4.3.2016
やりすぎ感がおもしろい! ジャガールクルトの「1000時間コントロールテスト」 ~マスターコントロールから始まる自社検査~
Komehyo
ブログ担当者:那須
時計業界に身を置く私にとって、ジャガールクルトと言えば「技術屋メーカー」のイメージがあります。もっと具体的に言うと「時計好きに訴求する技術」を追究しているイメージがあります。
自動車業界で例えると、大衆受けのハイブリッドカーを追究するトヨタではなく、水平対向エンジンやアイサイトに注力するスバルのようなメーカーでしょうか。ジャガールクルトが時計業界で頭角を現した最初のポイントは、19世紀の前半に画期的な工作機と測定器を開発したことでした。つまり、ジャガールクルトは創業の初期から「ものづくり」が得意なメーカーだったのです。その遺伝子をもつ現在のジャガールクルトもまた、こだわった「ものづくり」を得意とするメーカーです。
そんなジャガールクルトが1992年から行っている自社検査があります。
その名を「1000時間コントロール(1000 Hours Control)」と言います。
「1000時間」というところが今回のミソです。つまり、一般の時計検査と比較しても、通常では考えられないほど時間をかけて検査しているのがジャガールクルトです。私は「ちょっとやりすぎでは!?」と思ってしまいます。ただ、そのやりすぎ感さえも「ジャガールクルトらしい」と思えてしまうところがおもしろいところです。
今週は、ジャガールクルトのやりすぎ感のある検査「1000時間コントロール」を紹介いたします。
↑ジャガールクルトの時計の裏には
1000時間コントロールの証明がある
※画像はビッグマスター
■「1000時間コントロール」の検査時間は一般的な時計検査の約3倍!
時計業界でも「1000時間コントロール」という言葉はあまり馴染みのないものですが、「クロノメーター」なら耳にしたことがあるという方も多いと思います。「スイスクロノメーター検定」と言った方が正確かもしれませんが、これはスイス公式クロノメーター検定協会(COSC)により認定される最も一般的な第三者機関による検査です。以前のブログ「時計好きが選ぶ時計! IWCの筆記体ロゴポートフィノ」の注釈でも少し解説していますが、時計の「精度」に関する検査です。
スイスクロノメーター検定は、5つの姿勢と3つの温度設定で、「15日間」昼夜を問わず検査が行われます。合格したムーブメントにはCOSC発行の歩度証明書が与えられます。以前はこの検定を合格するのは、スイスで生産された時計のわずか5%ほどだと言われていました。最近はこの検定の合格数などの情報があまり出回らなくなったので、現在の正確なところは分かりません。しかし、現在でも安価な時計では取得が難しいことを考えると、依然として厳しい検査であることに変わりはありません。
↑左:1000時間コントロールに合格している刻印
↑右:スイスクロノメーター検定に合格している印字
そして次は、今回の主役の1000時間コントロールについてです。この検査は「精度」、「気温変化への耐性」、「気圧変化への耐性」、「耐衝撃性」、「耐磁性」、「防水性」 という6つの要素の検査を1000時間、つまり約6週間に渡って行います。
前述のスイスクロノメーター検定は15日間、つまり約2週間の検査でした。つまり、ジャガールクルトの1000時間コントロールは、最も一般的な検査であるスイスクロノメーター検定の約3倍の時間をかけて行われます。そして何より、スイスクロノメーター検定は「ムーブメント単体」を検査対象とするのに対し、1000時間コントロールは「ケースに収められた完成品」を検査対象としています。これは検査内容が「精度」以外にまで及んでいることが関係していると思います。例えば前述した6つの検査要素のうち、「防水性」や「耐磁性」はケースに収めた状態でなければ計りようがありません。
やはり、私たちエンドユーザーが「実際に使用する状態」で検査を行う1000時間コントロールは、スイスクロノメーター検定より信頼を置ける検査だと感じます。実は私も個人的にジャガールクルトの時計を愛用しており、その信頼性を肌で体感しています。
■「1000時間コントロール」を超える時計検査はあるのか?
では、1000時間コントロールを越える時計検査はあるのでしょうか?名のある時計検査の全てが検査にかかる総時間を明らかにしているわけではありませんので正確にはわかりませんが、「検査時間」に関しては1000時間コントロールが最も長い期間の検査であると考えられます。前述したようにスイスクロノメーター検定は15日間、つまり「360時間」の検査です。スイスクロノメーター検定より長い検査時間を持つ検査を下で例示いたします。この例を見ても、「1000時間」の検査をするジャガールクルトの自社検査が、いかに長い時間検査をしているかが分かります。
<スイスクロノメーター検定以外の検査の検査時間の例>
①「新GS規格」:17日間(408時間)
※セイコーがグランドセイコーに対して行う自社検査
②「ジュネーブシール」:約600時間と言われている
※ジュネーブ伝統の技法と質で作られたかを検査する第三者検査
しかし、「検査の難易度」や「検査の格」では、1000時間コントロールを超えるものがわずかながら存在します。例えば、スイスのカリテフルリエ財団が行う「カリテフルリエ」は精度だけでなく、技術的・美的基準が設けられています。因って、「検査の難易度」ではカリテフルリエの方に軍配があがります。さらに「検査の格」については、1886年から行われるジュネーブシールが、1992年から始まった1000時間コントロールをはるかに凌駕していると言っても差し支えありません。
まとめると、ジャガールクルトの1000時間コントロールはスイスクロノメーター検定より優れた検査ですが、検査内容や格の面では「上には上がいる」ということです。しかし、ジュネーブシールやカリテフルリエのような検査は「超高級品」に対して行う趣旨の検査です。つまり、「普及用」の高級時計に行う検査としては、6つの種類の検査を行う1000時間コントロールは業界トップレベルなのです。そして前述の通り、「検査時間」に関しては業界最高水準にあるのです!
↑1000時間コントロールのアイコンモデル「マスタコントロール」
※画像は現行モデルのQ1548420
■最後に
ここまでの話で、ジャガールクルトの「1000時間コントロール」の特異性がお分かりいただけたでしょうか?「精度」だけでなく6つの種類の検査をし、そして何より「1000時間」かけて検査をします。
つまり、現在のジャガールクルトの時計は、完成してから「約1か月半」の検査をし、合格した個体だけが市場に行くのです。
実は、「現在の」という形容詞をつけたことには理由があります。それは、1000時間コントロールは、以前はラウンドフェイスの「マスターシリーズ」にのみ採用される検査だったからです。初めてこの検査を通したモデルが「マスターコントロール」というモデルです。その後、この検査を通した時計の裏蓋には「MASTER CONTROL」と刻印されるようになり、「マスターシリーズ」としてシリーズ化します。その後、マスターシリーズ以外も、例えばレベルソなどもこの検査を通すようになります。今ではジャガールクルトは製品の多くに1000時間コントロールテストを通し、ユーザーに目に見えない安心感を与えて続けています。
ひとつの時計検査に約1か月半かけるジャガールクルトの「やりすぎ感」を、私たちが嫌がるはずもありません。 むしろ、ユーザーの方は「よくぞ、1000時間の検査に通った!」と自分の所有する時計を誇りに思うのかもしれません。安心感のあるジャガールクルトウォッチを、是非、時計選びの際の選択肢にしてみてはいかがでしょうか!
※おすすめ投稿記事
「【世界に500本しかない歴史的名作】ジャガールクルト「レベルソ トゥールビヨン」(レベルソ コンプリカシオン第2弾)」
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