合わせのときに、“リューズを引きっぱなしにしなくて良い”珍しい機構です。
↑緩急針とフリースプラングの併用
2.ムーブメントに対する美意識が高い
モリッツグロスマンは、ムーブメントに対する美意識がかなり高いです。ランゲ&ゾーネと同じように、「テンプ受けへの彫刻」や「ゴールドシャトン」を上位機種には採用しています。また、ムーブメントの素材には真鍮ではなく「洋銀(ジャーマンシルバー)」を使っており、ランゲ&ゾーネのお株を奪うかのような仕上がりです。因みに、ムーブメントの2度組みを行う点も、ランゲ&ゾーネ同様です。
↑テンプ受けへの彫刻
↑ゴールドシャトン
しかし、モリッツグロスマン独自のムーブメントの美点もあります。なんといっても、「ピラー支柱」を採用している点が魅力的です。通常、ムーブメントの輪列部分は、サンドイッチのように2枚の板で歯車類を挟んでいます。ベースになる板が“地板”で、蓋をするイメージの板が“受け”です。
イメージしやすいようにするなら、“一階建ての家”を想像してみてはどうでしょうか。家も2枚の板、つまり“床”と“屋根”で構成されているイメージです。ここでのポイントは、「2枚の板(床と屋根)を何で挟んで支えるか」です。つまり、従来の日本家屋のように“柱”を使って支えるか、アメリカで普及しているツーバイフォー工法のように“壁”で支えるかという点です。現在の一般的なムーブメントは、後者の“壁”で支える方式に近い構造です(完全に“壁”状とは限りませんが)。具体的には、受けの一部に高さのある部分を作り、その高さのある部分を地板に固定するのです。
↑受けの高さのある部分を地板に固定
しかし、モリッツグロスマンは、前者の“柱”で支える方式をとっているのです。これは、昔の懐中時計の時代を彷彿させる方式です。シンプルに2つの平らな板に歯車が挟まっている様は、ピュアであり、なんとも美しく感じます。
↑“柱”で支えるモリッツグロスマンムーブメント
いかがでしょうか?上で紹介したいくつかのモリッツグロスマンの良さを理解すると、かなりオリジナリティ溢れる時計を作っていると思います。
今回は「モリッツグロスマンはランゲ&ゾーネの牙城を崩せるか?」という疑問に向き合う初回として、「モリッツグロスマンの良さ」にフォーカスしました。また別の投稿で続編をお届けします。続編では、モリッツグロスマンとランゲ&ゾーネを比較して、“どちらが優れているか”具体的に見ていきたいと思います。
※1・・・クリスティーネ・フッター氏:ドイツ出身。時計師としてキャリアを重ねた後に、モリッツグロスマンブランドを創業します。ヴェンペ、モーリス・ラクロア、グラスヒュッテ・オリジナル、A.ランゲ&ゾーネで時計師として手腕をふるった後に、シンドラー社の取締役にも就任した経歴を持ちます。経歴をみても、ドイツの時計業界に従事してきたことが分かります。
次回:「モリッツグロスマンはランゲ&ゾーネの牙城を崩せるか?(中編)
~モリッツグロスマンとランゲ&ゾーネの価格と製品を比較~」
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