25.9.2015
【ロレックスの成功から学ぶ】時計業界人なら知っている、ロレックスのメディア戦略の凄さ
Komehyo
ブログ担当者:須川
時計業界で最も成功している企業といえば、もちろん「ロレックス」です。ただ、ロレックスは日本で普及するよりも前から世界で成功を収めています。そのため、私たち日本人は「どのようにしてロレックスは成功したのか?」という点がいまひとつ掴めていません。実は、ロレックスが成功した要素はいくつかあります。その中でも私が強調したい要素は「ロレックスはメディアを上手に使った」という点です。
今週は、「ロレックスがとったメディア戦略の凄さ」を紹介させていただきます。
ロレックスがとったメディア戦略とは?
◆「公開実験」を行ったロレックス
いくつかあるロレックスの成功の要素のうち、「3大発明」と「同一モデルの改良」という2つの要素は以前のブログ「なぜロレックスが時計業界のTOPにいるのか?」で既に紹介をしています。それら以外の重要な要素として、「ロレックスはメディアを上手に使った」という点があります。では、どのようにメディアを使ったのでしょうか?そのきっかけは1927年にさかのぼります。
1927年10月7日、ロンドンの速記記者メルセデス・グライツ嬢がイギリスとフランスを隔てるドーバー海峡を泳いで横断しました。この時、彼女が腕につけていたのがロレックスの防水腕時計「オイスター」でした。この時の「水着を着たメルセデス・グライツ嬢」が写った写真を見たことがある方も多いのではないでしょうか。そして新聞の一面を大々的に飾ったという事実も有名です。このロレックスのオイスターをつけてドーバー海峡を横断泳したメルセデス・グライツ嬢の「偉業」がロレックスを有名にした最大のきっかけです。時計業界の人には常識として知られている事実です。
↑防水性の高いロレックスのオイスターケース
しかし、この出来事は作為的に作られた可能性が高いのです。実は、ドーバー海峡を泳いで横断したのは彼女が最初というわけではありません。1875年にマシュー・ウェッブという男性が達成しています。そして、女性初の達成は1926年のガートルード・キャロライン・イーダリー嬢です。つまり、女性初の達成はグライツ嬢が達成した前年に成されています。更に横断タイムもイーダリー嬢の14時間31分に対して、グライツ嬢は15時間15分でした。このような背景を知ると、グライツ嬢のドーバー海峡横断がどの程度の「偉業」だったのか推測できます。「偉業ではあるが、先人には敵わなかった」というイメージが正解ではないでしょうか。そして、グライツ嬢の偉業は、その翌日の新聞に掲載されていましたが、現在の私たちが認識しているような大々的なものではありませんでした。実は新聞の一面を大々的に飾ったのは、「11月24日」の新聞です。グライツ嬢の偉業から約1ヵ月半後の新聞ということになります。これはロレックスが大金を投じて仕掛けた新聞の一面広告だったのです。整理するために、時系列でまとめてみます。
<グライツ嬢のドーバー海峡横断泳達成前後の出来事>
1926年7月29日・・・ロレックスが「オイスター」を商標登録
1926年8月6日・・・ガートルード・キャロライン・イーダリー嬢が女性初のドーバー海峡横断泳
1927年10月7日・・・メルセデス・グライツ嬢がドーバー海峡を横断泳
1927年10月8日・・・グライツ嬢の達成を新聞が紹介
1927年11月24日・・・ロレックスが新聞の一面にグライツ嬢の偉業を紹介する広告を出す
これを見ると、ロレックスが初の防水腕時計「オイスター」を世に知らしめた「直後に」イーダリー嬢が偉業を達成したことがわかります。この出来事にロレックスが影響を受けなかったはずはありません。ロレックスが「オイスターをつけて誰かにドーバー海峡を横断泳してもらう」というアイデアに辿り着くことは自然なことと考えられます。そして、10月8日の新聞にしっかりグライツ嬢の偉業達成の写真が収められているということは、新聞記者が現場にいたことになります。「その現場に意図的に新聞記者が用意されていた」という穿った見方もできるのではないでしょうか。そして、「最終的にロレックスが一面広告を出して大きな成果を得た」という事実がある以上、グライツ嬢の偉業は「ロレックスがドーバー海峡横断者を募って作為的に行われたプロモーション」と考える方が自然です。
その後、ロレックスの腕時計は様々な偉業に同行します。マイナス30℃の環境に耐える必要があるエベレスト登頂への同行、高い水圧に耐えなければならない深海実験への同行など、メディアも取り込んだ「公開実験」とも言える戦略をとります。このような「公開実験」を見た消費者はどう思うでしょうか?きっと「ロレックスの腕時計には過酷な環境にも耐えうる正真正銘の実用性がある」と思うようになるでしょう。それがロレックスのねらいでした。
↑エベレスト同行に伴い誕生したエクスプローラー
※画像は型式14270
↑ロレックスのダイバーズは深海実験に同行をした
※画像は現行モデルのディープシー
◆富裕層へのアプローチ
更に、ロレックスはアメリカの大手広告代理店「ジェイ・ウォルター・トンプソン(以下JWT)」と提携をします。JWTは1864年にニューヨークに設立された「世界初の広告会社」として有名な会社です。
ロレックスはJWTを通して、富裕層向けの新聞や雑誌に積極的に広告を掲載します。こちらも大きな予算を組んで臨みます。「成功者がつける時計はロレックス!」と言わんばかりの広告は、次第に世間のイメージにも大きな影響を与えます。前述した「公開実験」のようなメディア戦略では「ロレックスはプロフェッショナルな使用にも耐える実用性の高い時計」という印象を世間に与えるアプローチに重点が置かれていました。しかし、JWT提携後は「ロレックスは富裕層向けの時計」という印象を世間に植え付ることに重点が置かれます。現在私たちがロレックスに対して持っているイメージがここで出来上がります。
↑ロレックスへのイメージは「高級」「丈夫」
私たちが持っているロレックスのイメージと言えば、「高級」や「丈夫」というものではないでしょうか。当社でも、時計を販売するときによく耳にする言葉があります。「ロレックスは昔からの憧れでした」とか「ロレックスだから壊れませんよね?」という言葉です。これは皆さんが既に、ロレックスがメディア戦略で確立したイメージの影響をうけているからです。もちろん前提として「時計そのものの優秀さ」が必要ではありますが、巧みなメディア戦略でロレックスは今の地位を築いています。
◆最後に
ロレックスのメディア戦略にどのような感想を持たれたでしょうか?メディアを通した「公開実験」をするためには、製品に対する強い信頼がなければ不可能です。もし不甲斐ない結果になれば目も当てられません。更に、富裕層に受け入れてもらうには、製品がそれだけの魅力を持っていなければなりません。
つまり、ロレックスの成功に学び模倣するには、前提として「完璧な製品」が必要です。
インパクトのある公開実験や、世界屈指の実力がある広告代理店と強いパートナーシップを結んだロレックスの戦術眼もさることながら、「製品に対する絶対的な自信」を持っている点がロレックスのメディア戦略を可能にした最大の要素です。もし「製品に対する絶対的な自信」がある企業であれば、ロレックスに倣ったメディア戦略も可能なのではないでしょうか?
ロレックスの「公開実験」に倣った戦略をした好例として、リシャール・ミルが挙げられます。2010年にプロテニスプレーヤーのラファエル・ナダル選手がリシャール・ミルのトゥールビヨン腕時計をつけて全仏オープンを優勝したというニュースは世界を驚かせました。テニスをプレイするときの衝撃は凄いと聞きますが、それに耐えうる時計です。その後、リシャール・ミルの「ナダルモデル」は超高額にも関わらず飛ぶように売れているそうです。
今回はロレックスのメディア戦略について述べました。しかし、ロレックスの成功の全貌を掴むには、更に「ロレックスの秘密主義について」、「モデルのターゲット戦略について」などまだまだ知るべきことがあります。また別の機会に紹介をさせていただきます。
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