25.9.2022
【時計業界分析】セイコーの腕時計から見る、今の時計業界のトレンド
Komehyo
ブログ担当者:須川
■【時計業界分析】セイコーの腕時計から見る、今の時計業界のトレンド
今回は、現在のセイコーの腕時計のラインナップから、時計業界の今がどうなっているのかを読み解く企画です。
少し補足をすると、セイコーは日本の時計メーカーとしては、大衆時計から高級時計まで幅広く製品展開する“腕時計の総合メーカー”というイメージです。そのため、おそらく売り上げを伸ばすために、さまざまある販売ターゲットの中から、売れる可能性が高いターゲットかどうかを分析しているはずです。そして、その“分析が反映されたもの”が、「セイコーの製品ラインナップ(シリーズ)」となっているはずです。
そのため、セイコーの製品ラインナップを見ることで、時計業界の今の状況が分かるのです。今回は、その時計業界の今を、私なりに読み取りました。是非、最後まで読んでみてください。
↑セイコーの腕時計
※画像はプロスペックス
■セイコーの現行シリーズとそのメインターゲットは?
では、セイコーの製品ラインナップを確認していきます。ただし、製品ラインナップといっても、細かく見るとたくさんありますので大変です。そこで今回は、大きくなグループにまとめられた「シリーズ」を確認し、セイコーがどのような人をターゲットにしているのかを読み解いていきます。
まずは、セイコーの製品シリーズの把握からです。セイコーの公式HPを参照すると、現在のシリーズは以下の通りです。
・プロスペックス
→スポーツ、アウトドアに対応するスポーツウォッチシリーズ
・プレザージュ
→伝統的な機械式時計を意識して作られるシリーズ
・アストロン
→GPS機能を主力とするハイテクウォッチシリーズ
・キングセイコー
→かつての高級ラインの復刻シリーズ
・5スポーツ
→スポーティなカジュアルウォッチシリーズ
・ルキア
→女性が清楚に使えるウォッチシリーズ
・ブライツ
→ビジネスマンに向けたスタンダードウォッチシリーズ
・ドルチェ&エクセリーヌ
→男女両方に向けたドレスウォッチシリーズ
・セイコーセレクション
→シンプルスタンダードな時計シリーズ
・グランドセイコー(独立ブランド)
→最高級シリーズ
・クレドール(独立ブランド)
→エレガントな高級ドレスウォッチシリーズ
このように、現在のセイコーはたくさんのシリーズを持っています。建付けとしては、「セイコー」ブランドの中に、上で紹介した複数のシリーズが内包されていることになっています。ただし、「グランドセイコー」と「クレドール」については、「セイコー」とは別の独立したブランドとなっています。
そして、各シリーズについて、“売れ筋モデルのメーカー価格帯”と“主ターゲット”を、私が個人的な目で分析しました。それが、下の表です。
まず、シリーズの重要度を見る指標のひとつとして、シリーズ内の“モデル数”を見てみましょう。表の一番右の項目に、メーカーHPに掲載されている“モデル数”をカウントして書き出しました。この数値を見て、モデル数が多いシリーズは、“力をいれているシリーズ”か、“数がたくさん売れるシリーズ”であるという判断ができるでしょう。
例えば、この表を見ると、100モデルを超えるシリーズがいくつかあります。その内、グランドセイコー、クレドール、プロスペックス、ルキアは、“力をいれているシリーズ”でしょう。特に、「グランドセイコー」と「クレドール」は、独立ブランド化している事実を合わせても、その力の入れようは高いと考えられます。また、「ルキア」は唯一の女性専用シリーズですので、モデル数を用意する点はうなずけます。
↑ルキアは唯一の女性用シリーズ
また、セイコーセレクションも100モデルを越えています。これは、低単価品ほどたくさん売れるという前提に立つと、2~4万円ほどが価格帯の“入門価格”のセイコーセレクションは、“数がたくさん売れるシリーズ”と考えられます。
↑セイコーセレクションは“入門価格”
逆にキングセイコー、ブライツは、その中のモデル数が7~8モデルしかありません。そのため、セイコーはこれらのシリーズを主要シリーズとしては見ないしていないと思われます。
この“モデル数”の指数で驚くべき点は、2~4万円ほどで購入できる「セイコーセレクション」より、何十万円もする「グランドセイコー」や「クレドール」の方がたくさんモデル数を持っている点です。これは、完全にセイコーが、「高級時計に注力している」ということを表しています。
↑高級時計に注力
※画像:グランドセイコー
また、男性の若者にはまりそうなシリーズは「5スポーツ」ですが、これは3~5万円ほどが価格帯にも関わらず、そこまで多くモデル数を持っていません。おそらく、セイコーは「若者ターゲットは難しさがある」と判断している状況なのでしょう。
↑若者ターゲットは難しい!?
※画像:5スポーツ
さらに、興味深い点があります。それは、「プロスペックス」に加えて、「プレザージュ」と「アストロン」もかなりのモデル数を持っている点です。これらは、10~30万円ぐらいのモデルも多いので、「10~30万円単価でも勝算がある」という状況を示しています。これらのシリーズをたくさん販売しているのは並行販売店や家電量販店ですので、このようなお店を利用する「“30~50代男性”に勝機をみている」のではないでしょうか。
↑30~50代男性に勝機を見ている!?
※画像:プレザージュ
■まとめ
今回、セイコーのシリーズを見て分かったことがあります。
それは、
①“高級時計”に力をいれている
②“若者ターゲット”には難しさあり
③“30~50代男性”はまだ勝機がある
という点です。
これは、昨今、「腕時計を着けない(スマホで時刻を見る)」、または、「スマートウォッチを選択する人が増えている」ことも関係ありそうです。つまり、今は腕時計に興味がある人とそうでない人がはっきりしているので、全方位的なマーケティングは難しいのでしょう。そのため、勝算のあるターゲットが限られているのです。
↑スマホがあるので腕時計を着けない人も増えている
まず、時刻の確認がスマホやスマートウォッチで済む時代ですので、今の腕時計には「別の魅力」が必要です。そのひとつは、「ファッションアイテム」としての魅力であり、5スポーツはこの観点で攻めているのでしょう。しかし、スマホとスマートウォッチの壁はなかなか厚そうです。
また、別の魅力として、「嗜好品(趣味としての腕時計)」としての魅力もあります。この攻め方のひとつとして、“機械式時計”という要素が有効です。これは、機械式時計が昔ながらの仕組みなので、「腕につける“非日常”」として魅力が訴求できるからです。そのため、プロスペックスやプレザージュなどは、この攻め方である程度の成果を出しています。
そして、この嗜好品という要素を最もアピールできるのが、グランドセイコーとクレドールです。これらは、“高級品”、“工芸品”という要素も加わりますので、より嗜好品としての魅力が高まります。特に、グランドセイコーは技術的な語りも素晴らしく、世界戦略でも成功しています。
↑世界戦略でも成功するグランドセイコー
ここまでの解説の通り、スマホやスマートウォッチの登場により、腕時計はかつてよりも別の魅力を示す必要に迫られています。しかし、まだ「腕時計をつける」ことを日常にしてくれる層がいます。それが、“30~50代男性”です(もっと上の世代も当てはまりますが)。セイコーはこのターゲットにもアプローチを強化しています。アストロンは“ハイテクGPSウォッチ”の魅力、プレザージュは“機械式時計”の魅力、そして、プロスペックスは今人気の“スポーツデザイン”の魅力があります。
↑30~50代男性は腕時計をつける層がいる
このようにセイコーは、スマホやスマートウォッチが普及した今の状況に合わせた形で、製品ラインナップを作っています。これが、今の時計業界の現状であり、その状況に合わせて作られている時計が、時計業界のトレンドと言えそうです。
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