2.12.2016
なぜグランドセイコー・スプリングドライブの魅力が“針の動き”なのか?
Komehyo
ブログ担当者:栗田
「グランドセイコーのスプリングドライブは針の動きが凄い!」という話を聞いたことがあるでしょうか?
針の動きがどのように凄いかというと、とにかく“秒針が滑らかに動く”のです。この滑らかに動く秒針が、スプリングドライブ搭載モデルの大きな魅力のひとつです。もし皆さんが実際にスプリングドライブの秒針の動きを見ると、きっとその滑らかさに驚くことでしょう。
↑グランドセイコー・スプリングドライブの針
※「スプリングドライブって何?」という疑問をお持ちの方は、過去の投稿で紹介させていただいておりますのでご参照ください。
↓↓↓
(関連投稿:「セイコーの持つ世界に勝る技術「スプリングドライブ」とは? 〜グランドセイコーの世界進出〜」)
今週は“スプリングドライブの針の動き”について紹介させていただきます。スプリングドライブは様々なセイコーのシリーズに搭載されている機構ですが、今回は現在世界中で高い人気を誇る最高峰シリーズ“グランドセイコー”を主役として述べさせていただきます。
■一般的な腕時計の針の動きとは?
時計の秒針が動く様子のことを「運針(うんしん)」と呼びます。その運針には大きく分けて2つの方式が存在します。
1つ目は「ステップ運針」。こちらは主にクォーツ時計に見られるもので、秒針が1秒ごとに止まりながらステップする運針です。擬音語にすると「チッ、チッ、チッ、チッ・・・」という感じでしょうか。掛け時計などでもよく採用されています。
↑ステップ運針をするエルメス「クリッパー」
※運針イメージは「チッ、チッ、チッ、チッ・・・」
2つ目は「スイープ運針」。主に機械式時計に採用される、秒針が連続的に動く運針です。機械式時計のロレックスやオメガなどはこの運針です。今回紹介をするグランドセイコーのスプリングドライブもスイープ運針ですが、連続的に動く滑らかさの程度が違うのです。“圧倒的な滑らかさ”をもつスプリングドライブの運針は、世界中の時計愛好家から絶賛されています。例えば、ロレックスなどの機械式時計のスイープ運針を擬音語にすると「チチチチチチ・・・」という感じです。しかし、スプリングドライブの場合は「スー」という感じで、とても滑らかなのです。
↑スイープ運針のロレックス「サブマリーナ」
※運針イメージは「チチチチチチ・・・」
↑滑らかなスイープ運針のグランドセイコー
※運針イメージは「スー」
■なぜスプリングドライブの運針は滑らかなのか?
では、なぜスプリングドライブの運針が特別滑らかなのでしょうか?クォーツ時計、機械式時計、スプリングドライブそれぞれの特徴を確認しながらその理由に迫ります。
①クォーツ時計
通常のクォーツ時計が「ステップ運針」を採用する理由のひとつとして挙げられるのは、「電池式だから」という点です。
当然、針には大なり小なり重さがあります。そのため、針を動かす時には電池を消費します。針を常に動かすよりも、1秒間に一度のみ動かす方が省エネです。つまり、「電池の消耗を防ぐため」という理由が1番なのではないでしょうか。もちろん、水晶振動やIC制御にも電力を用いていますが、秒針の運針の方がより電池を消耗します。その為、機械式時計のように連続して運針させ続けることを避け、ステップ運針を採用しているケースがほとんどです。
※特殊なグリスを使用してクォーツをスイープ運針にする技術もありますが、構造上「敢えて行う」ことになりますので、あまり採用されません。
↑電池で動くクォーツ時計
②機械式時計
通常の機械式時計が連続的に動く「スイープ運針」を採用している理由は「ゼンマイ式だから」です。ゼンマイは“解けようとする力”があり、この力がそもそも“連続的な力”なのです。
「連続的に動く」と表現したスイープ運針も、厳密には1秒より細かい単位でステップを刻んでいるのです。先ほど「チチチチチチ・・・」と表現したのはそのためです。
機械式時計の内部には「脱進機」と呼ばれる機構があり、その一部であるアンクルという部品が“ゼンマイの解けようとする力”を定期的に止めているのです。アンクルは“やじろべえ”に近い形で、その両腕を左右に動かすことで「止めたり、動かしたり」を行います。このアンクルの運動の一つの動きを“振動”と表現しますが、現在の一般的な自動巻ムーブメントであれば、1秒間に8振動します。その振動ごとに秒針を止めたり動かしていますので、一般的な機械式時計は1秒間を8刻みで動かします。その動きがあまりにも細かいので、私たちは秒針が刻まずに連続的に動いているように見えるのです。
↑機械式時計の脱進機(赤丸部分)
※赤丸内:左上ルビー部を
軸とするパーツがアンクル
③スプリングドライブ
機械式時計のスイープ運針が理解できれば話が早くなります。要するに、機械式時計は前提として“解けようとするゼンマイの力”があり、1秒間に8回動きを止めることで正しい“1秒間”を実現していたのです。この場合の1秒間の動きを自動車の運転に例えると、「急ブレーキ&急発進」を小刻みに繰り返すようなものです。つまり、滑らかというより“小刻みな運針”になります。
ゼンマイ駆動の時計を、スプリングドライブのような滑らかな運針にしたければ、“適度なブレーキ”によって速度を調整して滑らかな運転をすれば良いのです。実はスプリングドライブは、運針のペースをIC制御によって行っており、適度な速度になるように磁力のブレーキで調整を繰り返しています。つまり、滑らかな運針は、ICが制御するからなせる技です。
実はクォーツ時計もIC制御ですので同じことが可能なのですが、前述した電池の消耗を考慮して、基本的に滑らかな運針は採用しません。しかしスプリングドライブは機械式時計と同じく“ゼンマイ”で動いています。そのため電池の消耗の心配もありません。
↑機械式脱進機のないスプリングドライブ
このようにセイコーが生んだスプリングドライブは、世界中の時計愛好家をうならせるスイープ運針を実現しました。ただし、ステップ運針とスイープ運針のどちらが優れているのかという問題には答えがありません。ステップ運針には1秒ごとに秒針を刻むために「1秒ごとの存在感を感じれる」という良さがあります。そして、スイープ運針の滑らかさには「時の流れを感じられる」といった良さががあります。
ただ、私はグランドセイコー・スプリングドライブの圧倒的に滑らかな運針には「時間の流れとは刻まれているものではなく、一方向へ流れていくもの」という主張を感じずにはいられません。構想から20年かけ製作されたスプリングドライブには、見る者すべてに悠久の時を感じさせるような特別なものが詰まっているのではないでしょうか!
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