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16.9.2024

【時計業界に革命!?】グランドセイコー スプリングドライブ

Komehyo

今回は、グランドセイコーの新型スプリングドライブ(Cal.9RA)の優れた点をご紹介します。 前半では改良された部分について、後半ではさらに深堀をして採用された技術について詳しく解説します。  

 


 

▼目次
スプリングドライブとは
スプリングドライブの歴史
9R6(従来機)から9RA(新型)への進化
進化を実現した技術
「精度」の大幅な向上について
パワーリザーブの強化について
機械の薄型化について
編集長の考察
最後に

 


◾️スプリングドライブとは

スプリングドライブは、機械式時計と同じくゼンマイを動力源としており、そのゼンマイの力強さが魅力です。
一方で、クォーツ時計のようにテンプの代わりに水晶振動子を使っているため、高い精度を誇ります。
つまり、スプリングドライブは「機械式時計の力強さ」と「クォーツ時計の高い精度」を兼ね備えたハイブリッドムーブメントです。

また、秒針の動きが非常になめらかで、針がスーっと滑るように動くのが特徴です。
この「力強さ(高トルク)」「高精度」に加え、「滑らかな針の動き(スイープ運針)」の3つが、スプリングドライブの大きな魅力です。

 


◾️スプリングドライブの歴史

1999年に手巻きのスプリングドライブが誕生しました。2004年には自動巻きタイプの「9R6」が開発され、グランドセイコーのムーブメントに搭載されました。2020年には新型の自動巻きタイプ「9SA」系ムーブメントと「9RA」系ムーブメントが登場しました。

その後、「9RA」系ムーブメントは2種類のモデルがラインナップされています。
1つ目は2020年に登場した「9RA5」は、パワーリザーブインジケーターが文字盤側に配置されています。2つ目は2021年に登場した「9RA2」は、パワーリザーブインジケーターがムーブメント側に配置されています。

 


◾️9R6(従来機)から9RA(新型)への進化

新旧のスプリングドライブの主な変更点を3つご紹介します。

① 「精度」の大幅な向上

従来の9R6は平均月差が±15秒でしたが、新型の9RAは平均月差が±10秒に改善されました。これにより、精度が5秒向上しました。

 

② パワーリザーブの強化

従来の9R6は約72時間のパワーリザーブがありましたが、新型の9RAは約120時間に延びました。最大5日間、時計を使用しなくても動き続ける高いパワーリザーブが実現しています。

 

③ 機械の薄型化

従来の9R6は厚さが5.8mmでしたが、新型の9RAは0.8mm薄くなり、約5.0mmとなりました。一部でスプリングドライブのムーブメントは大きいという意見がありましたが、この改善はメーカーの配慮が見て取れます。

 


◾️進化を実現した技術

①「精度」の大幅な向上

新型の9RAは「温度補正機能」と「真空パッケージIC」を搭載し、精度が大幅に改善されました。

【温度補正機能】

「温度補正機能」の優秀さは、温度補正の頻度で判断できます。新型の9RAは1日に540回の温度補正を行います。この補正回数は、グランドセイコーの9Fクォーツムーブメントと同等です。スプリングドライブながら最高峰のクォーツ時計と同等の温度補正を実現している点が評価されます。

 

【真空パッケージIC】

従来のモデルでは「水晶振動子」と「IC」が別々に配置され、真空でない状態で接続されていました。新型では「水晶振動子」と「IC」を1つの真空パッケージに封入し、回路の距離を短くすることで、外部の影響を受けにくい構造に改良されています。

 

②パワーリザーブの強化

 

【デュアルサイズバレル】

新型の9RAは「デュアルサイズバレル」機構を搭載し、パワーリザーブを大幅に強化しています。
「デュアルサイズバレル」は、大小異なるサイズのゼンマイを動力源として使用する機構です。
従来型のロングパワーリザーブ機構では、同じサイズのゼンマイを2つ使った「ツインバレル」が一般的でした。

 

ツインバレル

 

「ツインバレル」は2つの同じサイズのゼンマイを使ってパワーリザーブを伸ばす仕組みです。一方で、「デュアルサイズバレル」では、小さいゼンマイが大きいゼンマイに巻き足す仕組みです。「ツインバレル」のデメリットはムーブメントが大きくなりがちな点です。これに対して、「デュアルサイズバレル」はムーブメントを小型化しつつ、パワーリザーブを伸ばすことができます。

この仕組みは、2008年にセイコーが発表した「トルクリターンシステム」の応用です。「トルクリターンシステム」は、ゼンマイが減った時に「巻き直す」発想で開発されました。「デュアルサイズバレル」は、この「巻き直す」発想を取り入れたものです。

 

③機械の薄型化

【オフセットマジックレバー】

薄型化に貢献した技術の一つが「オフセットマジックレバー」です。1959年にセイコーが開発した「マジックレバー」は、はさみのような形の小さい部品です。腕の動きで回転する自動巻き時計の回転錘の「回転運動」を、ゼンマイを巻くための「上下運動」に変換し、効率よくゼンマイを巻きます。

従来の「マジックレバー」はローターの中央真下に設置されており、大きな部品が重なって厚みが増していました。しかし、「オフセットマジックレバー」はローターの中央からずらし(オフセット)、部品の重なりを減らすことで薄型化を実現しました。オフセットすることでマジックレバー本体を小型化する必要がありますが、小型化に伴い巻き上げ効率が落ちるのが課題でした。そこで、テコの原理を利用し、小型化しても巻き上げ効率が維持される「オフセットマジックレバー」が開発されました。

 

【ワンピースセンターブリッジ】

この部品も薄型化に大きく貢献しています。ムーブメントの中央に配置された骨格の板が、薄型化を実現しながらも高い強度を保つ構造を実現しています。従来はムーブメントの周りに衝撃を防ぐためのスペーサーが必要でしたが、「ワンピースセンターブリッジ」の採用により、スペーサーは不要になりました。これにより、ムーブメントが大きくなっても、厚みやサイズ、強度をそのまま維持できます。

さらに、「ワンピースセンターブリッジ」の搭載により、針同士のクリアランスをより狭くすることが可能になりました。従来は衝撃で針同士が接触しないように、ある程度の距離を確保していました。しかし、衝撃に強くなったことで、針同士の隙間を最小限に詰めることができるようになりました。このため、針同士の距離が短くなり、その分ムーブメントの厚みを減らすことができています。

 

 

 


◾️編集長の考察

時計のスペックを向上させると、通常はムーブメントのサイズが大きくなってしまいますが、新型スプリングドライブはサイズを維持しながらスペックアップしている点が非常に良いと感じました。特に温度補正機能を搭載したことが印象的です。クォーツ時計ではよく見られる機能ですが、電力を多く消費するスプリングドライブに搭載されたのは驚きです。この機能は安定した発電量が必要で、それを実現したスプリングドライブは技術的に大きな進歩です。

日本の時計ファンの中には、ムーブメントのサイズを維持するのではなく、小型化を望んでいる方も多いでしょう。今回の新型はサイズを維持しましたが、さらに進化すれば、9Fや9Sのサイズでスプリングドライブを搭載することで、より多くのグランドセイコーファンが喜ぶかもしれません。グランドセイコーのさらなる進化に期待が高まります。

 


◾️最後に

今回はグランドセイコーの最新技術「スプリングドライブ」についてご紹介しました。この技術については、動画でも詳しく解説しています。技術的な内容が少しマニアックかもしれませんので、ぜひ動画で実際の時計の動きを確認し、その優れた点をより深く理解していただければと思います。

 

 

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