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13.10.2021

ご存じですか?クロノグラフの上位機能「ラトラパンテ」 ~スプリットセコンドの凄さとは~

Komehyo

ブログ担当者:須川

 

■ご存じですか?クロノグラフの上位機能「ラトラパンテ」 ~スプリットセコンドの凄さとは~

 

高級時計に興味をもつと、さまざまな時計用語を知ることになります。

 

その用語の中でも、

 

ラトラパンテ

 

という、一般に耳馴染みがない用語は、ちゃんと説明されないと意味がわからない用語でしょう。

↑ラトラパンテ(RATTRAPANTE)の表記

※画像:IWC 「ポルトギーゼ ラトラパンテ」

 

今回は、この「ラトラパンテ」について解説いたします。

 

 

 

 

 

 

■「ラトランパンテ」とは?

 

まずは、「ラトラパンテ」とは何なのかを説明します。

 

簡単に言うと、ラトラパンテは、

 

クロノグラフの上位機能で、“同時に2つの時間計測ができる”機能

 

を指します。

 

これは、機械式時計の機能としてはかなり複雑であると考えられており、「4大複雑機構」のひとつに挙げられることもあるほどです。

 

↑計測用の針が重なって2本ある

 

ラトラパンテの見た目の特徴としては、同時に2つの時間計測を行うために、「計測用の針が2本ある」という特徴があります。つまり、1本の針が“1計測”を担い、2つの針で同時に“2計測”できるという理屈なのです。

 

例えば、ラトラパンテ機能のある時計であれば、2人で100m走を行う際に、両者のタイムをひとつの時計で計ることができます。スタート時に、重なった2本の計測針が同時に動き出し、1人がゴールした時点で1つの針を停止、そして、もう1人がゴールした時点で残りの針を停止させるのです。その停止したそれぞれの針の時間を読み取れば、それぞれのタイムがわかります。凄いことに、この同時計測のために、わざわざ、計測停止ボタンが別で2つ設けられています。

 

これが、ラトラパンテの機能です。イメージするならば、「クロノグラフを2つ搭載している」イメージでしょうか。実際に、IWCでは「ダブルクロノグラフ」という名称で呼ぶこともあります。

↑IWC「パイロットウォッチ ダブルクロノグラフ トップガン」

 

実は、このラトラパンテ(Rattrapante)はフランス語の「追いつく(Rattraper)」に由来する言葉のようです。おそらく、計測後に2つに分かれた状態になった針を元の状態(重なった状態)に戻す際、「一方の針が、もう一方の針の場所へ飛んで追いつく」様から想起された表現なのでしょう。別の表現で「ラトラパン」と言われる場合もあります。

 

この名称の由来とは逆で、ラトラパンテは、「スプリットセコンド(分裂する秒針)」と呼ばれることもあります。これは、「同時計測する際に、あたかも“1本”かのように見える針が、2つに分かれる」様から想起した表現でしょう。

↑計測時に針が、「2つに分かれる」ように見える

 

 

 

 

 

 

■「ラトラパンテ」はどういう仕組みなの?

 

少しマニアックな話になりますが、ラトラパンテの仕組みを簡単に説明します。

 

まずは、“一般的なクロノグラフ”をイメージしてみてください。文字盤の中央軸に計測用の「クロノグラフ秒針」があり、計測スタートボタンを押すと、そのクロノグラフ秒針が動き出す動作が、イメージできるでしょう。

※画像:オメガ「スピードマスター スプリットセコンド」

 

この時の動作について、文字盤より奥にあるムーブメントにまで目を向けて、そのメカニズムを簡単に説明します。

 

実は、クロノグラフ秒針の同軸に歯車(クロノグラフ秒車)がついています。その歯車は普段止まっており、計測のスタートボタンを押すと、その歯車が回り始める仕組みになっています。この時、同軸のクロノグラフ秒針は歯車と連動していますので、もちろん、動き出すことになります。

次にラトラパンテですが、先に説明したように、2つの計測を行うために、計測用秒針が「2つ」あります。つまり、一つはクロノグラフ秒針で、その同軸に、「スプリットセコンド秒針」があるのです。そして同じく、こちらにも同軸に歯車(スプリットセコンド車)があるのです。

 

整理すると、ラトラパンテは一つの軸に「2つの秒針」と「2つの歯車」があり、「秒針と歯車のセット」を1セットとして、2セット組み込まれているのです。

 

 

 

<同軸にある2つのセット(針と歯車)>

 

①「クロノグラフ秒針」 - 「クロノグラフ秒車」

②「スプリットセコンド針」 - 「スプリットセコンド車」

 

 

 

そして、この2つのセットは、普段は連結しており、一緒に動きます。しかし、ラトラパンテ用のボタン(通常は10時位置にある)を押すと、この連結が切られ、片方のセットが強制的に止まるのです。

この連結を切るときに活躍する部品が「クランプ」です。要は、「挟んで止める」部品です。ラトラパンテを利用する際に、このクランプがスプリットセコンド車を挟んで止め、片方のセットのみが強制的に止まる仕組みになっています。もちろんこの時、もう一方のセットであるクロノグラフ秒車は動いた状態を続けます。

 

そして同時に、“針が重なった”状態に戻す装置(ハートカムとハンマー)も備わっています。この装置を組み込んであることにより、計測を終えて元の状態に戻す際に、ラトラパンテ用ボタンを押すと、クランプが解除され針が同じ位置に戻るようになっています。

 

これが、ラトランパンテの仕組みです。

 

 

 

 

 

 

■「ラトラパンテ」の凄いモデルを紹介

 

最後に、ラトラパンテの中でも、「名作」と言われる凄いモデルを紹介します。

 

それは、ランゲ&ゾーネが作成した、

 

ダブルスプリット(2004年)」

 

トリプルスプリット(2018年)」

 

です。

 

特に、トリプルスプリットは、ラトラパンテにおいて「頂点」と言えるモデルでしょう。

↑トリプルスプリット WG 100本限定

直径43㎜、厚み15.5㎜、重さ約184g

 

このトリプルスプリットの「何が凄いか」については、その名称にヒントがあります。実は、トリプルスプリットは、スプリット(分裂)するものが3つあります。それは、下の通りです。

 

 

<トリプルスプリットで“スプリット”するもの>

 

①クロノグラフ秒針(秒)

②クロノグラフ分針(分)

③クロノグラフ12時間針(時)

 

 

つまり、クロノグラフで計測する針の“全部”がスプリットするのです。これが、トリプルスプリットの凄いところです。

一般のラトラパンテは、計測用の「秒針」のみしかスプリットしません。そのため、ラトラパンテでできる同時計測の限界は、「秒単位まで」でした。

 

しかし、2004年に登場したダブルスプリットは、秒と分針がスプリットしました。そのため、同時計測の限界が「分単位まで」になりました。

 

そして、このトリプルスプリットは、それを超える、秒・分・時の全てがスプリットする、まさに「頂点」に立つラトラパンテです。

この作品により、ラトラパンテの同時計測の限界が「12時間まで」になりました。さらに、トリプルスプリットには「フライバック」というクロノグラフの別の機能もついています。

 

まさに、クロノグラフ機能を極めたトリプルスプリットは、「クロノグラフの王様」だと思います!

 

 

 

 

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