26.2.2016
時計史上最も有名な人物は「アブラアン・ルイ・ブレゲ」 ~ブレゲ社が持つ創設者への想い~
Komehyo
ブログ担当者:荒川
歴史上の偉人として、それぞれのジャンルに誰もが知る有名人がいます。例えば、音楽ならベートーヴェン、発明ならエジソン、飛行機ならライト兄弟、野球ならベーブ・ルース、サッカーならペレやマラドーナなど枚挙にいとまがありません。では、時計業界の歴史上の偉人をご存知でしょうか。時計に明るい方に問うと、「ブレゲ」という回答がすぐに帰ってくるはずです。そのアブラアン=ルイ・ブレゲ(以下、初代ブレゲ)は「時計界のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称され、さらに「時計進歩の歴史を200年早めた」と評価されています。彼のことは以前のブログ「プロでも悩む時計!ブレゲの銘品アエロナバル」でも少し紹介をしています。
そして、「アブラアン・ルイ・ブレゲ」というひとりの天才が1775年に構えた時計工房の遺伝子を継ぐ時計メーカーがあります。そう、現代の「ブレゲ社(ブレゲ・マニュファクチュール)」です。ヴァシュロン・コンスタンタン、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲなど名門老舗時計メーカーはいくつかありますが、ブレゲ社ほど「創設者に対する想い」が強いメーカーはないと思います。そして実は、その強い想いが現在のブレゲ社の時計で表現されているのです。
今週は、ブレゲ社の抱く創設者への強い想いが、現在のブレゲ社の時計にどのように表れているかを紹介いたします。
↑現在のブレゲ社の時計には創設者への強い想いがある
◆「トゥールビヨン」という技術を大切にするブレゲ社
初代ブレゲは数々の時計の技術を発明、または画期的な改良をしています。自動巻き機構、ミニッツリピーター、永久カレンダーなど内部機構の発明は、科学にも明るかった初代ブレゲの優秀な頭脳があったから成し遂げられたものです。その発明技術の中で、ブレゲの代名詞のように語られる技術があります。それは、「トゥールビヨン」です。1801年の6月26日に彼がトゥールビヨンの特許を取得したことが史実として残っています。
トゥールビヨンとはフランス語で「渦」という意味です。1分(もっと短い場合もあり)で1回転する「キャリッジ」と呼ばれる回転ゲージの中にテンプを収納することで、時計にかかる重力の影響を最小限に抑え、極限まで精度を高める機構です。つまり、科学にも明るかった初代ブレゲは「重力が時計の精度に影響する」ということを知っていたのです。
↑左がトゥールビヨンの核となる「キャリッジ」をクローズアップしたもの
※画像はクラシック トゥールビヨン:型式3355PT/00/986
この「重力分散装置」とも言えるトゥールビヨンは常識を覆すような画期的な機構でした。しかし、この技術は懐中時計時代に考案されたものですので、より小型な腕時計にトゥールビヨンが採用されたのは1980年代になってからです。ちょうど機械式時計が下火になった時期からの復興期でしたので、機械式時計がもつ芸術性を世間にアピールするために、高い技術をもつ時計師や高級時計メーカーがこの技術の再現に挑戦しました。もちろん、ブレゲ社もその挑戦に真っ先に挑んでいます。この時代はトゥールビヨンを作れることがステータスであり、フランク・ミュラー氏やダニエル・ロート氏などは「トゥールビヨンを作れる時計師」として名を馳せました。しかし、ここ何年かで新時代の加工技術が時計メーカーにも導入され、以前よりもトゥールビヨンを製造する難易度は下がっています。そのため、数多くの時計メーカーがトゥールビヨンの時計をラインナップするようになり、現在はトゥールビヨンの希少性は以前ほどありません。
しかしそんな状況でも、ブレゲ社は創設者が発明したアイコニックな技術であるトゥールビヨンを「ブレゲの看板機構」として作り続けています。それは、現在のブレゲの技術の粋を集めたライン「クラシックコンプリケーション」内で、最も多く採用されている機構がトゥールビヨンという事実からもうかがい知れます。
◆初代ブレゲが採用した外装様式を現在も大切にするブレゲ社
初代ブレゲの功績は上記のような機構面に限ったことではありません。「外装技術」への歴史的貢献も数多くあります。そして、その多くの外装技術が現在のブレゲ時計によって受け継がれています。つまり、現在のブレゲは約200年前のブレゲの時計に採用されていた外装様式をオマージュしており、その様式を現在の時計にも積極採用しているのです!もちろん昔の技術ですので、もし高いクオリティで再現しようとすると、「手作業」をしなくては実現できないものも多くあります。現在のブレゲにはいくつかのラインがありますが、その特徴を最も再現しているのがフラッグシップラインである「クラシック」コレクションです。
↑クラシックコレクション
※画像左:5907BA/12/984
※画像右:1775PT/29/986
では、初代ブレゲが好んで採用した「外装様式」を一部ですが紹介いたします。
①ギョーシェ(ギヨシェ)彫り文字盤
「ギョーシェ彫り」とは繊細な模様を文字盤に規則正しく彫り込む装飾技法のことです。その掘り込み模様には「クル・ド・パリ」や「パヴェ・ド・パリ」などいくつか種類があります。驚かされるのは、ブレゲ社ではこの彫り作業を全て100年以上前に製造された手動プレス機を使って職人が行っているそうです。さらに、ブレゲ社は文字盤素材にホワイトゴールドなど「金」を採用することが多いのです。文字盤に対してここまで情熱とコストを掛ける時計メーカーは珍しいです。
②ブレゲ針・ブレゲ数字
↑左:青焼きした「ブレゲ針」、右:「ブレゲ数字」のインデックス
細くすっきりとしたラインを持つ針の途中に円形のデザインを組み合わせた形の針が「ブレゲ針」です。そして多くの場合、そのブレゲ針を「青焼き」にします。鋼鉄をフライパン状のもので焼き、青く色が変色した一瞬のタイミングをとらえて火から外すという手法で生産される針です。高い基準に達するものを作るために、その成功率は3割ほどしかないとされています。手法自体は1783年ころ発案されたようです。このデザインが評判となり初代ブレゲは急速に成功を収めるようになりました。
また、アラビア数字を斜体にした「ブレゲ数字」と呼ばれる独特なインデックス書体も特徴的です。もちろん初代ブレゲ本人がデザインしたものです。現在では同社のエナメル文字盤と組み合わせて採用される事が多いですが、ブレゲの個性を担う一つの要素となっています。
③コインエッジ装飾
ケース側面に施されるのが「コインエッジ装飾」です。名前の通り由来はコインから来ている装飾で、俗な言い回しをすると側面を「ギザギザにする」装飾です。かつてのギザギザのない金貨の時代は、側面を削り取って金の一部を不正回収するという行為が横行したそうです。その対策としてとられたのが側面をギザギザにする装飾です。いち早くこの装飾に取り組んだのが初代ブレゲの活躍した国であるフランスと言われており、彼が時計にこの装飾を採用しようと発想に至る要素があったと考えられます。この装飾はクラシックコレクションだけに留まらず、全ブレゲデザインの象徴的モチーフにもなっています。こちらも手作業で施されるそうです。
④シークレットサイン
初代ブレゲの時計が評判となり 、成功を収めると別の問題が起こりました。それは、「偽造品の登場」という問題です。偽造品の横行により評判を落としたくない初代ブレゲは策を打ちます。それが「文字盤に隠しサインを入れる」というものです。これが「シークレットサイン」です。現代のように情報が幅広く行き渡る時代ではありませんので、本物に隠しサインを入れる手法は有効だったのでしょう。偽造品を作る側が隠しサインがあることを知らなかったり、知っていてもどんなサインか分からない状況は十分ありえるのですから。情報の出回る現在は、シークレットサインを入れる意味があまりないのかもしれません。しかし、初代ブレゲをオマージュするブレゲ社はシークレットサインを現在の製品に入れ続けています。
いかがでしょうか?現在のブレゲ社は、初代ブレゲの考案した技術を再現し、現在の製品にその技術を注いでいます。つまり、私たちが現在入手できる現代のブレゲ時計にも、天才と言われる初代ブレゲの技術が深く息付いていることが分かります。冒頭でも述べましたが、数あるメーカーの中でもこれほど創設者へのオマージュに満ちたブランドはありません。その強いオマージュの気持ちこそが、約200年前の技術を大切にする現在のブレゲ社の原動力に違いありません。また、約200年前の技術を現代の時計に採用することで生まれるメリットもあります。それは、「普遍性」を時計に与えることができるという点です。つまり、世代を超えて多くの人が「すばらしい!」と感じることのできる時計を作ることができます。
もし、約200年前の技術を取り入れ作られる現在のブレゲの時計にシンパシーを感じる方は、もしかしたら時計に対する感性が優れている方かもしれません。是非、実際に手に取って稀代の天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲの感性に触れてみてはいかがでしょうか!
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