高級腕時計の時計通信

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18.12.2015

ロレックス「コスモグラフ・デイトナ」は名前がチグハグ! 何故!?

Komehyo

ブログ担当者:萩原

 

ロレックスの中でも、皆さんが最も憧れているモデルと言えば「デイトナ」だと思います。今から50年以上前の1960年代前半ごろに登場したとされています。

 

拡大画像 20151206 122545.bmp

 

さて、この時計の現在の正式名称は「オイスターパーペチュアル・コスモグラフ・デイトナ」ですが、この名称を聞いて違和感を感じませんか?

 

「オイスター」はロレックスが採用する「高い防水性のケース」を意味し、「パーペチュアル」は「自動巻機構」を意味します。ここまでは問題ありません。その次の「コスモグラフ」と「デイトナ」にどうも違和感を感じます。それは、「コスモ」という言葉が「宇宙」をイメージさせるにもかかわらず、それに続く「デイトナ」という言葉が「モータースポーツ」をイメージさせるからです。つまり、モデルの名前がチグハグに感じます。  

 

今週はデイトナのモデル名がチグハグになった理由について注目したいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

■ 「コスモグラフ」と「デイトナ」という言葉はどういう意味?

 

前述したようにロレックスのデイトナはモデル名がチグハグな印象を受けます。今回のテーマの核になるのがモデル名「コスモグラフ・デイトナ」ですので、ここからこの意味をもっと掘り下げてみたいと思います。まずは「コスモグラフ」という言葉から解説します。  

 

↑文字盤にも「COSMOGRAPH」「DAYTONA」と印字されている

 

一般名詞としては「コスモグラフ」という言葉は存在しません。つまりこの言葉は造語です。意味のまとまりで分解すると「コスモ(COSMO)」と「グラフ(GRAPH)」に分けることができます。「コスモ」は語尾に「-S」を付けて使うことが一般的であり、「コスモス(COSMOS)」という形でよく表現されます。この単語は語源をギリシャ語の「KOSMOS」に持っており、「宇宙(※1)」という意味があります。「グラフ」は「図形、図式」などの意味を持っていますが、関連性を考えるとその意味として使っているのではないと思います。時計の機能から考えても、「クロノグラフ」と掛けていると考える方がしっくりきます。「クロノグラフ」はギリシャ語で「クロノ(CHRONOS)=時間」を「グラフ(GRAPH)=記録する」という意味です。「クロノ」を「コスモ」に置き換えると、「宇宙を記録する」という意味になります。  

 

次は、「デイトナ」という言葉についてです。一般的に「デイトナ」と言えば、アメリカのフロリダ州にある「デイトナビーチ」を擁するデイトナビーチ市という都市を指します。かつてよりその砂浜でモータースポーツのレースが行われており、全米レーサーたちのメッカとして存在していました。そのレースを発展させるために、1959年により本格的なコースである「デイトナ・インターナショナル・ハイウェイ」を完成させました。現在でもアメリカではNASCAR(ナスカー)というモータスポーツのシリーズが開催されており、注目される開幕戦はそのデイトナ・インターナショナル・ハイウェイで行われる「デイトナ500」です。私たち日本人はピンとこないかもしれませんが、アメリカ人にとっては「デイトナ=モータスポーツ」というイメージがより強くあるはずです。  

 

ここまでに「コスモグラフ・デイトナ」の言葉の意味を探っていきましたが、モデル名のチグハグ感は増すばかりです。では、ここからはこのようなモデル名になった理由を探っていきたいと思います。前述した内容にも既に「アメリカ」という言葉が登場していますが、注目したい点は「アメリカを意識している」ということです。        

 

 

 

 

 

 

■アメリカを意識してネーミングされた!

 

先に結論から述べると、1960年ごろのアメリカの出来事が「コスモグラフ・デイトナ」というモデル名を生んだと言えます。

 

では、なぜ「1960年ごろ」なのかを解説します。まず、スイスに本拠地を置くロレックスがコスモグラフ・デイトナを市場に送り出したのが1960年台初頭と言われています。つまり、このモデルのネーミングをするタイミングが1960年前後になります。

 

では、「アメリカ」を意識している理由は何でしょうか?それは単純な理由で、この時代もアメリカが巨大なマーケットだったからです。そんな理由から、スイス時計メーカーは多くの時計をアメリカに販売したかったはずです。特に、スイスメーカーは第二次世界大戦を境に、かつての業界覇者であったアメリカメーカーから時計業界の覇権を奪いますので、アメリカへのスイス時計の売り込みには注力したことでしょう。  

 

ここで、ひとつの注目ポイントを挙げます。それは、初期のコスモグラフ・デイトナの文字盤には「DAYTONA」という印字がないモデルがあるという点です。つまり、「コスモグラフのみの文字盤」と「コスモグラフ・デイトナの両方が印字された文字盤」が存在するということです。つまり、「コスモグラフ」という名前がベースとして存在し、「デイトナ」という言葉は付加要素と言えます。  

 

↑「DAYTONA」印字がない文字盤もある
※画像は型式6263

 

では、1960年ごろのアメリカの出来事でモデル名に関係しそうなことは何でしょうか?それは、「コスモグラフ」という名からも「宇宙」に関する出来事であるはずです。その時期の最大の「宇宙」に関するトピックと言えば、1958年のNASA(アメリカ航空宇宙局)発足だと思います。そして、マーキュリー計画、ジェミニ計画、アポロ計画など次々に人類が宇宙へ接近する計画が実行されていきます。

 

実は、コスモグラフ・デイトナは当初アポロ計画に採用されることを目的として開発されたと言われています。アポロ計画は1961~72年にかけて実施された計画ですので時代も合います。しかし、「NASAが採用する時計」という名誉の獲得レースは熾烈を極めます。一部のメーカーはコネや人脈を駆使して猛アピールをしたと言われています。結果としては、現在ではムーンウォッチとして名高いオメガのスピードマスターがその勝者となります。つまり、ロレックスは敗れ去ります。そして、「コスモグラフ」という名は冠したまま、別のアピールを開始します。それは、「レース用モデル」としての宣伝でした。  

 

もうひとつの1960年ごろのアメリカでの出来事は、前述した1959年の「デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ」の完成です。ここから「デイトナ」がネーミングされたと言われていますが、公式な発表ではありません。しかし、1991年からはロレックスが「デイトナ24時間レース」のスポンサーとなっていることからも、コスモグラフ・デイトナが「レース用モデル」アピールされていることは事実に違いありません。そのデイトナ24時間レースにおいては、裏蓋に刻印がなされたコスモグラフ・デイトナを優勝チームに提供しており、近年は特にF1とも密接な関係を持っています。        

 

 

 

 

 

 

■最後に

 

ここまでの内容から、コスモグラフデイトナの名前がチグハグである理由が見えたでしょうか?

 

きっとロレックスは「NASAの公式時計になりたい思い」と「盛り上がりを見せるモータースポーツと関わりたい思い」を二兎追った結果として、「コスモグラフ・デイトナ」というネーミングに至ったのです。

 

このような視点でデイトナを見てみると、普段とは一味違ったデイトナを目にすることができるのではないでしょうか。ネーミングのチグハグ感でさえおもしろい個性に感じます!

 

 

 

 

 ※1・・・英語では宇宙という表現はその他にもあり、「ユニバース(UNIVERSE)」は一般的な意味での宇宙空間を指し、「スペース(SPACE)」は大気圏外に広がる空間という意味での宇宙を指し、「コスモス(COSMOS)」はカオス(混沌)という言葉の対義語としての「(秩序ある)宇宙」を指します。

 

 

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