26.8.2016
パテックフィリップが進化させた“ルイ・コティエ式”ワールドタイマー ~ワールドタイム5110/5130/5230が採用するシステム~
Komehyo
ブログ担当者:永井
パテックフィリップの今年の新作で話題となったワールドタイム5230。コンプリケーテッド(コンプリケーション)ラインに属し、複雑機構“ワールドタイマー(ワールドタイム機能)”を搭載したモデルです。こちらはまだ新作ですので、実際に馴染みがあるパテックフィリップのワールドタイマーと言えば前作の5130、前々作の5110ではないでしょうか。
↑ワールドタイム5110G
ワールドタイマー、つまりワールドタイム機能を簡単に説明すると、一つの時計で世界の時刻を把握できる時計です。最もメジャーなワールドタイマーの外観は上の画像の5110のようなものです。高級時計に明るい方であればお馴染みのワールドタイマーらしい外観だと感じると思います。現在はお馴染みとなっていますが、このパテックフィリップの採用する“ルイ・コティエ式”ワールドタイマーはよくよく考えてみると画期的な発明なのです。そして、様々なメーカーが機械式のワールドタイマーを作成していますが、私はパテックフィリップが作るワールドタイマーの実用性を高く評価しています。
今週は、パテックフィリップのワールドタイマーの画期性を再認識するとともに、その実用性の高さも述べさせていただきます。
◆ワールドタイム機能とは?
ワールドタイム機能とは通常使用する地域の時刻の他に、世界の主要都市の時刻を知ることができる機能です。下の画像を見ていただくと分かりやすいのですが、文字盤の外周に世界の主要都市名があります。そして、その内側に24時間表示のその都市に対応した時刻があります。つまり、中央に“通常の時刻表示をする時計”があり、その時計とは別で、通常時刻時計と連動して動く“24時間表記の世界時計”があるのです。その“24時間表記の世界時計”は、外周にある都市の時刻を表します。例えば下の画像では、通常の時刻が「10時過ぎ」です。そして、その外周にある世界時計を見ると、12時側にある“TOKYO”は「10時過ぎ」となっており通常時刻と連動していることが分かります。さらに、“RIO(リオデジャネイロ)”は「22時過ぎ」、“NEW YORK”は「20時過ぎ」、“LONDON”は「1時過ぎ」など、世界の主要都市の時刻が一目でわかります。デジタル表示式などこのタイプ以外にもワールドタイマーは存在しますが、パテックフィリップが採用するこの24時間ディスクタイプのワールドタイマーは最定番型と言えるでしょう。
腕の上に置かれた時計を見るだけで世界の各都市の時刻がわかる機能に、世の多くの方がロマンを感じるのではないでしょうか。例えば、朝9時から仕事を始め、一服する朝10時ぐらいにワールドタイマーを眺めると、「ロンドンは深夜1時か。ロンドンの人たちは寝付いた時間なんだ!」と違う世界のことに思いが至ります。なんともロマンがあります。
そしてもちろん、ワールドタイム機能で最も重要な点は日常の便利なツールであることです。世界中を駆け回る方は、自国の時間だけでなく訪問先の時間も重要です。さらに、海外に家族、知人、恋人、取引先などがいる方にとっては、相手側の時間を気にしながら電話やメールをしていることでしょう。そのような方にとって、ワールドタイマーはとても便利なツールとなります。
◆“ルイ・コティエ式”ワールドタイマーは画期的な実用品!
少し歴史的な話をします。まだ航海や鉄道が世界間のメジャーな移動手段だった1884年、国際子午線会議でイギリスのグリニッジを“経度0度”にすることをいくつかの国が合意しました。かつては国ごとに多様な時刻の決め方が存在した状況でしたが、これを機に国際的な時刻のルールができていきます。つまり、グリニッジ標準時(GMT)の誕生です。20世紀の始めごろには、世界の多くの国にまでこの国際的時刻ルールが浸透し、世界の基準となる時刻が統一化されました。さらに、20世紀初頭から飛行機の研究が進められ、1930年代ごろからはアメリカを中心に旅客機が普及していきます。このころになると、一般人が短い時間で遠い場所まで移動できるようになります。まさに1930年代ごろはワールドタイマーの必要性が高まった時期です。
その頃発明されたのが、24時間ディスク式のワールドタイマーです。時計師ルイ・コティエ氏(1894-1966)のアイデアから生れたものでした。初期の作品としては、1937年にパテックフィリップから発表されたコティエ氏のワールドタイマー515HUが記録に残っています。それは、前述したように“都市名を刻んだ外周盤”と“回転する24時間計”を設けた機構でした。この時、「中央にある時計がメインの時刻表示を行い、外周にあるディスクが世界時刻を表示する」という画期的な時刻表示が世に生み出されました。この時はまだ、都市名盤は固定で、24時間ディスクのみが動く仕組みでした。しかし、実際にワールドタイマーを使う方は「滞在する現地が中心として読み取れる設定にしたい」と考えます。つまり、ホームタイムの設定変更です。そこで同年、542HUというモデルでコティエ氏は次のような機能を追加し、現地の時刻をホームタイムとして読み取りやすくする仕組みを考案しました。
①“都市名を刻んだ外周盤”を回転して任意に変更できるようにする
さらに、コティエ氏は考えます。「もっとシンプルに世界の時間を把握できないか」と。そこで登場するのが1959年に初出し、1962年に改良された2597HSです。これは現在のパテックフィリップのトラベルタイムの原型となったもので、24時間ディスクと都市名盤を持たないシンプルなものでした。特徴は以下の通りです。
②“時針(短針)のみを単独変更できるプッシュボタン”を設けた
つまり、ケース横のボタンを押すと“時針が1時間ずれる”というシンプルなものです。世界各地の時間が一度に把握できるメリットはなくなりましたが、ボタンを押すだけで時差設定を変更できるという気軽な操作ができるようになりました。
↑ケース横のボタンを押すごとに、時針が1時間ずつ動く
※画像はトラベルタイム5034
◆パテックフィリップによる“ルイ・コティエ式”の改良
しかし、パテックフィリップはルイ・コティエ氏亡き後もワールドタイマーの改良を行いました。それが2000年に発表されたワールドタイム5110です。まさに、コティエ氏の作り上げたワールドタイム機能をパテックフィリップが進化させた完成形だと言えるでしょう。コティエ氏の発明を引き継いだと考えれば、第3の進化です。上で挙げた2つのコティエ氏の改良を融合させて、さらに便利にしたものです。改良点は次の点です。
③プッシュボタン操作だけで、“時針”・“都市名を刻んだ外周盤”・“24時間計ディスク”の全てを「連動させて」動かす
↑ケース横にある1つのボタンを押すだけ
例えば、中央のメイン時計が日本時刻で、都市名“TOKYO”が12時位置にあるとします。そしてロンドンに旅行に行った場合を想定します。その場合は、ケース横のボタンを都市名“LONDON”が12時位置に来るまで押せば良いだけです。それだけで、メイン時計がロンドン時刻に変わります。本当に凄い技術です。しかし複雑機構でありながら、操作をする側から見ると非常にシンプルで、実用性に優れます。複雑機構でありながらも簡単な操作で扱える機能は、購入した後にも“実際に使える機能”として重宝されるのではないでしょうか。この機構はワールドタイム5110の後継モデルである5130や5230にも搭載されています。
パテックフィリップのワールドタイマーの凄さをお分かりいただけたでしょうか?長く愛用する高級実用時計をお探しの方、是非、パテックフィリップのワールドタイマーはいかがでしょうか!
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