4.9.2015
パネライ「ラジオミール」がもつ二面性とは?
Komehyo
ブログ担当者:鳥居
最近の腕時計は昔に比べて大きなサイズのものが多いと思います。それは、俗に言う「デカ厚」ブーム以降、腕時計の「標準サイズ」が変わってしまったからです。
今では、「42mm」「44mm」「45mm」というサイズが、私たちがよく目にする紳士用腕時計のケース直径になっています。厚みも1.5cm以上あるものが増えています。その「標準サイズ」の変化のきっかけを作った「デカ厚」ブームですが、火付け役になったメーカーがあります。
そのメーカーこそ、「オフィチーネ パネライ」(以下、パネライ)です。
パネライはそのケースのシルエットに特徴があります。見ていただくと一目瞭然ですが、代表作の「ルミノール」と「ラジオミール」という2つのモデルは、それぞれに異なった特徴のあるシルエットを持っています。どちらも「クッションケース」と呼ばれる形のケースですが、ルミノールはリューズを守るプロテクターである「リューズガード」があるのが特徴です。一方、ラジオミールにはリューズガードはありませんが、「大ぶりのねじ込み式リューズ」が特徴です(別のブログ「パネライ初心者でもわかるモデルの選び方」も是非ご確認ください)。
その2大モデルの中でも、今回は「ラジオミール」の方にフォーカスをしたいと思います。そのラジオミールを、私は「二面性のある時計」として評価しております。つまり今週は、「ラジオミールがもつ二面性」について紹介させていただきます。
↑「ルミノール」:画像はPAM00111
↑「ラジオミール」:画像はPAM00183
まずは、パネライというブランドを簡単に紹介させていただきたいと思います。
■イタリア発祥のメーカー「パネライ」
まずは、パネライというメーカーについて簡単に触れておきます。
現在の時計大国といえばスイス、ドイツ、日本ですが、パネライはイタリアで設立されます。1860年にジョバンニ・パネライによって興されました。元々は精密機器メーカーとして活躍していましたが、今では時計製造の方にウェイトが置かれています。時計がパネライの主力商品になったきっかけは、1930年代にイタリア海軍のための軍事用ウォッチの生産を始めたことです。その時、最初に製作されたのがラジオミールだと言われています。
ずっと軍事用を専門に時計を製造してきましたので、一般人には馴染みのない時計メーカーでした。しかし、1993年に一般向けの販売を始め、更に1997年にリシュモングループに加わり、本格的に一般販売向け時計メーカーとして動き出しています。
■ラジオミールのスタンスの変化
パネライが一般向け販売を開始して、まず注力したのがルミノールでした。その理由のひとつとして、特徴的なリューズガードを持ったルミノールの方がインパクトがある点が挙げられます。そして、別の理由としては、歴史的に見てラジオミールを進化させたモデルがルミノールですので、ルミノールの方をパネライの「顔」として設定したという理由もあると思います。実際、一般向け販売を開始して以降、パネライは様々なバリエーションのルミノールを市場に投入します。
ルミノールが主力商品として市場に投入される状況と平行して、ラジオミールは「別の顔のパネライ」として市場に投入されます。実際に、一般向け販売開始後の初期に市場投入されたラジオミールのラインナップを見ていただければ、その「別の顔」の意味が読み取れます。下で、1990年代後半~2000年代前半に市場投入されたラジオミールを紹介いたします。
<1990年代後半~2000年代前半に市場投入されたラジオミール>
「ロレックス」ムーブメントのPAM00021
「オメガ」ムーブメントのPAM00078
「ヴィーナス」ムーブメントのPAM00047
「シェザー」ムーブメントのPAM00080
「ヴァルジュー」ムーブメントのPAM00163
「ジャガールクルト」ムーブメントのPAM00184
「フレデリックピゲ」ムーブメントのPAM00065
「ジラールペルゴ」ムーブメントのPAM00077
いかがでしょうか?この時期に投入されたラジオミールの特徴として、ムーブメントにも造詣が深い「時計愛好家」をターゲットにしていることが読み取れます。これらのモデルは継続するモデルではなく、一定の限定数のみ製造した後は販売を終了します。そのことが、より時計愛好家の心を掴みます。
つまり、一般向け販売開始後の“初期のラジオミール”は、「愛好家向けモデル」であるというスタンスがありました。
しかし、2004年に「ラジオミールブラックシール(PAM00183)」が登場し、継続販売をするレギュラーモデルとしてラインナップすると、ラジオミールというモデルのスタンスが変わります。
つまり、“2004年以降のラジオミール”は、ルミノールと肩を並べる「主力商品」としてスタンスを変化させます。
このように、ラジオミールは2004年を境として「時計愛好家向け →パネライの主力商品」という流れでスタンスを変化させ、それに伴ってラジオミールというモデルのイメージも変化します。この点が、私がラジオミールを「二面性のある時計」として認識している理由です。
■パネライらしからぬサイズ感のラジオミール
最後に、上で紹介していないモデルである「ゼニスのムーブメントを搭載したラジオミール」について紹介いたします。このモデルはパネライらしからぬサイズ感のラジオミールとして知られています。
↑ゼニスのエリートを搭載したPAM00103
パネライと言えば大きくて厚みのある時計をイメージされる方が多いと思いますが、ゼニスムーブメントのラジオミールはそういったイメージとは対極の位置にあります。サイズは40mmとラジオミールでは最小のサイズで、厚みも約10.5mmと自動巻時計としては薄めです。腕に付けてみるとゴールドの柔らかい高級感や日本人には丁度良いサイズ感も相まって非常に魅力的に感じられると思います。
実は、40mmサイズのラジオミールは2015年現在まででわずか2つしか発表されていません。ひとつはピンクゴールド素材のPAM00103、もうひとつはホワイトゴールド素材のPAM00062です。この2つの時計はごくわずかな期間しか製造されず、PAM00062は2000年~2002年の3年間、PAM00103に至っては2001年~2002年の2年間しか製造されていません。前述の2004年という境の前に製造されたラジオミールらしく、非常に希少な時計といえるのではないでしょうか。
↑ゼニスのエリート
PAM00103/PAM00062には、ゼニス社の「エリートCal.680」というムーブメントが使用されています。
ゼニス社のムーブメントはエル・プリメロ(※1)を筆頭に評価が非常に高く、パネライ以外にもロレックス、タグホイヤー、ウブロ、ダニエル・ロートなど名だたるブランドが使用しています。ゼニス社のムーブメントでは、「エルプリメロがクロノグラフ」、「エリートが3針ムーブメント」という棲み分けになっています(最近はエルプリメロの3針モデルも登場しましたが)。
1994年に登場したエリートは、しばしばエルプリメロからクロノグラフ機構を外したムーブメントと言われています。しかし、実際は異なる点も多く、「新規設計」と言った方が正確だと思います。薄型ながら耐久性、実用性が非常に高いムーブメントとして評価されているエリートは、現在でもゼニスの主力ムーブメントとして重宝されています。しかし、評価の高いムーブメントではありますが、エルプリメロに比べると、エリートが他メーカーで搭載された例は少ないとう事実があります(※2)。逆に言うと、このエリートが搭載されたラジオミールは「ゼニス以外のメーカーがエリートを搭載した希少な例」と言えます。
「小ぶりなラジオミール」として知られているのが、このエリートムーブメント搭載のラジオミールです。皆さんも手に取る機会があれば、そのパネライらしからぬバランスをチェックしてみてはいかがでしょうか?
※1・・・エルプリメロについては過去のブログ「ロレックス デイトナ16520 について ~先代デイトナの魅力~」を参照してください
※2・・・他の例としては、コンコルドの「インプレサリオ」に搭載されたことがあります。
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