4.2.2023
【2023年度版】<時計業界の常識>やっていませんか? 腕時計の「危険な使い方」
Komehyo
ブログ担当者:荒川
(リライト:須川)
■<時計業界の常識>やっていませんか? 腕時計の「危険な使い方」
腕時計を購入する時に、販売スタッフから時計の使い方の説明をされると思います。しかし、購入時の高揚感でその説明をしっかり聞けていなかったり、しっかり聞いていても時間が経つにつれその記憶が曖昧になってしまうこともあると思います。
特に高級な時計であれば、使い方の誤りから故障させてしまうと、修理に高額な費用がかかります。
そのようなリスクを避けるためにも、腕時計に対しての「やってはいけないこと」を知っておく必要があります。今週は、
腕時計の危険な使い方
の紹介です。
時計操作でやってはいけないこととは?
■時計の使い方で注意することとは?
私たちが時計の使い方で注意することは大きく分けて2つあります。一つは、時計を「使用する状況」に対しての注意です。これは、「防水性能を越えた使用」など、普段の使い方に対する注意とも言い換えることができます。下で、いくつか例示しておきます。 もう一つは、「時計操作」に対しての注意です。
時計の操作で行ってはいけないことはいくつかあります。特に、機械式時計(自動巻式、手巻式)はクォーツ時計よりもデリケートですので、注意が必要です。こちらも、下で代表的なものを紹介いたします。
<故障につながる使用状況の例>
①時計の防水性能を越えた使用
↑防水性能は大丈夫?
②強い磁気を発生させるものに時計を近づける
(※詳細は別のエントリー「知っていますか?腕時計の大敵は磁気!!」をご参照ください)
↑電子機器のスピーカー部は磁気注意
③「ねじ込み式リューズ」や「エスケープガスバルブ(※1)」のロック忘れ
↑ねじ込み式リューズのロック忘れ
④強い衝撃や振動を与える
↑ゴルフのインパクトも衝撃大
⑤お風呂やシャワーに時計を装着したまま入る
(※防水性能内の使用でも、お湯の高温によって影響を受ける可能性があります。)
<故障につながる可能性のある操作>
①時刻合わせのときの大幅な針の逆走
(※短針を回して日付変更をするタイプは例外です)
②自動巻式時計の巻上げをするために、激しく時計を振る
(※激しい衝撃や振動は危険です。ただし適度な振りなら問題ありません)
③手巻式時計の巻上げ時に、「巻き止まり」が来た後も巻き上げる
(※ゼンマイが切れてしまいます。中には「巻き止まり」が無い手巻式時計もあります。 )
↑手巻きは“巻き止まり”がある
④夜中にリューズ操作でのカレンダー変更をする
⇒後項の「夜中のカレンダー変更はとても危険!」で詳述します
⑤濡れた手、濡れる状況でリューズ操作をする
(※内部に水分が入る可能性があります)
↑手洗い後などの濡れた手はリスクあり
⑥機能付き時計の誤った操作(※2)
↑使い方は大丈夫?
■夜中のカレンダー変更はとても危険!
上に挙げた故障につながる可能性のある操作の中でも、下線を付けた
「 夜中にリューズ操作でのカレンダー変更をする」
という項目は、初耳の方にとってはその理由が理解し難いと思います。それに、「夜中」という言葉が少し曖昧です。
まずは、「夜中」という表現を具体的にします。実は、メーカーによって「夜中」の具体的な時間帯のアナウンスはまちまちなのです。それは、各モデルが採用するムーブメントの違いもありますので、当然です。ただ、パターンをまとめると「夜の8時から翌朝の4時までの時間」に収まることが多いので、この時間帯で覚えておくと多くのパターンに当てはまります。
↑夜8時から朝4時は日付変更操作しない
そして、もちろんこの「夜中」が意味する時間は、現実の時間ではなく「腕時計の時間」を指します。このことを理解すれば、夜中にリューズ操作で日付変更することもできます。つまり、腕時計の時間を「夜の8時から翌朝の4時」以外の時間帯に動かしてから日付を変更すれば問題ありません。最後にまた時間を現在時刻に戻しておけば良いのです。
次に、夜中にリューズ操作でのカレンダー変更をしてはいけない理由です。少し専門的になりますが、まずは日付を変更する機構の説明をします。
実は、日付の数字が書いてあるディスクはドーナツ型をしたプレートで、内周に等間隔で複数の突起があります。その突起に引っかかりプレートを動かす「力」があれば、日付のディスクは動きます。その役割をするのが「日送り車」という歯車です。通常の時間経過とともに日付を送る「通常時稼動の部品」と理解して下さい。これは24時間で1周する歯車で、それに突起したツメが1本つけられています。その突起したツメが、夜中の0時付近で日付ディスク内周の突起に引っかかり、日付を動かします。ただ、このツメは24時間で1周する歯車についているため、ゆっくりと時間をかけて日付ディスクのツメに引っかかるように近づき、日付を変えてまたゆっくりと離れます。つまり、このツメが日付ディスクの内周の突起に接近している時間が、前述した時間である「夜8時から朝4時」にあたります。
↑日付ディスクはドーナツ型をしている
※画像はブローバ「カークウッド」
そして、日付ディスクの内周にはもう一つ噛み合っている歯車があります。それが、日付を早送りする「早送り車」です。リューズ操作で日付単独変更をしたいときに活躍する、「操作時の部品」と理解して下さい。多くの時計はリューズを1段引っ張った状態にしてリューズを回すと日付変更ができますが、この時に動いている部品が、「早送り車」です。「早送り車」も複数の歯(ツメ)を持っており、「日送り車」と同じように日付ディスクの内周の突起に引っかかります。つまり、リューズを1段引いて回すと、「早送り車」も回り、「早送り車」のツメが日付ディスクを動かします。
ここまで述べたように、日付ディスクを動かすものは2つあります。これが場合によっては最悪の事態を生み出します。想像してみて下さい。日付ディスクの内周には複数の突起があり、「日送り車」と「早送り車」という2つのツメがそれに引っかかり、別々の意思で日付ディスクを動かそうとしている状態。まさに修羅場です。
これが、夜の8時から翌朝の4時の間にリューズ操作で日付を変更しようとしている状態です。もしこのようなことをしてしまうと、「ツメが折れる」ということが起こることは容易に想像できます。これが、夜中に日付を変更してはいけない理由です。
■最近では、いつでも日付変更可能なムーブメントがある!
しかし、時計のムーブメントは進化し、最近ではいつでも日付を早送りできるタイプが登場しています。
例えば、2009年には、ブライトリングが自社ムーブメントのCal.B01(名称変更してCal.01)を発表し、日付をいつでも変更してもよいタイプが登場します。
上:ブライトリング/クロノマット44
下:裏蓋から見えるCal.01
このムーブメント搭載のモデルは、日付変更をいつでもすることができます。なぜそんなことが可能なのか?それは、「日送り車」のツメにバネがついており、日付ディスクに後ろから押されても、その動きを遮らないように「日送り車」自体がひっこむようになっています。日付ディスクが過ぎた後は、またバネの力でもとの位置に戻ります。日送り車が日付を動かすときは、前の負荷なので、これにはしっかりと耐え、日付を動かします。緊急時は首を引っ込める「亀」のようなツメが使われているとイメージすると分かりやすいと思います。
さらに、2015年以降のロレックスの新型ムーブメントも、「いつでも日付変更可能」なムーブメントです。それは、デイデイト40に搭載されたCal.3255にはじまり、現在の男性用ムーブメントのメイン機であるCal.3235を含む、3200系ムーブメントが該当します。
↑現在の3200系ムーブメントはいつでも日付変更OK
このように、最近では、いつでも日付変更をしてもよいタイプの時計も出てきています。そのため、夜の日付変更が必ずしもNGという状況ではなくなっています。
■最後に
私たちが腕時計の「危険な使い方」を理解しておくと、故障する可能性をぐっと減らせます。更に、上で紹介したような「故障の危険性を排除する機能」が付いた時計が増えれば鬼に金棒です。
消費者である「私たちの深い注意」と、メーカーの「消費者の立場に立った新機能の開発」があれば、私たちの大切な時計が悲鳴をあげることはなるなるのではないでしょうか。そうなることを期待しております。
※1・・・深海に潜る飽和潜水時の呼吸に使う「圧縮空気」内のヘリウムは、時計内部まで侵入してしまいます。深海から戻る際に、時計内のヘリウムが膨張して風防が割れるのを防ぐためにガス抜きをする装置。
※2・・・機能付き時計の誤った操作の例
例)
・クロノグラフ・スプリットセコンド: 「ボタン操作順を間違える」
↑正解のボタン操作の順番
・永久カレンダー: 「日付変更操作時に、日付の単独変更操作で月をまたぐ」
※月をまたぐ場合は、針回しが望ましい
・クロノグラフなど操作ができる時計: 「過度に操作する」
※使用頻度が高すぎると、故障の原因となります
・リピーター: 「レバーを引ききらない」「音が鳴っている途中で操作する」
・プッシュボタン(コレクター):「連打で押す」
※1回1回を丁寧に、ゆっくりと、奥まで押すことが望ましい
↑プッシュボタンは丁寧に
など
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