24.11.2017
【腕時計の名作を知る!】とにかく機能が凄い! ユリスナルダン「アストロラビウム・ガリレオガリレイ」
Komehyo
ブログ担当者:須川
当ブログでは、1980年代後半~1990年代ごろの名作を振り返る、「ネクストヴィンテージ」というシリーズ企画があります。この頃と言えば、機械式時計の人気が盛り返す時代であり、とても面白い作品がたくさん生まれました。そんな時代の作品にスポットを当てます。
突然ですが、皆さん、「天文三部作」という作品が時計業界で有名なことをご存知でしょうか?
その名作はスイスの名門時計メーカー、ユリスナルダン(Ulysse Nardin)によって産み出されました。“三部作”ですので3つのモデルがあるのですが、「アストロラビウム・ガリレオガリレイ(1985年)」、「プラネタリウム・コペルニクス(1988年)」、「テリリウム・ヨハネスケプラー(1992年)」という3つの作品のことです。
↑アストロラビウム・ガリレオガリレイ
その中でも一番有名なモデルが、“三部作”の初作である「アストロラビウム・ガリレオガリレイ(以下、ガリレオガリレイ)」です。1983年に試作され、1985年に発表されました。今回は、この名作中の名作、ガリレオガリレイを紹介します。
■ガリレオガリレイは、“天文時計の第一人者”によって作られた!!
前述したように、ガリレオガリレイは1983年に試作され、1985年に登場します。クォーツ(電池式)時計が腕時計の主流だった時代ですので、機械式(ゼンマイ式)時計の超複雑時計であるガリレオガリレイの登場は衝撃的でした。1989年には、「世界一複雑な腕時計」としてギネスブックの表紙にも掲載されたそうです。
開発者はルートヴィヒ・エクスリン博士です。エクスリン博士は、考古学、古代史、ギリシャ語にも通じ、“ファルネーゼ・クロック(1725年製)”と呼ばれる有名な天文時計を修復して論文にしたことでも有名です。そのような偉大な才能をもつ人物に、当時のユリスナルダンのCEOであるロルフ・W・シュナイダー氏が“腕時計型の天文時計”の作成を依頼したことがきっかけで開発がスタートします。
つまり、ガリレオガリレイは、正真正銘の「天文時計の第一人者」に製造を依頼して作られた時計なのです。
そのような背景で誕生した作品が“なんちゃって天文時計”であるはずがありません。完成したガリレオガリレイは、まさに“天文時計”の名に相応しいものでした。
■ガリレオガリレイは機能が凄い!
ガリレオガリレイの凄さは、なんといっても天文時計としての機能です。全ては紹介できませんが、分かりやすい機能を以下で紹介しましょう。
まず、ガリレオガリレイの基本からです。
針は時針と分針以外に、「太陽針」、「月針」、「ドラゴン針」という針が設けられています。その3つの針は、文字盤の中央を軸として取り付けられています。しかし、時分針とは異なり、中央軸から両手を伸ばすかのような形で“貫通する長い針”として取り付けられています。例えば、“龍”の形をしたドラゴン針なら、その頭と尾は、中央軸を挟んで反対側にあります。太陽針と月針も同様です。注意点として、太陽針と月針は、一方の端に“太陽”または“月”のモチーフが付きますが、針として読み取る“針先”は「モチーフがない側」です。
また、文字盤上には“連動して動くプレート”があります。ひとつは横道環で、いわゆる「おとめ座」や「ふたご座」などの横道十二宮が記されたプレートです。もうひとつは赤道環で、「January(一月)」、「February(二月)」などカレンダーが記されたプレートです。さらにプレートには、シリウス、スピカ、アンタレスなどの目安になる明るい恒星が描かれています。
ガリレオガリレイはそれぞの針やプレートが、それぞれのペースで動いているのです。これだけでも、複雑機構であることを感じます。
①現在、「何座」で「何月」が分かる
太陽針の先を読み解くと、「何座」や「何月」が読み取れます。上の画像では、「NOVEMBER(11月)」、「さそり座」ということが分かります。
②現在の「太陽と月の位置関係」が分かる
太陽針と月針の針先で、現在の太陽と月の位置関係が分かります。時計にしばしば“ムーンフェイズ(月齢表示)”という機能がありますが、“月齢”とは「太陽と月のずれ」を表していることなので、ガリレオガリレイの方がより高度な月齢表示と言えます。
例えば、「太陽と月が同じ位置にある」状態なら、月が太陽を隠す“新月”です。そして、「太陽と月が間逆の位置にある」状態なら、月が地球から見て真正面で太陽の光を受ける“満月”です。
また、太陽針、月針、ドラゴン針が同じ方向(または間逆)になる状態は、“日食”や“月食”を表します。具体的に言うと、「龍が月を食べているとき」、つまり「太陽針が間逆側にあり、ドラゴン針と月針の2つの針先が重なるとき」が“月食”です。そして、「龍が太陽と月を食べているとき」、つまり、「ドラゴン針・太陽針・月針の全ての針先が重なるとき」が“日食”です。
③「日の出」、「日の入り」が分かる
文字盤の上部と下部、さらにその中間部は色が異なります。色が濃い下部は“夜中”、色が薄い上部は“日中”、その中間の薄いグレーは“トワイライト(日の出、日の入り前の薄明かり)”を表します。太陽針が、“日中”、“夜中”、“トワイライト”のどの位置にあるかによって、現在の昼夜の状況が分かります。太陽針が“日中”と“トワイライト”の境、つまり“地平線(水平線)ライン”を通るときが、“日の出”または“日の入り”です。
④恒星の位置が分かる
文字盤上のプレートには、メジャーな恒星が描かれています。12時側が“南”の設定で読み取ります。もちろん日中は星が見えませんので、“太陽針が夜中を示す時間帯に読み取る”ことが前提となります。
例えば、画像の“スピカ”は、おとめ座で最も明るい恒星として有名です。もし太陽針が夜中を指している場合に、スピカがこの位置に見えるのであれば、「ちょうど南の夜空にスピカが見える」という意味となります(※)。
(※この画像では太陽針が“日中”ですので、この時間に恒星を読み取ることはありません。説明のために画像の状況を無視して、「太陽針が“夜中”にある」という“仮定”で解説しています)
■最後に
ここまでで、ガリレオガリレイの機能をいくつか紹介しました。本当は、さらに「方位の表示」、「不定時の表示」、「夏至や冬至」など、まだまだ機能があります。時計本来の「時刻を知る」という以外に、多くの情報を得ることができるのです。
もちろん、ガリレオガリレイは歴史的な名作であり、私どもの店舗へ入荷する機会もめったにありません。今回この投稿を執筆するタイミングで偶然1本入荷がありましたが、普段はなかなか目にすることはないはずです。ただ皆さんも、もしガリレオガリレイにめぐり合う奇跡に遭遇したら、是非、その“文字盤の中の宇宙”を眺めてみてください。きっと、この投稿を読んでいただいた方は、感動するはずです。
その感動の源泉は、天文時計用に複数の針とプレートが設けられているために感じる“スペクタクルな外観”によるところも大きいと思います。しかし実は、感動の源泉はそれだけではありません。内部の機構に思いを馳せるとさらに凄いのです。
なんと内部機構には、144,000年分の天文情報がプログラムされているのです!
とんでもなく凄い時計です。まさに、1980年代後半から1990年代に登場した名作、つまり“ネクストヴィンテージウォッチ”に相応しい作品です。
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