9.9.2017
知っていると時計通!「ビッグデイト」はランゲ&ゾーネが流行らせた(後編) ~ビッグデイトのルーツとは?~
Komehyo
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ブログ担当者:許
前回の投稿「知っていると時計通!ビッグデイトはランゲ&ゾーネが流行らせた(前編) ~なぜビッグデイトが流行ったのか?~」では、ビッグデイトが流行った経緯を紹介しました。
実は私には、「ビッグデイト」についてもうひとつお伝えしたいことがあります。
それは、「ビッグデイトにはルーツがある」ことです。
ルーツがあるからこそ、ランゲ&ゾーネは「ランゲ1」にビッグデイトを採用する発想に至ったのです。以降の文章で、紹介いたします。
↑「ビッグデイト」にはルーツがある
※画像は「グランドランゲ1」
■「ビッグデイト」のルーツとは?
結論から言うと、ビッグデイトのルーツはドイツのドレスデン(ザクセン州)にある「ゼンパーオーパー歌劇場の時計」です。
↑ルーツは歌劇場の時計
「歌劇場って?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単に言うと“オペラを見る所”です。このゼンパーオーパー歌劇場は、1838年にザクセン王国の宮廷歌劇場として建設が始まり、1841年に完成します。1843〜1849年まで、作曲家ワーグナーが指揮者を務め、彼の作品「タンホイザー」の初演が行われたことでも有名です。また、ザクセン王国の国王アウグスト2世もよく歌劇場に通っていたそうです。つまりゼンパーオーパー歌劇場は、王国時代に、王国のために作られた由緒ある歌劇場なのです。本当に豪華な外観をもつ歌劇場です。
■なぜ歌劇場に「ビッグデイト」のルーツの時計が!?
では、なぜゼンパーオーパー歌劇場にビッグデイトのルーツとなる時計が作られたのでしょうか?それは、当時の歌劇場にあった問題を解決するためです。
時代背景として、当時の携帯する時計は“懐中時計”です。そして、当時の問題として、大勢の観客が持っている懐中時計の音が演奏の邪魔をしていたのです。そこで、国王は宮廷時計師であったグートケース(※1)に「劇場内に時計を作ってくれ」と依頼しました。求めるポイントはシンプルで、次の2点です。
1.場内の観客全員が時計を見れること
2.暗い時にも時刻をよみとれること
単純に「大きな時計を作れば良いだけ」と発想できますが、実は、このシンプルな要望が難問だったのです。実は、時計を設置する理想的な場所である“舞台の上の空間”が狭かったのです。狭い空間の中で、いかに“見やすい”時計を作り上げるかがポイントでした。
そこで、グートケースは弟子であり、義理の息子でもあったアドルフ・ランゲ(※2)に相談しました。アドルフ・ランゲは、ランゲ&ゾーネの創始者です。
そして結果として、「五分時計」が誕生します。有限の空間の中、五分時計は完璧にすべてのリクエストをクリアしました。なんと、“針”の代わりに“デジタル表示”を用いたのです!
どうしても針式表示の時計を見やすくするには、“針の見やすさ”や“アワーマーカーの見やすさ”が重要になります。その見やすさを実現するには、「大きな時計」を作るしかありません。しかし、デジタル表示であれば、別の方法で見やすさを実現できます。具体的には、デジタル表示はディスクのみで時刻を表現します。そのため、時と分の“2つの数字”だけを大きく見せれば、見やすい時計が実現できるのです。歌劇場の舞台上のような限られた空間で時刻を見やすくするには、より良い方法です。まさに、見事なソリューションです。
さて、「なぜ歌劇場にビッグデイトのルーツとなる時計がつくられたのか?」の問いに対する回答です。
「懐中時計を使わなくても良くするため」
と
「狭い空間に時計を設ける必要があり、2つの窓で表現する“デジタル表示時計”が解決策だったから」
という理由です。
■最後に
そして、時を経た1994年。ランゲ&ゾーネは再デビューの初作である「ランゲ1」に、この歌劇場に設けられた五分時計のエッセンスを投入しました。当時のような“時刻表示”用ではありませんが、“日付表示”として五分時計の雰囲気を再現しました。それが、ビッグデイト、ランゲ&ゾーネ風の表現では「アウトサイズデイト」です。
↑「アウトサイズデイト」
ランゲ&ゾーネが流行らせたビッグデイトは、もちろん「斬新なことをしよう」という理由もあったのでしょうが、どちらかと言うと「伝統を表現しよう」という発想で誕生したように感じます。なぜなら、特にランゲ&ゾーネの再デビュー作には、ブランドのアイデンティティを示す必要があったからです。
前回の投稿で書いた中に、「ビッグデイトは下火になった」という内容がありました。そして、その理由のひとつに、ビッグデイトの故障リスクを挙げています。確かにそれは事実です。しかし、ランゲ&ゾーネは現在もビッグデイトの採用を当たり前のように続けています。その理由は簡単です。
1.「ビッグデイト」はランゲ&ゾーネのアイデンティティだから
2.ランゲ&ゾーネの「ビッグデイト」は、故障リスクが少ないから
実は、ランゲ&ゾーネのビッグデイトの日付変更操作は、一般的な「リューズ操作」ではなく「ボタン操作」なのです。リューズ操作の場合、せっかちな方は急いで回してしまうことが考えられます。それが危険な操作です。しかし、ボタン操作であれば、一回ずつ“押す”という途切れ途切れの操作をするため、より安全です。
↑日付変更はボタンで操作なので安全
つまり、ランゲ&ゾーネにとっては、「ビッグデイト」の採用を止める理由は一切ないのです。これからも、ランゲ&ゾーネには、ずっとビッグデイトを継続して欲しいです!
※1・・・グートケース(グートケス/ガトカス/グゥートゥカス)/Johann Christian Friedrich Gutkaes(1785-1845)は、ザクセン王国の高名な宮廷時計師。娘が弟子のアドルフ・ランゲと結婚したため、アドフル・ランゲの義理の父親でもある。
※2・・・アドルフ・ランゲ/Ferdinand Adolph Lange (1815-1875)については、過去の投稿「ランゲ&ゾーネが強調する数字“1815”の意味とは? ~アドルフ・ランゲの功績~」をご覧ください。
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