17.6.2018
ヴァシュロンコンスタンタンの世界観を理解するなら、「コメモレーション」モデルから!! ~其の二、コメモレーションの主役は「シャンベラン」~
Komehyo
ブログ担当者:須川
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「ヴァシュロンコンスタンタンの世界観を理解するなら、「コメモレーション」モデルから!! ~其の一、「コメモレーション」とはどんなモデル?~」
今回も、ヴァシュロンコンスタンタンの「コメモレーション」についてです。
前回の前編で、私はひとつの提案をしました。
それは、
ヴァシュロンコンスタンタンの世界観を理解するために、「コメモレーション」モデルを把握してはどうでしょうか
という提案です。
この私の提案をご理解いただくべく、前回はその初回として「コメモレーションとはどんなモデル?」という点を紹介しました。
そして後編の今回は、
1. なぜ、「コメモレーション」によりヴァシュロンコンスタンタンの世界観が理解できるのか
そして、
2. コメモレーションの代表モデルはどれ
という2点を紹介します。
■「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」は、そのデザインにある!
ここでは、「なぜコメモレーションがヴァシュロンコンスタンタンの世界観を表すのか」を理解するために必要な前提知識として、まずは「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」について考えてみましょう。これを考えることが、同社の世界観の理解へ近づく一歩になります。この「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」を考える切り口として、まずはヴァシュロンコンスタンタンの得意分野から考えてみましょう。
現在のヴァシュロンコンスタンタンの得意分野のひとつは、“スポーツシリーズ”です。具体的には、「オーヴァーシーズ」が人気となっています。簡単にですが、時系列でこのシリーズを整理します。同社のスポーツシリーズは1977年の「222」に始まり、「333」や「フィディアス」を経て、1996年登場のオーヴァーシーズにバトンを渡します。この登場年を見ていただくと分かりますが、これらのスポーツシリーズは“近年のヴァシュロンコンスタンタン”と言えるのす。つまり、1755年から続くヴァシュロンコンスタンタンにとっては、スポーツシリーズを得意分野にしたのはつい最近のことです。そのため、「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」を理解するには、このスポーツシリーズでは不十分です。
↑オーヴァーシーズ
では、その他のヴァシュロンコンスタンタンの得意分野も見てみましょう。
同社は、
・“コンプリケーション(複雑機構の時計)”も得意
・ダイヤモンドなどを使った“宝飾時計”も得意
・シンプルな“ドレスウォッチ”も得意
なのです。
↑複雑機構も宝飾時計も得意
前述のスポーツシリーズと併せると、ヴァシュロンコンスタンタンはトップブランドらしく、様々な方向に対して得意分野があります。これは、時計メーカーとしては「器用である」というように評価できます。しかし一方で、逆に「器用すぎて、ブランドの特徴が見えない」という欠点もあります。きっと、「ヴァシュロンコンスタンタンの特徴とは?」と聞かれると、困る人も多いはずです。
しかし不思議なところは、「特徴が見えない」にもかかわらず、間違いなく「独特の世界観」を感じるブランドでもあるのです。言葉では表現しにくいのですが、やはり時計愛好家の方々は、「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」を知っています。私は、「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」を炙り出すために、「同格のパテックフィリップやオーデマピゲとの違いは何?」という観点から考えてみる方法が有効ではないかと考えました。
きっと時計愛好家の方が、この質問文に答えると、
「ヴァシュロンコンスタンタンならではの、特徴あるデザイン」
と答えるのではないでしょうか。
なぜこの答えになるのかというと、パテックフィリップもオーデマピゲも、コンプリケーションや宝飾時計、さらにシンプルなドレスウォッチを得意にしています。得意分野が被っており、それらの部分ではヴァシュロンコンスタンタンとの違いを見出せません。違いを見出すとすれば、他の要素になります。おそらく時計愛好家の方々は、ヴァシュロンコンスタンタンに特化した特徴として、“ケースやラグデザイン”、“針やインデックスのデザイン”が特徴的だとイメージするはずです。そのため、上のような答えになると想像できます。
↑特徴あるラグデザインの例
※画像は“ティアドロップ”形(通称「猫足」)
↑特徴あるケースデザインの例
※画像は“フレアード”形
つまり私の結論としては、
「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」
とは、
「ヴァシュロンコンスタンタンのデザイン」
ということになるのです。
■なぜ、「コメモレーション」がヴァシュロンコンスタンタンの世界観を表すのか?
これで、ヴァシュロンコンスタンタンの世界観を感じるには、コメモレーションが相応しいモデルであることが説明できます。
前提として、
「ヴァシュロンコンスタンタンの世界観」を感じること = 「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」を理解すること
と考えてみます。
すると前述したように、「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」は“デザイン”にありますので、そのデザインをチェックする必要があります。ただし、何でもかんでもデザインをチェックすれば良いということでもありません。なぜなら、多くの愛好家が感じる「ヴァシュロンコンスタンタンらしいデザイン」は、“過去の名作デザイン”だからです。
つまり、ヴァシュロンコンスタンタンの世界観を感じるためには、“過去の名作デザイン”をチェックすれば良いのです。
具体的に、ヴァシュロンコンスタンタンの“過去の名作デザイン” を感じることのできるモデルには、
・ヒストリカル(ヒストリーク)シリーズ
↑リール
・コメモレーション
↑キャビノチェ
があります。
ヒストリカルシリーズは、簡単に言うと、ヴァシュロンコンスタンタンの“過去の名作デザイン”を味わえるレギュラーモデルです。ヒストリカルシリーズは既に終了していますが、現在はヒストリークシリーズが存在します。これらはレギュラーモデルであるために、“いくつかの種類のモデルが、継続的に”ラインナップされます。
一方、コメモレーションは前編で紹介したように、その年限定の記念モデルです。つまり、レギュラーモデルではありません。そのため、基本的に“毎年、違う種類のモデルが”作られました。
ヒストリカル(ヒストリーク)シリーズもコメモレーションも、“過去の名作デザイン”が味わえる点では同じです。しかし、「多くの種類を凝縮して味わえる」点で、短期間で多くのモデルをリリースしたコメモレーションの方が勝っています。まさに前編で例えたように、コメモレーションは“ヴァシュロンコンスタンタンのベスト盤”のような存在なのです。
皆さんも、未知の音楽アーティストを知るときに、「ベスト盤から聴いてみる」という行動をすることがあると思います。ヴァシュロンコンスタンタンの世界観を知るのも、同じ方法で良いと思います。“ヴァシュロンコンスタンタンのベスト盤”、つまりコメモレーションからチェックすれば良いのです。これが、今回の私の提案です。
■コメモレーションの代表モデル
今回の最後に、「コメモレーションの代表モデルはどれ?」という疑問にお答えしましょう。
ずばり、1997年のコメモレーション「シャンベラン」です。
↑シャンベラン
もちろん代表的存在になっている理由は、「人気があるから」です。さらに掘り下げて、人気の理由まで迫りましょう。実は、シャンベランが人気の理由は、「人気ムーブメント搭載モデルだから」なのです。
↑シャンベランのムーブメントCal.1120
シャンベランに搭載されるムーブメントはCal.1120です。これは、ジャガールクルトのCal.920をベースにしていますが、時計業界の中でも屈指の名ムーブメントとして評価されています。高い評価を得るポイントはいくつかありますが、ここでは主に2つの点を紹介します。
<ジャガールクルトCal.920の高評価ポイント>
①雲上三大メーカー専用ムーブメント
真実はさておき、Cal.920は「パテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロンコンスタンタンの3メーカーに向けた専用ムーブメント」と言われます。製造するジャガールクルトさえほとんど搭載しないようです。それを、それぞれのメーカーが独自の技術でブラッシュアップします。そのため、キャリバー名はメーカーごとに変わります。パテックフィリップならCal.28-255、オーデマピゲならCal.2120系、そしてヴァシュロンコンスタンタンはCal.1120系です。
↑初代ノーチラス
例えば、
「初代ノーチラス(パテックフィリップ)」
「初代ロイヤルオーク(オーデマピゲ)」
「222(ヴァシュロンコンスタンタン)」
に搭載されたムーブメントでもあります。
3つの人気メーカーを股にかけて活躍するムーブメントだけに、一般的な自社製ムーブメントよりも人気があります。
②設計が面白い
Cal.920は設計の面白さも魅力です。その設計の中で、最も分かりやすい点は「レール付きローター」です。
↑レール付きローター
Cal.920は、“薄い自動巻ムーブメント”を目指したものです。そのため、薄くする工夫があります。その薄くする工夫のひとつが、レール付きローターなのです。そもそも、レールが存在する点で、見た目の個性が際立ちます。ただし、個性だけのためにある設計ではありませんので、少し説明をしておきましょう。
一般的に、自動巻式時計は、腕の動きでゼンマイを巻きます。よくある仕組みとしては、ムーブメントの中央軸に半月形の“回転する錘(おもり)”を付けて、それが回転するとゼンマイが巻き上がる仕組みです。この“回転する錘”を「ローター」を呼びます。ローターは中央の軸に、“ある程度滑れる状況でしがみついている”イメージです。このローターの信頼性を高めるために、一般的な自動巻ムーブメントは、中央を丈夫に設計する必要があります。しかし、中央は元々他の歯車などが設置されている部分です。そのため、ローター中央部分を“丈夫な設計”にすると、中央に部品のボリュームが出て、厚みが増えてしまいます。
↑レール下に4つのルビー製ローラーがある
※画像:スケルトンモデルを前面から見た様子
Cal.920は、その解決策として、外周部分を巧みに使っています。ローター外周にレールを設けて、レールの下に4つのルビー製ローラーを設けるのです。これで、中央の1点と外周レール下の4点、つまり計5点での支えになります。この5点支えにより、特に中央部分を“丈夫な設計”にする必要がなくなり、ムーブメントを薄くできるのです。結果、厚み2.45mmという、薄い自動巻ムーブメントが実現しました。
上で紹介した2点が、Cal.920の主な魅力です。その背景や独特の機構に魅力があるムーブメントなのです。
そしてシャンベランは、このCal.920ことCal.1120の誕生30周年記念モデルなのです。1967年に誕生したこの人気ムーブメントを祝うべく、そのローターに美しい彫刻が施されました。さらに、この魅力的なムーブメントが鑑賞できるように、シースルーバック仕様になっています。
このブログ―「トケイ通信」―では、1980~1990年代の名作に注目をする「ネクストヴィンテージ」という企画があります。そもそも、コメモレーション全体が、私たちのネクストヴィンテージのコンセプトに合致する名作たちでしょう。しかしシャンベランは、その中でも別格です。
私はこのシャンベランを、この年代を代表する“名作の中の名作”だと評価しているのです!
歴史的な存在感、機械式時計としての面白さに加え、クラシックサイズとして現在の実用にも遜色ないサイズ感(約36mm弱)である点は魅力的です。
時計史に残るかもしれない名作「シャンベラン」。覚えておいても損はない存在です。
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