13.12.2025
時代についていけなくなる!?脱進機の4パターンを徹底解説!
Komehyo

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。
今回は脱進機にフォーカスした解説となっていますが、皆さんは脱進機について各社の特徴や今のトレンドについてご存じでしょうか?
時計好きな人でも、脱進機について詳しい人も少ないのではないでしょうか。
しかし、最近登場したロレックスの「あの」モデルが皮切りとなり、これからの時計の性能を決める脱進機が時計業界のトレンドとなっていくことが予想されます。
そのため、脱進機について知らないと、今後全く時計業界についていけなくなる恐れもあるので、本記事で脱進機の4パターンについて徹底解説します!
【目次】
・脱進機の重要性が再注目された理由 ― 新作「ロレックス ランドドゥエラー」
・ロレックス「ランドドゥエラー」に搭載された新世代ムーブメント Cal.7135
・ロレックス独自の革新 ― ダイナパルス脱進機(Dyna-Pulse Escapement)
脱進機の重要性が再注目された理由 ― 新作「ロレックス ランドドゥエラー」
近年、脱進機の知識が改めて注目されるようになった理由は、
ロレックスの新作モデル「ランドドゥエラー(Land Dweller)」にあります。
(※ランドドゥエラーの公式ページはこちら)
時計好きの皆さんなら、このモデルをすでにご存じの方も多いでしょう。
このランドドゥエラーの登場は、まさに時計業界の大きな転換点と言えます。
というのも、ロレックスはこのモデルで、単なるデザイン変更やパワーリザーブの拡張ではなく、
時計の「心臓部」とも言える脱進機そのものを新しく開発し、精度を根本から改善してきたのです。
ロレックスといえば、常に業界のスタンダードを作り続けてきた存在。
そのロレックスが脱進機の革新に踏み切ったということは、
今後、「高性能な脱進機」が時計開発の新たな基準になっていく可能性が高い、ということを意味しています。
では、この「ランドドゥエラー」に搭載された新しい脱進機が、
一体どのように“すごい”のか
次に詳しく解説していきましょう。
ロレックス「ランドドゥエラー」に搭載された新世代ムーブメント ― Cal.7135
新作ランドドゥエラーには、ロレックスの最新ムーブメント**「Cal.7135」**が搭載されています。
まずは、その基本スペックを簡単に見てみましょう。
振動数:36,000振動/時(超ハイビート)
パワーリザーブ:66時間
香箱構造:ワンバレル
スペックからも分かる通り、Cal.7135は超ハイビートでありながら長時間駆動を実現しています。
通常、36,000振動というハイビートのムーブメントでは、
テンプの振動エネルギーが大きくなるためパワーリザーブを長く確保することが非常に難しいとされています。
しかし、ロレックスはその常識を覆しました。
ツインバレルではなく、あえてワンバレル構造で66時間を実現しているのです。
これは効率的なエネルギー伝達と、摩擦抵抗の最適化が徹底されている証拠とも言えます。
そしてこの驚異的な性能を支えているのが、今回ご紹介する新開発の脱進機、「ダイナパルス脱進機(Dyna-Pulse Escapement)」です。

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次の章では、このダイナパルス脱進機の仕組みと革新性について、詳しく解説していきます。
ロレックス独自の革新 ― ダイナパルス脱進機(Dyna-Pulse Escapement)
ランドドゥエラーの性能を根本から支えているのが、ロレックスが新たに開発した「ダイナパルス脱進機(Dyna-Pulse Escapement)」です。
この脱進機は、主ゼンマイから伝わるエネルギーをより効率的に分配・制御する仕組みを持っています。
その結果、ムーブメントのサイズを大きくせずに、精度・安定性・持続時間のすべてを高いレベルで両立しています。
つまり、ワンバレル構造で66時間のパワーリザーブを実現できたのは、この脱進機の高効率設計のおかげなのです。
ではなぜ、ロレックスはあえてツインバレルではなくワンバレルを選んだのでしょうか?
その理由の一つとして考えられるのが、近年の時計トレンドです。
現在の市場では、ケース径がやや小ぶりな時計が人気となっています。
ツインバレル構造はどうしてもムーブメントが厚く・大きくなりがちで、これではスリムなケース設計が難しくなってしまいます。
従来は、ゼンマイをより多く巻き込むために、香箱の壁を薄くする、芯を細くして内部スペースを確保するといった肉抜き加工による改良が主流でした。
しかしロレックスは、そうした「物理的な拡張」ではなく、脱進機自体の効率性を根本から高めるという発想で進化を遂げたのです。
このアプローチこそが、今後の機械式時計における新しい方向性の鍵となるでしょう。
脱進機の4パターン
最新の脱進機「ダイナパルス脱進機」について解説をしてきましたが、そもそも脱進機には幾つかのパターンがあると私は考えています。
そのパターンは
①昔の技術を今の金属で開発
②昔の技術を最新素材で開発
③新しい技術を昔ながらの金属で開発
④新しい技術を最新素材で開発
と大きく4パターンに分けられます。
①昔の技術を今の金属で開発 オーデマピゲ脱進機
最初にご紹介するのは、「オーデマピゲ脱進機(AP脱進機)」です。

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この脱進機のすごいところは、大航海時代に高精度を誇ったマリンクロノメーターに搭載されていた「デテント脱進機」を、現代の金属技術で再現・進化させた点にあります。
もともとデテント脱進機は非常に高い精度を持っていましたが、衝撃に弱いという欠点があり、携帯する懐中時計への搭載には不向きとされていました。
その弱点を克服するため、1800年代後半にはアンクルを加えて安全性を高める構造が検討されましたが、当時の加工精度では実現が不可能でした。
特に、アンクルの「箱先」という部分にテンプの振り石が当たってしまうという構造的な問題が、長年の障壁となっていたのです。
しかし、2000年代に入りオーデマピゲがこの課題を克服しました。
最新の金属加工技術と設計精度によって、ついにデテント脱進機の現代版を完成させました。それこそが、「オーデマピゲ脱進機(AP脱進機)」なのです。

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こちらの脱進機のメリットは、振り角が弱くなっても精度が落ちにくいというメリットがあります。「デテント脱進機」は直接テンプをガンギ車が触るので、力の伝導効率が非常に高く、一般的な「スイスレバー脱進機」の伝導効率が3割ほどのところを、5割程まで改善されています。デメリットは、「スイスレバー脱進機」に比べて、複雑な作りをしているため、量産の難易度がやや高めな点です。
②昔の技術を最新素材で再現 ― ユリス・ナルダン「デュアルユリス脱進機」
続いてご紹介するのは、ユリス・ナルダンが開発した**「デュアルユリス脱進機(Dual Ulysse Escapement)」です。
この脱進機は、元々「デュアルダイレクト脱進機」と呼ばれており、天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲが考案した「ナチュラル脱進機」を、最新素材であるシリコン**を用いて現代に蘇らせたものです。
シリコンという素材は、平面構造であれば非常に複雑な形状でも高精度に加工できるという特長を持っています。
そのため、かつて加工技術の制約で実現不可能とされた「ナチュラル脱進機」の構造を、現代の技術によってようやく形にすることができたのです。
では、ナチュラル脱進機とはどのようなものか。
先ほどご紹介した「デテント脱進機」が、テンプ(振り子のような部分)を左右に振るうものの、片側しか力を与えない構造だったのに対し、
ナチュラル脱進機は、ガンギ車が左右両方向からテンプを直接押す仕組みを採用しています。
これにより、エネルギー伝達効率が非常に高く、より安定した精度を実現できるのです。
ただし、この構造には大きな課題もあります。
通常のムーブメントではガンギ車は1つですが、ナチュラル脱進機では2つのガンギ車を搭載し、それぞれの動作タイミングを完全に同期させなければなりません。
そのため、極めて高い加工精度・組み立て技術・調整能力が求められ、量産には不向きという難点があります。
それでもユリス・ナルダンは、シリコン技術によってこの複雑機構を実現し、ブレゲ以来の夢を現代で具現化したのです。
③新しい技術を昔ながらの金属で開発 ― OMEGA「コーアクシャル脱進機」
次にご紹介するのは、近年の時計史において革新的な存在となったOMEGA(オメガ)の「コーアクシャル脱進機(Co-Axial Escapement)」です。

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この脱進機の最大の特徴は、ガンギ車を「二階建て構造にした点」にあります。
通常の「スイスレバー脱進機」では、アンクルが「テンプを止める(ストップ)」と「テンプに力を伝える」という2つの役割を兼ねていました。
しかし、この構造ではアンクルがテンプの歯を擦るように押すため、摩擦が大きくなり、どうしてもエネルギーロスが発生してしまいます。
この問題を解決するために考案されたのが、「役割を分ける」という発想です。
コーアクシャル脱進機では、ガンギ車を上下二層構造にし、一方がストップの役割を、もう一方がテンプへ力を伝える役割を担うようになっています。

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その結果、アンクルがテンプを擦り押すのではなく、次の歯の回転落下による速度エネルギーでテンプを弾くように動作するため、エネルギー損失を大幅に低減することに成功しました。
さらにメリットとして、摩擦が少なくなったことで潤滑油の消費が減少し、結果としてオーバーホールの周期を延ばすことができるというメンテナンス面での利点もあります。
一方で、デメリットも存在します。
1つ目は、ガンギ車を二層構造にしたことで部品が大型化する点。
2つ目は、アンクルの形状が従来より複雑になり、製造・調整が難しくなる点です。
それでもこの「コーアクシャル脱進機」は、金属素材による従来構造の限界を打ち破った革新的な機構として、現在も多くのオメガモデルに採用され続けています。
④新しい技術を最新素材で開発 ― ロレックス「ダイナパルス脱進機」
「新しい技術を最新素材で開発した代表例」として挙げられるのが、冒頭でもご紹介したロレックス「ランドドゥエラー」に搭載された「ダイナパルス脱進機(Dyna-Pulse Escapement)」です。
このダイナパルス脱進機は、ロレックスが独自に設計・開発した全く新しい構造の脱進機であり、さらにその主要パーツには最先端素材「シリコン」が採用されています。
つまり、「新しい理論 × 新しい素材」という、まさに次世代の脱進機の形を示す存在です。
最大の特徴は、ガンギ車が2つ搭載されている点です。
ただし、ここで重要なのは「なぜ2つなのか」という理由。
「コーアクシャル脱進機」のように役割を分担するためではなく、テンプに力を左右両方向からバランスよく与えるために、2つのガンギ車を採用している点が大きな違いです。
従来の多くの脱進機では、アンクルが片側からのみ力を伝える構造でした。
しかしダイナパルス脱進機では、両側から交互に押すようにエネルギーを伝達することで、
テンプの動きがより安定し、エネルギー効率・精度・耐久性が飛躍的に向上しています。
さらに、シリコン素材を用いることで軽量化・耐磁性・耐摩耗性も実現。
まさに現代の技術と素材を融合させた、ロレックスの新世代脱進機と言えるでしょう。
新型脱進機の開発がトレンドになる最大の理由

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新型脱進機の開発が注目される最大の理由は、まさに今、「シリコンパーツの特許が切れるタイミング」にあるからです。
脱進機といえば、従来は「スイスレバー脱進機」が一般的で、多くのモデルに採用されてきました。しかし、1999年にオメガが「コーアクシャル脱進機」を開発したことが、時計業界における脱進機開発競争のひとつのきっかけとなります。
その後、各メーカーは独自の脱進機開発に乗り出し、2000年代にはオーデマピゲの新型脱進機や、ユリスナルダンの「デュアルユリス脱進機」など、新しい技術を搭載したモデルが次々に登場しました。
特に注目すべきは、ユリスナルダンの脱進機に採用されたシリコン部品です。シリコンの軽さや摩擦の少なさは、脱進機の動作に非常に適しており、従来の金属部品よりも高精度で高品質な脱進機を作れることが明らかになりました。そのため、金属部品を用いた新型脱進機は、一般モデルではほとんど普及せず、ハイエンドモデルの一部に限定されて使用されてきました。これは、おそらく金属部品ではシリコン部品に勝てないことがメーカー側にわかっていたからでしょう。
そして20年の時を経て、シリコン部品の特許が切れるタイミングが訪れました。多くのメーカーは、この特許切れのタイミングを待っていた可能性が高く、まさに今がそのタイミングです。その結果、各社がさまざまなシリコンを用いた新型脱進機の開発を進めることが予想されます。
ロレックスの「ダイナパルス脱進機」もそのひとつであり、投資さえすれば新型脱進機の開発が可能な環境が整った今、脱進機開発競争はさらに激化していくと考えられます。
編集長が好きな脱進機
私がこのブログ企画を始めたきっかけのひとつでもあるのですが、私が特に好きなのは「①昔の技術を今の金属で再構築した脱進機」です。

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機械式時計は、昔ながらの製法をあえて残しながら進化してきた歴史があります。その中で、最先端の素材を取り入れるかどうかは意見が分かれるポイントです。もちろん、新しい技術や素材を使うことで、機械式時計の性能がどれだけ向上するのかという楽しみ方もあります。
今回ご紹介した「ダイナパルス脱進機」も、そのひとつとして非常に魅力的です。しかし、私はやはり昔ながらの良さや歴史、手仕事の製法などにも惹かれます。過去から現在までの歴史のグラデーションを感じられるからこそわかる魅力があるのです。
例えば「コーアクシャル脱進機」のように、発想は新しいけれど作り方は昔ながらというタイプもあり、脱進機にはさまざまなアプローチがあります。こうした違いを整理してみると、より深く脱進機の面白さを知ることができると思います。
デュアルインパルス脱進機の面白さ
皆さんは①〜④のタイプの中で、どの脱進機がお好みでしょうか?
もしよければ、コメントで教えていただけると嬉しいです。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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