9.10.2015
時計選びのときに知っておきたい!「マニュファクチュール」と「エタブリスール」という時計用語
Komehyo
ブログ担当者:那須
皆さん、時計選びの際に
「同じ機能の時計なのに、なぜメーカーによってこんなに価格が違うのだろう?」
と考えたことはないでしょうか?
高級時計を購入する際に「なぜこのように高額になったのか」ということが腑に落ちていれば、すっきりとした気持ちで購入ができますので、気になる点です。
では、高級時計の価格を左右する要素は何でしょうか?その要素はいくつかあります。例えば“メーカーの格の差”や“作り込みの差”などが要素に挙げられます。さらにその他の要素として、“マニュファクチュールかエタブリスールか”という要素もあります。
「マニュファクチュール」や「エタブリスール」という言葉に馴染みがない方もいらっしゃるかと思います。しかし、時計の価格を左右する要素としては重要な要素なのです。
今週は、この「マニュファクチュール」と「エタブリスール」について紹介いたします。
↑マニュファクチュールメーカーのランゲ&ゾーネ
※画像はダトグラフ403.035/LS4032AD
↑エタブリスールとして製造されるオメガの時計
※画像はスピードマスター3573 50
■「マニュファクチュール」と「エタブリスール」
時計業界用語としてしばしば登場する「マニュファクチュール」という言葉は、「自社一貫生産」という意味です。
厳密にとらえるのであれば、ケースやムーブメントはもちろんネジ1本1本に至るまで全て自社で製造しているという事です。しかし、ここまで厳密に定義する場合は少なく、実際は「外装のデザインだけでなくムーブメントも自社で製造している」という意味で使うことが一般的です。
マニュファクチュールの生産スタイルをとるメリットは独自性が発揮できることです。例えば「リューズの位置が変わった場所にあるデザインの時計を作りたい」と考えた場合、一般的なムーブメントを採用するのでは実現できません。ムーブメントから設計する必要があります。この場合でも、マニュファクチュールであれば対応できます。しかし、こだわった作りを実現できる反面、価格が上がってしまうというデメリットもあります。
この対極にあるのが「エタブリスール」という用語です。これは自社の力だけで時計作りをするのではなく、ムーブメントや部品を他メーカーから仕入れて組み立てる製造スタイルを指します。
「餅は餅屋」ということわざもあるように、部品やムーブメントの製造は得意なメーカーに頼ったほうが効率が良いという考え方です。エタブリスールは「分業体制」とも言えますので、標準的な仕様の製品作りに向いています。そのため、マニュファクチュールのように独自性を発揮することは難しくなりますが、価格を抑えた製品作りが可能になります。
■エタブリスールが重宝するムーブメントメーカーはETA社
スイス時計業界では、古くから分業体制が特徴とされています。それがエタブリスールであり、かつてこの分業をまとめていった組織の現在の姿が、スウォッチグループなのです。かの有名なエボージュメーカーETA社もこのグループの一員です。
↑ETA社製ムーブメント
ほとんどのメーカーはこのETA社からムーブメントを購入し、多少手を加えたりして販売しています。ETA社の機械はマニュファクチュールよりも安価ですが、決して「安かろう悪かろう」ではありません。徹底した合理化によって実現したコストダウンの賜物なのです。実際、機械式時計が下火になった時代からここまで息を吹き返してこれたのは正にETA社のお陰といっても過言ではないでしょう。
■マニュファクチュールはどのメーカー?
近年自社生産が増えてきているとはいえ、現在その技術力を持つメーカーは限られたメーカーのみです。下で一部ではありますが、マニュファクチュールメーカーを紹介いたします。
<マニュファクチュールメーカーの例>
・パテック・フィリップ
・バシュロン・コンスタンタン
・オーデマピゲ
・ジャガールクルト
・ゼニス
・ジラールペルゴ
・グラスヒュッテオリジナル
・パルミジャーニ・フルリエ
・ショパール
・パネライ
・ランゲ&ゾーネ
・ロレックス
・セイコー
この中で特筆したいメーカーはグラスヒュッテオリジナルです。なんと自社生産率が97%という数値だそうです。これは驚異的に数字です。
↑グラスヒュッテ・オリジナル
※画像はパノマティックインバース
そして、部品の中でもムーブメントの心臓部の部品である「ヒゲゼンマイ」が生産できる時計メーカーは世界を見渡してもごぐ少数しかありません。実は、その数少ないメーカーの1つが日本のセイコーです。
スイスの高級時計業界では、ニヴァロックス社というメーカーがヒゲゼンマイのシェアの独占している状態が続いています。このことを考慮すると、ムーブメントの部品まで自給自足する自社生産率の高いセイコーは個人的にはもっと評価されてもよいブランドだと感じています。セイコーの自社生産率が高い理由は何でしょうか?実は、日本の時計産業は分業の歴史を持たなかったのです。そのため、セイコーはすべての部品を自社で生産する以外に質と量を向上させる術を持っていなかったという訳です。
↑セイコーは日本を代表するマニュファクチュール
※画像はグランドセイコーSBGW040
■最近はマニュファクチュールが増えています!
昔は「名の通ったメーカーだから良い」という感覚で時計選びをされる方が多く、ムーブメントそのものを評価する概念が無かった様に思います。しかし最近では、ムーブメントが「どこ製か?」という点が、その時計の価値を大きく左右するポイントになっています。つまり、ムーブメント重視の時計選びが増えています。
この傾向が起こったきっかけはなんでしょうか?私は「ETA2010年問題」がそのきっかけと考えます。この「ETA2010年問題」とは、世界最大のムーブメントメーカーであるETA社が「2010年までにムーブメントの供給を段階的に縮小する」という方針を発表したことを発端とした問題です。例えるならば、急に中東諸国が「油の供給をやめます」と言うのに近い感じでしょうか。もしくは、中国が大きなシェアを持つ資源「レアアース」の供給を止めた問題とも似ています。
ETA2010年問題でエタブリスールの体制をとるメーカーは「ムーブメントが供給されなくなる!」と焦りました。そして、多くのメーカーが自社でムーブメントを生産する決断をしました。つまり、マニュファクチュール化です。しかし、ムーブメントを自社生産するとコストが上がるという状況を招いてしまいます。コストが上がり製品が売れなくなるという事態を避ける手段として、「自社製ムーブメント=高い付加価値」というイメージを世間に植え付けるという戦略をとります。多くのメディアを通して各社が自社ムーブメントのスペックを公開し、優れている点をアピールしました。現在では、メーカーが希少性や高級感を演出する手段としても「自社製ムーブメント」戦略がとられています。
↑オメガが開発した自社製ムーブメント
■最後に
皆さんは自社製ムーブメントについてどう思われますか?自社製というと聞こえは良いですが、自社製だから良いのではなく、あくまで良いものを作る為の手段が自社製なのです。ただし、開発費がかかるためより高価な価格設定になる事が多いですよね。そして、ETA社の量産機械にも「良心的な価格」という最大の武器がありますし、長年の供給により信頼性は折り紙付きです。どちらも一長一短ですが、それでも私は個人的に自社製機械のオリジナリティが好みです。
私の好みはさておき、時計の購入をご検討の際に「マニュファクチュールかエタブリスールか?」という視点も取り入れてはどうでしょうか?価格に納得ができる買い方ができるかもしれません。
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