12.2.2016
セイコーの持つ世界に勝る技術「スプリングドライブ」とは? 〜グランドセイコーの世界進出〜
Komehyo
ブログ担当者:志津
時計愛好家にセイコーのトップブランドとして知られる「グランドセイコー」(以下「GS」)。シンプルかつ飽きのこないデザインであり、ビジネスシーンでも愛用されている方も多いのではなでしょうか。
舶来時計の代表ブランドのロレックスやオメガなどと比較しても、GSには百貨店、個人時計店、量販店など多くの販売店が国内にあります。大都市まで足を運ばなくても、GSの時計は容易に手に入ります。つまり、私たちにとってGSは「身近な高級時計」なのです。
しかし、それは私たち日本人だけの感覚です。実は、GSは2010年に海外へ進出したばかりで、それまでは国外で手に入れることが難しいブランドでした。もちろんセイコーは以前より海外に商品展開をしていましたが、それはGSよりも安価な価格帯の時計です。つまり、セイコーが「高級時計」の分野で本格的に世界で戦うのはこれからなのです。
そして私は、その海外の「高級時計」市場で戦うためのセイコーの大きな武器が独自機構「スプリングドライブ」であると考えています。
この言葉に耳慣れない方もいらっしゃると思いますが、時計を動かす画期的な機構です。この機構は自動車で例えるなら「ハイブリッドカー」のようなイメージです。私は、トヨタがハイブリッドカーで世界を牽引しているように、セイコーも「スプリングドライブ」で世界を席巻して欲しいと思っています。
今週は、セイコーが誇る機構「スプリングドライブ」について紹介しながら、その機構がセイコーの世界進出への大きな武器になるであろう点を述べさせていただきます。
↑スプリングドライブはセイコーの大きな武器
■「スプリングドライブ」はクォーツ時計と機械式時計の良いとこ取り!
「スプリングドライブ」という言葉に聞きなれない方も多いと思います。簡単に言うと「クォーツ時計と機械式時計の良いとこ取り」(※1)をした機構です。
では、少し難しい話になりますが、この機構を理解するために時計の仕組みを掻い摘んで説明いたします。実は、時計が動く仕組みの大きな要素は「動力」と「制御システム」にあります。簡単に言うと、「時計が何の力を利用して動いているのか」と「1秒を1秒として、1分を1分として時刻の進みをコントロールしているシステムは何か」ということを考えれば時計が動く仕組みが理解しやすくなります。下で、クォーツ時計と機械式時計に分けて「動力」と「制御システム」をまとめます。さらに、長所と短所も加筆しておきます。
<時計の「動力」と「制御システム」>
①クォーツ時計
<動力>
→電池(電気)
<制御システム>
→クォーツ(水晶)の規則正しい振動を利用
<長所と短所>
→標準的なものでも誤差が月に15秒程度と高精度であるが、電気による駆動のためトルク(時計を動かす力)が小さい
②機械式時計
<動力>
→主ゼンマイ(解ける力)
<制御システム>
→ヒゲゼンマイを利用したテンプの規則正しい振動を利用
<長所と短所>
→ゼンマイ駆動のためトルクが大きいが、精度は標準的なもので誤差が日に10~30秒程度 ありクォーツ時計より精度が劣る
↑機械式時計はゼンマイの力で動く
※画像はブランパン「ヴィルレウルトラスリム」
見ていただいたように、時計は主に上の2つの仕組みで動き、時間を刻んでいます。なぜ種類があるのかというと、それは時計の進化の歴史が「機械式時計→クォーツ時計」であったからです。現在ではどちらの仕組みも流通しており、双方ともに基本的な時計の仕組みとなっています。そして、スプリングドライブを上と同じくまとめると以下のようになります。
③スプリングドライブ
<動力>
→主ゼンマイ(解ける力)=機械式時計の長所
<制御システム>
→クォーツ(水晶)の規則正しい振動を利用=クォーツ時計の長所
<長所>
→ゼンマイ駆動のためトルクが大きく、さらに誤差が月に15秒程度と高精度
↑スプリングドライブ機構搭載のグランドセイコー
※画像は型式SBGA011
このように、スプリングドライブはクォーツ時計の持つ「高精度」という長所と、機械式時計のもつ「大きなトルク」という長所を併せ持った「良いとこ取りウォッチ」なのです。冒頭で「ハイブリッドカーのような」と述べたこともご理解いただけると思います。
ただ、「トルク」の話がピンとこないという方もいらっしゃるかと思いますので補足します。時計にとってはトルクが大きいことによるメリットがいくつかあります。例えば、パワーがあるので大きな針や日付ディスクを採用することもできるので、「デザインの自由度が増す」という点があります。さらに、パワーがあるので時刻表示以外の「機能を付加しやすい」という点もあります。
■スプリングドライブは世界で唯一セイコーだけ!
スプリングドライブのメリットを考えると多くのメーカーがこの機構の開発に取り組んでも良さそうに感じます。しかし、スプリングドライブは世界で唯一セイコーしか作ることができない仕組みとして知られています(※2)。
時計開発者の目線から見ても、アナログ(機械式時計)とハイテク(クォーツ時計)の融合は簡単ではないことが明らかだったからです。その技術的困難さから、実現まで漕ぎ着けたのがセイコーだけだったということです。実際クォーツ時計で世界を牽引する技術を持つセイコーでも、スプリングドライブの完成まで20年以上かかったことがその証明と言えます。
その歴史を追うと、セイコーはその構想を1977年から持っており、1982年に開発を開始し、1998年に世界に発表されました。そして翌年の1999年には手巻タイプでようやく製品化されました。その後、自動巻タイプを開発し、2004年にGSに搭載されます。
そして、この自動巻化の際に、ゼンマイのフル巻上げの際の持続時間も48時間から72時間に向上しています。高精度を長時間維持するスプリングドライブの登場は、まさにGSの「高い実用性」というコンセプトを体現したのではないでしょうか。
スプリングドライブは長い期間をかけて開発した革命的な新機構ですが、定期メンテナンス(オーバーホール)は約5万円という料金で、通常の自動巻などの機械式GSより5千円ほど高いだけです(※3)。特殊機構にしては良心的な料金となってる点もユーザーにはうれしいポイントです。
さらに、時計愛好家からは、その機構の特徴的な表現となる「なめらか過ぎるスイープ運針」が賞賛されています。機械式は振動数により「チチチチッ」と、クォーツは1秒ごとに「チッチッチッ」と針が進みます。しかし、スプリングドライブのスイープ運針はその二者と違い、針は滑らかに、静かに進みます。「スー」という感じでしょうか。そんな針を見る楽しみが増えることもスプリングドライブの魅力だと思います。
■最後に
このように、スプリングドライブはセイコー独自の革新的な機構です。そして、スプリングドライブ機構搭載のモデルはセイコー内でいくつかありますが、GSがその搭載の主役になっています。これから世界ブランドとして展開していくグランドセイコーラインにとっては、この機構こそがGSの凄さを世界に訴える武器になります。
では、スプリングドライブに弱点はないのでしょうか?実は、私が改善を求める点があります。それは、私も一時計ファンとして、願わくば小型化、薄型化モデルの登場望んでいます。現行のスプリングドライブ搭載モデルは直径が約39.5~41mmです。シンプルな時計だからこそ、もう1~2mmほど小さくなって欲しいと思う時計愛好家の方も多いのではないでしょうか。この完成度を維持しての小型化は困難だと思われますが、是非そのような新モデルが近い将来バーゼルワールドで見られることを期待しています。
私の個人的な「物申し」はさておき、時計大国スイスにもなしえない技術を持って世界に打って出るセイコーというメーカーがあることを、私たち日本人がもっともっと誇りに思ってもよいのではないでしょうか。もちろん、ロレックスを腕に着けてベンツの車に乗ることもステータスですが、グランドセイコーを腕に着けてトヨタのレクサスに乗る人もまた粋なセンスだと私は感じます。
これからも日本の飽くなき技術の追求に期待しています!
※1・・・クォーツ式時計と機械式時計の特徴については、過去のブログ「知っていますか?腕時計の大敵は磁気!!」の注釈で少し解説しております。ご参照ください。
※2・・・執筆時点ではSIHH2016での新作発表情報を把握していませんでしたので、SIHH2016でピアジェが発表した「700P」のことが考慮されておりません。ご了承ください。「700P」も機械式とクォーツ式とのハイブリッドムーブメントです。
※3・・・執筆時点の調査ではスプリングドライブGSのコンプリートサービスが税込み50,760円、自動巻などの通常機械式が税込み45,360円です。
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