31.8.2018
ロレックス|スカイドゥエラーが巻き起こす賛否 ~ロレックスにコンプリケーションは必要か?~
Komehyo
ブログ担当者:篠田
「ロレックス = 実用性の高い高級時計」
ロレックスを理解するファンの方であれば、このようなイメージを持っているのではないでしょうか。
↑ロレックスは実用性が高い
しかし、2012年、この「ロレックス=実用高級時計」というイメージを覆す問題作が登場します。
それが、「スカイドゥエラー」です(※1)。
↑スカイドゥエラー
なぜ「問題作」かと言うと、一般的に「複雑時計(コンプリケーション)は実用性が劣る」と考えられている中で、スカイドゥエラーが“複雑時計のロレックス”として登場したからです。
もちろん、“複雑時計のロレックス”が登場したことで、
「ロレックスにコンプリケーションは必要ない!」
「ロレックスにコンプリケーションが登場!?それは面白い!」
などと、たくさんの賛否の反応が起こりました。
さて、皆さんは「実用性を重視するロレックスがコンプリケーションを作ったこと」について、どう思いますか?
私は、ロレックスのコンプリケーション「スカイドゥエラー」を、好意的に捕らえています。
今週は、“私がスカイドゥエラーを好意的に捕らえている理由”を紹介しましょう。
■高級時計の「コンプリケーション」とは?
今回のテーマを理解するには、高級時計の世界の「コンプリケーション」のことを理解する必要があります。まずは、コンプリケーションについて解説します。
「コンプリケーション(complication)」は、日本語で「複雑」という意味です。時計業界では「複雑時計」と表現し、「“難易度の高い機構(技術)”が組み込まれている時計」のことを指します。別の表現として、「 雑機時計」、「複雑式時計」、「コンプリケーテッド」と言われることもあります。
↑コンプリケーション
※画像はブレゲ3355
また、時計に組み込まれる“難易度の高い機構”にもレベルの高低があり、コンプリケーションの中でも“複雑度合いが高くないもの”は、「プチコンプリケーション」と呼ばれます。そして、“複雑機構を複数組み合わせたもの”は、「グランドコンプリケーション」と呼ばれます。
では、コンプリケーションの機構とはどのようなものかが分かりやすいように、代表的な複雑機構を紹介します。
<代表的な複雑機構>
・永久カレンダー
→1~12月のそれぞれの月が持つ“日数の違い”、そして、4年に1度の“うるう年”までも計算できるカレンダー機構。 「パーペチュアルカレンダー」とも呼ばれます。
・トゥールビヨン
→重力がもたらす精度への悪影響を軽減する機構。時計の心臓部である調速機を常に回し続けます。
・リピーター
→ゴングの音の回数で、現在時刻を教えてくれる機構。暗くて時計が見れない場所でも、現在時刻を知ることができます。
その他に、「スプリットセコンドクロノグラフ」、「ソヌリ」、「カルーセル」、「コンスタントフォース」、「レゾナンス」など、様々な複雑機構が存在します。
上に挙げた機構は、多くの人から「複雑機構」と認められているものです。しかし、「難易度の高い機構」という意味のコンプリケーションも、「どの機構が高い難易度のものか」という点は、様々な意見があるでしょう。例えば、現在は「クロノグラフ」は難易度が高い機構というイメージはあまりないと思いますが、パテックフィリップは「コンプリケーション」として扱っています。
ただし、「複数の機構を組み合わせること」については、確実に難易度を上げる要素となります。そのため、複数の機構を同時搭載すると、より“コンプリケーション度”が上がる印象を受けます。
また、冒頭でも少し触れましたが、一般的には「機構が複雑になればなるほど、故障リスクは上がる」イメージがあります。そのため、「コンプリケーションはデリケートに扱う必要がある」という認識がもたれています。
■スカイドゥエラーはどんな機構?
コンプリケーションへの理解が進んだところで、次は、“複雑時計のロレックス”であるスカイドゥエラーの機構についてです。
スカイドゥエラーは、
「GMT機能」
+
「アニュアルカレンダー機能」
を持ったモデルです。
GMT機能はメジャーな機能で、“第二時間帯”が分かる機能です。例えば、上の画像のスカイドゥエラーは10時8分を指しています。同時に、文字盤の中央に24時間表示のディスクを持っており、三角形のインデックスが20時を指しています。単純に“時差がある2つの場所の時間”を表していると考えると、「10時8分」と「20時8分」の2つの時間を表していると読み取れます。
そして、アニュアルカレンダー機能(年次カレンダー)は、「ズレの修正が年に一度(3月1日)のみでOK」というカレンダー機能です。具体的に言うと、「2月(月末が“28日”もしくは“29日”)は計算できないけど、その他の小の月(“30日”までの月)と大の月(“31日”までの月)は計算できるカレンダー」ということです。“永久カレンダーの簡易版”という印象のある機構です。
スカイドゥエラーの場合、文字盤外周にあるインデックス脇の小窓で、「何月」という要素を表示します。上の画像なら、インデックス「8時」の脇の小窓が赤いので、「8月」を表しています。つまり、上の画像は、「8月7日」を表したものです。
この2つの機能を組み合わせたCal.9001を搭載するスカイドゥエラーは、十分に「コンプリケーション」と名乗れると思います。
■私がスカイドゥエラーに好意的な理由
ここからが本題の、「私がスカイドゥエラーに好意的な理由」についてです。
冒頭でも紹介しましたが、スカイドゥエラーには賛否両論があります。否定的な意見が生まれた原因は、
実用性に重きを置くロレックスが、“実用性が劣るデリケートな存在”と考えられているコンプリケーションに手を出したことにより、「信念の放棄」のように思われたから
でしょう。
しかし私は、
「スカイドゥエラーは、“実用性を伴ったコンプリケーション”である」
と、考えています。
↑実用性を伴ったコンプリケーション
確かに、一般的にコンプリケーションは、「複雑機構のため、取り扱い注意」というモデルが多いのも事実です。それは多くの場合、コンプリケーションが“デイリーウォッチ”ではなく、ブランドの技術力を示す“ハイエンドモデル”として作られることが多いからです。つまり、重きが置かれるポイントが「実用性 < 複雑さ」なのです。
例えば、「スプリットセコンド」は、「2つ同時に経過時間を計る」機能です。確かに凄い機能ではありますが、日常であまり使う場面はないはずです。そして、複雑機構を手にする喜びがある反面、操作のためのプッシュボタンや表示するための針が増え、操作性と視認性は下がることになります。
↑実用性よりも複雑さを目指す
※ランゲ&ゾーネ「ダブルスプリット」
しかし、スカイドゥエラーは違います。複雑機構を搭載しながら、従来ロレックスがもつ実用性の高いスタイルを維持しようと努めているのです。
↑ロレックスの年次カレンダー
↑パテックフィリップの年次カレンダー
通常なら、アニュアルカレンダー搭載モデルは、「何月」「何曜日」が表示できる専用の小窓を設けます。しかし、スカイドゥエラーは、「曜日」の表示を省きました。さらに、「何月」を表す表示は、インデックス脇の小さなスペースに置き、目立ち過ぎないようにしています。またGMT機能も、一般的な“GMT針”ではなく、文字盤中心の24時間ディスクで表示しています。可能な限りシンプルな表示にして、視野性を損ねないように工夫されています。
そして、操作もロレックスならではです。一般的に「日・曜日・月」の表示を併せもつ時計は、ケース側面にボタンを持っています。しかし、ボタンを設けて防水性を落としたくないロレックスは、「リングコマンドシステム」を導入しました。これは、ベゼルを回転させて設定のモードに入り、リューズ操作でそれぞれの設定ができるシステムです。従来通りの防水性も確保し、ボタンを押すための道具(コレクターピン)も不要にしました。
さらに、ムーブメントの構造は、「サロスシステム」と呼ばれる機構を採用しています。これは、複数の歯車の組み合わせでアニュアルカレンダー機構を構築し、従来の永久カレンダーのように、デリケートに扱う必要をなくしています。
つまりロレックスは、視認性、防水性、操作性、堅牢性を損ねないようにコンプリケーション作ったのです。
そして私は、ロレックスがコンプリケーションの機構に“アニュアルカレンダー”を選んだのは、実用性のためだと思っています。思い返すとロレックスは歴史上、オイスターケース(防水性)、パーペチュアル機構(自動巻)に続いて、「見やすい日付(デイトジャスト)」「見やすい曜日(デイデイト)」を開発しました。これらは“日常で役に立つ機能”です。この延長線上にある実用機能として、アニュアルカレンダーを選んだのでしょう。
つまり私は、「“日”→“曜日”→“月”」という流れで、アニュアルカレンダーに辿りついたと想像しています。1945年にデイトジャストを開発し、1956年にデイデイトを開発し、2012年にアニュアルカレンダーを開発したのです。
ロレックスは現在も停滞することなく、“日常で役に立つ機能”の追求を続けているのです!
この姿勢を感じたからこそ、私はスカイドゥエラーを好意的に捕らえているのです。
※1・・・スカイドゥエラーは、2012年にゴールドモデル326938、326939などが登場。2014年にはゴールドモデルのバリエーションを増やし、2017年、ついにコンビネーションモデル326933、326934が登場します。コンビネーションモデルの登場により、以前より存在感が増した印象です。
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